第76話 俺らの七日間駆除②


 早朝から大佐の所に行き確認をしてきたわけだが…

 今日、講義あるんだよなぁ…

 無論講義をさぼることはないが、相手の拠点が全て遠い。

 大学から片道徒歩30分の拠点はないとなると、講義後の1~2時間か夜しかなくなる。

『昨日みたいに死体を操るのは?』

 藤岡…いや、今は真綾か。真綾が提案してきた。が、

『アレはあまり遠くまでは出来ないだろ?』

 操れて50メートル。僅かな障害物や遮蔽物があると20メートルが限界らしい。

『じゃあ死体の中に入って…』

『未熟なお前だと出られなくなる可能性もあるぞ?』

『………』

 あっ、拗ねた。

 まあいい。講義に出よう。

 その前にちょっとした依頼をしておこうか。



 大学を出た瞬間に何故か周囲を某国の人間が囲んでいる件について。

「一緒に来て貰おうか」

「断る」

「断れるとでも思っているのか?」

「銃や刃物が通用すると?しかもそんな劣化呪具で。ああ、向こうの車両に居る連中含めて逃げられないからな?安心しろ。今警察が優しく突っ込んできてくれる」

「っ!?」

 男達が俺を捕まえて逃げようとしたが、見えない壁にぶつかり呻いている。

 因みに車も聖光壁を囲っているので…ああ、何もない空間にグシャリといったか。

 俺の事知っているのであれば俺の戦術も分かるはずなんだがな。

 息を吐いたところでパトカーと護送車がやってきた。

「おまっ、また狙われたのか!?…で、今度は何処の組織だ?」

 磯部課長がこちらを見るなりあからさまなため息を吐いた。

「さあ?1人はどこぞの国の大使館職員のようですが」

「なに!?大使館の人間が人を使って誘拐を企てているだと!?」

「声が大きいですよ」

「あ、ああ。スマン…お前、とうとう国と喧嘩するようになったかぁ…」

「と言うよりも深層に入る探索者は大抵どこかの国の横槍が入りますよ?」

 大人しく運ばれていく連中を眺めながら「このパターンが多いな」と鼻で笑う。

「何?」

「殺さなくても採掘者程度であれば強くはないし、採掘した物を奪えば良い。ハンターと採掘者の間に溝があるように、他国探索者は貴重資源を奪い、邪魔をするという多国間の溝もあるんですよ」

「…マジか。と言うことは此奴ら、そう言った手合いと?」

「断定は出来ませんが。高ランクの探索者に聞いてみたら良いですよ。モンスターのなすりつけや故意の間違いによる攻撃…

 怪我を負わせて置いて稀少なポーションを使い借金で縛る無法地帯だ…まあ、殺人を起こしたら結界で守られているダンジョンは入れなくなるがそれはどうやら国単位。外国勢は面倒な連中を始末して悠々と帰って行ける」

 俺の説明に何か気付いたようだ。

 磯部課長は俺をギロリと睨み付け、小声で確認をしてくる。

「お前、どれだけの紐付き組織とやり合った?」

「4カ国。うち3カ国は無事話し合いで解決したし、部隊を助けたりしているから友好的だし問題は無い。ただ1カ国は平然と恩を仇で返す連中だ」

 少し声量を落とし、いつもの調子でそう返す。

 最後の男が連れて行かれながらもこちらを睨む。

「…さて、動画拡散も終わったか?」

「は?待て。それは…っ!?」

 何人かがスマホを構えているのを見て磯部課長は慌て出す。

「おまっ!知っていたら止めろよ!」

「俺の顔には霊障的な意味でノイズが掛かっているから問題は無い」

「ええええ?」

「それに、困るのは大使館の人間だぞ?堂々と大使館の人間だと言えなくなる。数人が動画を上げているし、何より奴等何を焦ったのか他にも人がいるなかで、急に俺だけを囲んできたからな」

「…その一部始終を映しているという保証は?」

「もうネットにアップされている。しかもそこそこ名の知れたインフルエンサーらしいぞ」

「…ネット怖ァ…」

「相手の顔は晒されている。恐らく誰が大使館によく出入りしているのかすら数日内でバレるだろうな。まあ、その前に公安が動くか」

 動き出した護送車を見送っていると磯部課長が「おい」と声を掛ける。

「あの車もか?」

「思い切り外ナンバーで分かりやすいだろ?アレの後ろの通常ワゴンは連中が乗ってきた車だ。それも複数人の動画に上げられている」

「お前まさか…」

「最近殺しに掛かってきているからそろそろかと思ってな?」

「いやお前何をしたんだよ…」

「救助活動をした逆恨みだな。さっき言ったように擦り付け行為や不意打ちをした挙げ句ポーションなどを勝手に使って借金まみれにし、奴隷の如く使うと言う事が増えているんだよ。以前協会にも報告した際はカウンターで門前払いだった」

「………もしかして、あの警官がグルだった事件の頃か?」

「アレよりも少し前からだな」

 磯部課長がくそデカため息を吐いた。

「警察の縛りや限界が多すぎる…」

「悪法でも法は法、制度は制度だ。ダンジョン内では法は適用されない。神々がある程度協力態勢を整えてくれるのを期待するしかないな」

「気を付けろよ」

「善処する」

「善処だけで済ますんだろうな…」

 俺の返しに磯部課長はまたくそデカため息を吐いた。

 背中が煤けている気がするんだが、幸せ逃げすぎたからああなったのか?



 さて、今日も返却作業だ。

 大学からバイクで20分ほど行った所にあるコンビニへと向かう。

 オーナー含め全員がその道の人間だ。

 オーナーは2世でバイト生は全員留学生等。

 …そしてこのコンビニ、監視カメラが異様に多い。

 駐車スペース含め外に監視カメラが12台。

 しかも高性能カメラ。

 顔のデータでも取りたいのだろうか。

 入るのは悪手。しかし今回は店に入るわけでもない。

 駐車場には巡回のためか警察官がパトカーで乗り付けてきており、中で買物をしているようだ。

 ストレージから遺体を一つ取り出して歩かせる。

 それは普通に店内へと入っていき、直後に悲鳴が上がった。

「…よし。次だ」

 変装をしていた俺はソッとその場を離れ次へと向かう。



 北上し国分寺市まで来たところでバイクを降りて自身の周囲に展開している聖光壁を調節。光学迷彩のようにした後、身体強化を掛け全力で武蔵野市へと移動する。

 そして目的地の連中の拠点に到着したので遺体を───ああっと、うっかり官舎に置いてしまった。これは逃げなければ…サラバダー!

 背後で警備員らしき人が騒いでいるが俺の姿は光学迷彩で見えていない。

 よし、次へ行こう。



 その後2ヶ所回った時、磯部課長から電話が入った。

『お前さんの自宅周辺で武器を持った連中が泡吹いて倒れているのが発見された』

「始末しておいて下さい」

『出来るか!…とりあえず探索者であることは確認できたが非常時でもないのに武器をむき出しで持っていたんだ。一応捕まえてぶち込んではある』

「この分だと佑那と友紀を襲いそう…いや、襲った後かも知れないな」

『被害届は出ていないが?』

「あの周辺警備、あの猫だぞ?特に友紀を襲った場合は親玉まで乗り込みに行くと思うぞ?」

 友紀が寝ている時はソッと布団に潜り込み、起きる前に逃げるという懐きようツンデレだ。本当に何か起きたら色々危険だぞ?

 知らんうちに相手が仏敵になっているとか、大使館が獄卒に襲われるとか、本国の大会議場に夜叉達が鉄拳を落とすとか…ありそうで怖いな。

 あの砂糖壺毘沙門天土産に日替わりで砂糖入れているしなぁ…まあ、襲われるとしても本国の諜報機関組織だろうが。とっとと家に帰って確認しよう。



「あ、おかえりなさい」

[お帰りなさい兄さん]

 自宅は何ともなかった。

 ただ、白獅子達が庭の見えないところで遊んでいる辺り厳戒態勢のようだが。

「今日、何かあったか?」

 とりあえず不審なことはなかったか聞くと佑那がすぐに反応した。

「あー…学校帰りに変な人達はいた。ただ、友達が送ってくれたから」

[あっ、僕も商店街の入口で見かけた…でもいつの間にか居なくなってたよ]

「……まあ、うん」

「お前を守っている連中は凄まじいな…」

[?]

 うん。友紀…お前はそのままで居てくれ…

「で、結羽人兄さんは何と戦ってるの?」

「多分国家。もしくは国家内の一組織」

[えっ?]

「あー…日本じゃなくて外国なのね。了解、暫くあまり外出しないようにするわ」

[兄さん、大丈夫?痛いことしない?]

 友紀がちょっと涙目だ。

「痛いことはそんなにないと思うぞ?そもそも俺の守りを突破するのはかなり大変だからな?」

[それフラグじゃあ…」

[むしろフラグ上等。それが新たな学びとなる」

[どの方向へ向かっているからそんな好戦的な事平然と言えるの!?」

 えっ?……家族の幸せの方向だが?

 いやマジで今後この情勢は悪化するだろうから武力に限らず力は必要だぞ?

 ただ、友紀はそう言った荒事は好きではないだろうから…ある程度は取り除いておかないとな…


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