第20話 魑魅魍魎は人の心に潜むモノであり、人そのものである。

 地元警察車両と救急車で渋滞している中、俺は無茶苦茶尋問を受けていた。

 職質ではなく、尋問だ。

 証明書を見せ、聖光を出して見せ、不罪証明に関する法令について確認したにも関わらず、この有様である。

 どうしても俺を犯人にしたいらしい。銃は俺が撃ったとか、住居侵入だなんだと騒いでいる。そろそろ本気で鬱陶しいのでいい加減にしてほしい。

 因みに、俺は駐車場にすら足を踏み込んでいない。カバンを取るために上半身は敷地内に入ったが、それすらダメというのなら俺は本気で国に喧嘩を売る。

「おい!聞いているのか!」

「先ほどから聞くに耐えない冤罪を吹っかけておいて何を言っているんですか?俺が無実であることは証明されたはずですが?」

「大人しくしていればいい気になりやがって!」

「警察が法令を無視してしまいには暴力を振るうと」

「ウルセェ!」

 ご年配の刑事が殴り掛かってきた。

 あ、磯部課長…

 ガンッッ

「ぐあああっ!?」

 光壁張っているからなぁ…無抵抗ではあるんだが。

「何をしている!?」

「なんだお前は!」

「テメェのご同業だ馬鹿たれ!テメェ今何しやがった!彼に手を出したな!?現行犯で捕まえてやるよ!」

「お前に何ができるんだ!俺は所轄の人間だぞ!」

「その応援を依頼したのは俺だ!ガサ状もあるんだよ!」

「磯部課長、警察は不罪証明を無視し、ご覧になったように殴ってきたので今後裁判所依頼は一切行いませんので。この事は全ての誓文を使う聖職者へ連絡が行くと思ってください」

 俺の台詞に磯部課長が顔を青ざめさせる。

「待て!待ってくれ!それはマズイ!」

「警察の信用失墜なんてレベルじゃないですからね」

 あと、今日のことを家で佑那に話すと自動的に警視庁や警察庁の上層部へと流れる不思議。

 そして磯部課長はそのことをよく知っているためかなり必死だ。

「何故誰も止めなかった!不罪証明ができた時点でお前らのした事は不当拘束だぞ!?」

 他の制服警官らが目を逸らす。

「お前ら全員近日中に上からかなりキツい糾弾があると思え!所轄は違うが、なあなあで済むと思うなよ!?」

「おっ、お前にそれを言う権限があるのか!?」


「あ、救急隊の方、倉庫内で誘拐された女性3名いるはずですが、できれば女性警官と…ええ。お願いします」


「あるぞ?本件は岩崎案件として受理されているから関東甲信越地域で俺は警視正と同等の権限を与えられているからな?邪魔するなら容赦するなと警察庁長官、検事総長及び警視総監から特務許可証も与えられている。因みにこの件に関しても上層部直轄で動いているからな?それに俺の元々の役職は警部だ」

「………」

「お前ら出動した警官全員の確認をした上で処分依頼するから覚悟しとけ」


「ああ、お久しぶりです松谷神父。岩崎です。いえ、お元気そうで…ええ、またですが、今回は少しタチが悪く… 不罪証明を連続無視した挙句に今殴られまして…

 ええ、確認もしましたがウルセぇと言ってきて…はい。徹底すると口だけは言うのですが…今回は流石に人命無視した妨害でしたので。はい。

 検察庁側と法務省、弁護士協会の方にも…ええ、お願いします。映像も後ほど添付して…はい。お願いします。では」


 …ん?

 警察官全員がこちらを凝視している。

「───なあ、岩崎。今、誰に…」

「大田区にお住まいの松谷神父ですが?」

「…よりにもよって、松谷神父に!?おまっ、いつの間に知り合った!?」

「前から知ってますよ。恐らくすぐに通達が行くと思いますが、今回はことが事なので」

「…お前ら終わったな。暫くの間は世間を賑わすぞ?日本国内で誓約・誓文を使える全聖職者を敵に回したことになるからな…」

「なんで…」

 顔面蒼白で呆然としている年配の刑事に磯部課長が畳み掛けるように告げる。

「コイツも誓文を使えるし、なんなら松谷神父以上の誓文使いだぞ?凶悪犯罪や未解決事件を裁判ではなく直接介入し30件以上解決していて岩崎案件というトンデモ特例を作らせた張本人だぞ?」

 いや、岩崎案件ってなんですか?岩崎案件て。

「訓告処分で済めばいいな。十中八九懲戒処分だろうが」

「なっ…!?」

「まあ、助かったはずの命4名。あとは国際問題発展確実ですし」

「何!?国際問題規模の大きい事案か!?って、助かったはずの命4名って何だ!?」

「3カ国事案ですね。来週にはイギリスから捜査依頼か調査団が来ると思いますよ?4名の件については今運び出された遺体です。あれ、即死ではなかったはずなのでこの人達が邪魔をしなければ助かった可能性が高いんですよ」

 残っている救急隊員達も重々しく頷く。

 次々と運び出されていく人間の中で、6名ほど見えないように全身を包まれた遺体が運び出される。

「6人いるんだが?」

「2名は心臓、脳が腐り落ちて即死ですね」

 その場の空気が凍り付いた。

「───お前、なんて誓文をしたんだ?」

「中型魔晶石5個を対価に、もし誘拐された女性三人が居た場合は、倉庫内とこの事件に関連しているそこにいたヴィンセント及び仲間全員の臓器が一つ、腐り落ちる。という誓文ですよ」

 何故全員ドン引きを?

「な、何故?」

「それを聞きますか?俺が関わった3件の事件が繋がっているからですけど?」

「今回のと…?」

「ダンジョン内でモンスターに襲われて瀕死になっていた女性の件、ダンジョン前銃撃事件。そして中条本社ビル襲撃及び爆破未遂事件ですよ」

「…そしてこれ、と?」

「これを合わせると4件ですね。まあ、これも誘拐事件ですからね。しかもイギリスの企業令嬢誘拐」

 少し大きな声を上げる。

 あちら側に報道関係者らしき男性が見えたからだが。

「良かったですね。端口宰巡査部長。貴方の邪魔が遅れたので貴方は巻き込まれずに済んだのですから」

「なに、を?」

「警察署の机、右側引き出しの上に貼り付けている薬」

「!?」

 年配の刑事───端口巡査部長の肩がビクリと小さく跳ねた。

「尞の自室、冷蔵庫の扉部分の棚にある村山内科の袋に入っている薬の件でも良いが?」

「……」

 端口巡査部長が俺から目を逸らす。

「慈都井ペイント部長端口守…この倉庫の所有会社は慈都井ペイントですよね」

「………」

「そして今運ばれた死体の一人が端口守ですが、彼に頼まれていたんですよね。俺みたいに突撃してきた人がいたら捕まえるなりして追い返せと。薬と女、借金の肩代わりねぇ…」

「!?」

「署内でもみ消した事件件数は7件。現在地域課に弱みを握っている巡査が2名いるのか。谷口洋介と、内藤正次…へぇ、その弱みすら仕込んだ結果とは」

「な、で…何で…っ」

「お前の罪禍、全てを見通した」

 俺を見てガタガタと震え出す端口巡査部長。だが、コイツは───

「交番勤務時代に財布を届けに来た女性を襲ったな?届け出があったが、数万円足りないと嘘を吐き冤罪を掛け、脅して関係を強要。その女性は翌日自殺をした。

 まだあるぞ?所謂巡査長の頃、警邏の際に組事務所に入り浸って女を宛がって貰ったって?新聞記者がそれを調べていたのを見つけ、組の手の回っている居酒屋で話をし、薬を仕込み…

 よりにもよって組の弱みを握るために事務所付近の車道で待ち伏せをし、車が来たところで押し出して跳ね飛ばさせた。その記者は即死。

 その時ビデオカメラで撮った映像を複数箇所に定点カメラを置いていたら映っていたなんて言って組に取引を持ちかけた…どんどん出てくるな。直接殺人3件、間接殺人5件証拠が残っているのは4件か」

「ッ嘘だ!」

「ほう?嘘と?」

「作り話もっ、甚だしい!名誉毀損で、訴えるぞ!」

「ならば訴えろ。法廷で誓文を行い即処刑となるが…それに、薬物所持の時点で色々終わったと思うが?」

「───ありがとうございます…おい。机から薬物が見つかったそうだ。今テメェの上司がガサ状を請求したそうだ。良かったな」

「───は、は…」

 端口巡査部長は膝から崩れ落ち…る前に素早く懐に手を伸ばし、銃を取り出し…

「遅い、拙い」

 超至近距離でこちらの攻撃を避けるためかやや仰け反りつつの構えだったが、よりにもよって銃を少し前に構えていたため、スライド部分を後ろに押し出しながら握り、捻り上げるように奪い取った。

 手首と指が凄いことになっているが、俺ではないから気にしない。

 無様に後ろへ倒れた端口巡査部長は右手を押さえて大声で叫んでいる。

「グロック17か…確実に違法所持ですよね?」

「───お前は恐怖感はないのか?」

「この距離で例え銃を引き撃ちしようとしても制圧は出来るので。それ以前に撃たれても…」

「反射するんだったな…しかし、銃に指紋が付いたなぁ…」

「付いてはいませんよ。コーティングされているので」

 そう言いながら磯部課長にグロック17を手渡す。

「…お前ってヤツは…お前ってヤツは…」

「で?コレは現行犯で捕まえなくても?」

 ハッと気付き、所轄の警官が慌てて端口巡査部長を捕まえ、手錠を掛けた。

 なおも暴れる端口巡査部長に警官は三人がかりで取り押さえていた。

「サイコパスと言うべきか…まあ、判断はそちらでお願いします。では、帰るので女性三人の事はよろしくお願いします」

「おい!?会わないのか!?」

「これ以上首を突っ込みたくないので…では後程データは送らせていただきますので」

 俺はそれだけ言ってその場を後にした。

 ……大通りまで4~5分は掛かるんだよなぁ…タクシーが捕まるかも分からないし。やはり厄日かな?


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