第43話 兄者、まぁた巻き込まれたってよ。


 恥ずかしながら帰って参りました。本当にな?

 話を聞くと言われ、聖光をして不罪証明をしたものの何故か納得してもらえず。身元の確認を依頼。

 その間ダンジョン近くの協会事務所で犯人のような扱いだった。

 それが変わったのはどこかからの電話があってから。警官らが急にギクシャクとしだし、慣れていないであろう敬語を使い始めた。

 そして15分経たずにパトカーが2台到着。

 お偉いさんと思しき人がスライディング土下座をせんばかりの勢いで「もおおおしわけございませんっっ!」と謝ってきた。

 これには事務所内大パニック。

 まあ、身元は保証されていますし?冥界の映像を見るか?どうなるか分からんが…と聞いても無視していたよな?

 そこの警備員も俺のこと覚えていたしこの女性が入っていないことを確認していたのに婦女暴行とか誘拐とか言っていたのはなんなんだろうな?

 第一彼女が助けられたと言っても「何か薬を使われたか脅された」とまで言ってきたんだが?

 そんな事をやさーしく直球で伝えると全員の顔面が蒼白。

 一応この事は各上の方に伝えるのでそのつもりで…え?もちろん警察庁と協会本部です。ああ、不罪証明が無意味であるかのような扱いもあったので松谷神父を通してもう一度声明を発表することになりそうですね。



 ───などとやっていたから帰宅が18時を過ぎていた。

 一応友紀には「トラブルがあったので少しだけ遅くなる」と伝えていたから問題は無かったが…何というか、味方と思っていた組織に後ろから撃たれるというケースが多すぎワロタ。

「本当に警察を敵視してやろうかな…」

[兄さん、大丈夫?ギュッてする?]

「結羽人兄さん…兄さんが言うと本気で洒落にならないからヤメテ?」

 弟妹に心配とツッコミを入れられてしまった。

 今日の出来事を話したら二人とも「あー…」と納得してはくれたが。

 佑那は早速と友達に内容をリークしていた。

 次に行くのはおよそ一ヶ月後。

 別のルートから冥界に行けないかと情報屋に確認をするが、返ってきた答えは『黄泉平坂と黄泉がえりの井戸しか安定して行けない。関東に2箇所あるが何処に跳ばされるか分からない』という回答だったので断念。

 さあ食事も終わったし、ダンジョンに行くか。


 と、ダンジョンに入って下層を越え深層階。

 現在、特殊部隊と思しき5名から銃を突きつけられている。

 重傷を負い動けずにいる奴を庇いながら戦鬼…鎧を着た鬼と戦っていたから助けただけなんだが…少なくともそんな銃で勝てるような奴では無いし、通常物理攻撃は無効という最悪な相手だ。

 正確に言えば一定以上のダメージに関しては通常と言わないので攻撃は通る。

 下層以下で銃火器が効くかと言えば、ほぼ効かないどころか発砲音で他の妖怪やモンスターが来る可能性すらある。

 それを自衛隊や対ダンジョン殲滅部隊が知らないわけが…と言うよりも、

「日本人では無いな?」

 5名のうち3名が僅かに片足を下げて俺の動きに合わせていつでも反応できるように身構る。

 ただ、腕は余裕を持ち、即座に撃てるようにしている。

 それはいい。が、俺に集中しすぎているのはどうなんだと言いたい。

「良いのか?そんな事しても。お仲間さん、喰われるぞ?」

 俺の台詞に一人が仲間の方を見て「AAHH!wait、wait!」と言いながら銃をそれ目掛けて発砲する。

 そこにいたのは餓鬼だった。ただ、中下層にいるような餓鬼ではなく無財餓鬼。

 コイツの恐ろしいところは「食べられない」事にある。

 無財餓鬼は倒れている奴の足を手にして何か考えているようだったが、口を開ける前に弾丸が餓鬼の顔面を捉える。が、

 ポンッ

 口に当たった弾丸は軽い音と共に小さな炎となって消えた。

 そこで漸く俺よりも不味い相手だと悟ったのか俺に対して二人を残し残りが全員餓鬼目掛けて発砲する。

 だが、まるでポップコーンを作っているように小気味のいい音がし、弾丸は燃えて消える。

 餓鬼が足を掴んでいるせいで上手く体に当てることも出来ず消極的発砲しか出来ない変な状況になっている。

 俺に銃を向けている2人のうち1人が銃を下ろして倒れている男の元へ走ると、倒れている男を何とか運ぼうとし始める。

『俺にかまけていて良いのか?アレは一体では終わらんぞ?』

 銃を構えている奴にそう言うとソイツは銃を構えたまま少しずつ立ち位置を変え、上層階への道を確保すると『撤退だ!』と言い、走り始めた。

 それに続いて4人も倒れている奴を気にしつつも移動を始める。

 一人を切り捨てて5人の安全を取った形だ。

「はい、お疲れさん」

 俺はマジックバッグから友紀の作ったおにぎりをその餓鬼に差し出す。

 餓鬼は掴んでいた足を離し、おにぎりを受け取ると、初めて食べることが出来ると分かったのだろう。

 勢いよくそのおにぎりを食べ始め、存在が消えていった。

 ───友紀のおにぎりは凄いなぁ…施餓鬼法要でなくても餓鬼を成仏させるのか…

 さて、倒れているコイツをどうするか…

 ボディアーマーは完全に裂け、ESAPIプレートすらも斬り裂かれている。

 僅かに裂けた服と腹部の出血からして内臓に若干のダメージはいっていることを考慮し、ポーションを患部に直接流し込む。

 痛みでビクリと体が震えるが無視。

 あの時ほどの重傷でもないが、服が邪魔だ。

「スマンが、治療に邪魔だから服とかぶり物を脱がすぞ」

 そう断り、まずはかぶり物を外し…

「やたら体の線が細いと思ったら、やはり女性か…」

 これは、服を脱がすと問題になるパターンだろ。

 仕方ない。もう1本使うか…

 彼女の上体を起こしポーションを飲ませようとするが、反応が無い。

『おい、起きろ!』

 声を掛けるが返事は無い。

「───仕方ない」

 俺は抱き起こしたまま抱えていた腕を一瞬緩め、瞬時に手首をスナップさせて腕に力を入れる。

 衝撃で女性は呻き、目を覚ます。

『ポーションだ。飲め』

『ぅ、あ…済まない…』

 まだ意識が朦朧としているようで素直にポーションを飲み…即座に飛び跳ね起きて俺から距離を取った。

『誰だ!』

『ただの探索者だ。お前がお仲間5人に見捨てられたから代わりに助けてやったんだが?』

 そう言われ、女性は腹部を触る。

『裂傷部に1本振り掛け、もう1本を飲ませた。動けるだろ?』

 そう言うと驚きで目を見開く。

 まあ、ポーションの価格、凄まじいからなぁ…

『…私を襲ったモンスターはどうした』

『どんなモンスターだ?』

『オーガだ。日本の鎧を着た。それと子どもくらいの大きさで、口から火を出していた…』

『ああ、鬼は倒した。知っていて全員撤退したのか。あと子どもくらいの奴はガキの一種だ』

『ガキ…中層域や下層域ではモンスターはいなかったぞ?それにあのオーガを倒した!?特製の弾丸も効かないんだぞ!?』

『このダンジョンに出てくる妖怪の類いは俺が定期的に倒している。アレに普通の攻撃は効かない』

 あと、生半可な聖属性も効かないな…マジで術者系や聖者職関連を鍛えないとこの先詰むぞ…

 落ちているM4を拾い上げてロックし、彼女に渡す。

『ベースの大佐殿に伝言を伝えてくれ「岩崎が貸し2追加と言っていた」と』

 彼女は銃を受け取ると俺から距離を取る。

『それと、これを手土産に持っていけ。そうすれば会えるだろ』

 マジックバッグから小さな魔水晶を一つ取りだし、彼女に投げ渡す。

 恐らく武器の性能テストとこれを求めてだろうが…俺がほぼ毎日ここに入っていることを分かっていて選んだんだろうな…保険として。

 小さくため息を吐きとっとと行けと追い払うジェスチャーをする。

「今日も厄日だ。なあ?」

 奥の方に目をやる。

 そこには光壁に阻まれている妖魔が数体いた。

 あちらさんもこちらさんも二十年以上何やっているんだか…

 物理が無理ならオカルト。

 それでも無理なら歴史研究とか考えないのかねぇ…


 基本、人は妖魔に勝つことはできない。


 しかしそれは基本であり例外はある。

 古来から、いや古来にはあった退魔の技術。

 ただそれも本来倒すまでには至らないらしいが、現代含めその技能で倒すことのできる人間は僅かながらいる。

 偏重の弊害か、それともそう仕向けられているのか。

 人は見えざる者、そして超常の者等に対し一方的に勝利を宣言し、対抗する術を放棄した。

 そして現れたダンジョンという存在。

 これが最後の審判であると気を引き締めれば問題なかったはずだが…人は都合の良い思考を優先する。

 ダンジョン発生時に負った痛手を忘れたかのように物理一辺倒で挑む人類。

 魔法職等であってもモンスターは屠れるが、妖魔はそうもいかない。

 ただ、銃火器よりは遥かに有効だ。

 有効ではあるが、特別効くわけではない。

 目の前の光壁を叩く鬼達を前に歩を進める。

「さて、貴様らからは何が採掘できるかな?」

 俺はそいつらに右手を向けた。


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