第56話 教えて兄者先生!(大学祭特別講座:リハ)
2人にお披露目したらはしゃがれた。
特に友紀がめをかがやかせていた。
それを見られただけでも価値は、あった!
その後友紀が髪型を弄ってくれたので…鏡を見た時は「これが、変装」と本気で思ってしまうレベルの変わりっぷりだった。
佑那がその様子を見て「え?メイク無しでここまで?何で?」と固まっていた。
[僕メイクは分からないし、兄さんはメイク無しで大丈夫だよ]
「ふむ…では今日はこれでダンジョン採掘に行くか。講義素材映像と現物採取に」
「[えっ?]」
「ちょ、ちょとぉ!?」
入り口前で警備員に止められた。
「何か?」
「いやあの、君ねぇ…武器も何も持たずその格好とカバンのみって…動画撮影?」
肩に着けている小型カメラに気付き、成る程と頷く。
「はい。講義に使う動画撮影です」
「うーん…ただいくらすぐ側で採掘をするとしてもモンスターはでなくても獣はでるからなぁ」
「普段は別の格好で深層域まで潜っておりますので」
「!?………ああ!」
俺の台詞に暫く俺をジッと見た後、誰なのか漸く気付いたようで目を大きく見開いていた。
「確かに、普段から素手だったな。しっかし…そんな格好と髪型だと分からないもんだなぁ、目つきまで違って完全に別人だよ」
そう言われると苦笑するしかない。
「では、失礼します」
ゲートを潜り、ダンジョンの中へと入る。
ギョッとした顔をする者や採掘を止めてガン見してくる者など様々だ。
さて、まずは上層域で採掘をし、続いて中層域、下層域と行くか。
襲いかかってこようとした狼を睨んで追い返し、最寄りの人気のない採掘ポイントへと向かう。
後ろで「睨んだだけで狼が逃げたぞ!?」「いやありえんだろ…実は実力者の罰ゲームか?」など聞こえるが気にしない。
───あながち間違いでもないし。
上層域、中層域の採掘はアッサリと終わり、途中出て来た狼や猿、熊も撮影しつつ蹴散らす。
下層域に入りいつも通り気配が変わる。
やはり入っている人間が少ないからか妖魔の類が気持ち多い。
小鬼、餓鬼、死人が押し寄せてきたので光壁を前面に展開した後、その光壁を殴って押し潰す。
悲鳴を上げながら潰され、魔水晶も強制浄化されて聖水晶片等になっていく。
そのまま採掘ポイントへと進み、近くに定点カメラを設置した後に採掘を始める。
と、大きめなマギトロンやパラジウムインゴットがゴロゴロと…
「何故パラジウムが…まあ100グラムだし問題無い…タングステン?キロ単位か」
採掘し、ロイヤーズバッグに詰めていく。
と、殺気を感じ斜め後ろへと跳び退く。
ドォォォンッ
採掘ポイントに大鉞が突き刺さった。
大鉞を投げたのは誰なのか確認すると、そこに居たのは黒鬼だった。
「鬼が鉞?…斧ではないのか?」
こちらを睨み吠える黒鬼。会話の出来ないダンジョン生まれの黒鬼か。
「去れ、ここは魔の地なれど神の域なり」
言葉を発し辺りに聖光をまき散らす。
「神光と神々の名に於いて、去れ」
一応鬼相手の肉弾戦を講義用映像資料にするのもなと思い告げたが、相手は殺る気満々だった。
「こちらへ一歩たりとも前へ進むこと罷り成らぬ。進めばその頸落ちるものと思え」
鬼はその言葉を戦の鏑矢と判断したのか一気にこちらへと踏み込み…頸が落ちた。
「だから言ったのだが、試験的に聖光で糸を紡ぎ入らぬよう軽く張っていたんだがな…今後の課題か」
俺はため息を吐き、大ぶりの魔水晶を拾い上げて採掘ポイントを見る。
鉞は刺さったままだった。
「まあ、戦利品という事で。辺りに鉱物も散らばっているし…至れり尽くせりだな」
大鉞はマジックバッグに入れ、鉱物はロイヤーズバッグに放り込んで帰り支度を始めた。
さて、該当ダンジョンの上層部から下層部までの主な採掘品と獣やモンスターについては資料をまとめ、映像も用意した。
現時点での買取価格帯や税についてもまとめている。
分からない人からすると簡単な仕事と思われかねないし、力試しをしたがる連中も居るだろうが…まあ、光壁を展開しておけば良いか。
こちらの準備は完了している。後は…詳細を聞くだけだ。
諸悪の根源へ話を聞きに行く。
「大講堂に決まったよ!大講義室の予定だったけどちょっとアンケート取ったら予想以上に好評でね!」
なんて事をしてくれやがったんだこの講師…
「俺は一般人ですが?」
「でもそれだけの知識と技量を持っているんだから!」
「本音は?」
「無茶苦茶授業受けたいです」
駄目だこの講師…
作ったレジュメ2種と各資料を講師に渡す。
講師用のレジュメと受講者用のレジュメ、そして各資料だ。
「おー…流石に君でも講師用のレジュメ用意するんだ…」
「貴女用ですが」
「えっ?」
「どうせ映像記録としてカメラ各所に設置するんですよね?」
「バレてる!」
「なので先に渡しておきます。イレギュラーがあったときこれを見れば進行がどうだったか分かると思うので」
「…時間配分も画像や映像説明時間まで入ってる…用意する物まで…」
「では、当日までお楽しみにと言うことで」
「えっ?映像や画像はないのかい?」
「既に準備は終わっているので…前日にでもリハーサルを行いますか?」
「勿論!リハは講義受けている生徒達に声を掛けるから楽しみにしていて欲しい!」
……リハーサルでそんな大事にされても困るんだが?
リハーサルには他の講師や見知らぬ教授、学生…中務省の職員十数名の合計213名が来ていた。
講師は「資料は五千部刷ったから問題無いよ」と恐ろしいことを言っていたが、聞かなかった事にする。
「では始めさせていただきます。質疑応答含め諸々のことは一度レジュメを進めた後に行わせて戴きますのでよろしくお願い致します。まず始めに───」
ゼミ論発表かと言いたくなるが2日で仕上げた資料だ。
ただ、現在の俺の格好を見て全員が「えっ!?」っとなっていた。
「今回は身バレを防ぐために色々偽装しております事をご了承下さい」
と言い一礼すると全員が「あ、はぃ…」と気の抜けた返事をしていた。
画像、映像、現物を見せながら1時間の探索者概論と実践で陥る事などを説明していく。
始めは胡乱げな目で見ていた十数人も次第に目の色を変えて映像と画像資料等を見るようになっていき、終わる頃には全員が真面目な生徒になっていた。
「以上で私の講義を終え質疑応答に入りますが」
「はいっ!」
井ノ原技官が瞬時に手を挙げる。
「どうぞ」
「それらの資料を第三者が公表しても大丈夫なのですか?」
「仰っている意味が良く分かりませんが、皆さまにお渡しした資料は私が自分で現地へ行き、採掘し、調査した資料ですので問題はありませんし、どうぞご自由にお使い下さい。協会の方も見えられているようですので、再調査後にでもどうぞ」
ざわめき出す聴講者達。
「あの、途中で出た光の壁なのですが…アレは」
一般人らしい男性が手を挙げて質問をしてきた。
「あの光壁は皆様に見やすいように光らせていただけで、今現在この教壇周辺を光壁で囲っておりますし、最前列の前にも展開しています。気になる方はご確認を」
俺の台詞に全員が確認をする。
中には殴ってみたり、道具を使って破壊を試みるが…弾き返されていた。
「現在展開中の光壁は10の力で攻撃を加えても1程度しか反射しないよう調整しております」
『えっ?』
全員がこちらを凝視する。
「あのぉ…この光壁って、モンスターを潰したりしていましたけど、銃弾とか弾いたり…」
先程とは別の、恐らく探索者女性がおっかなびっくり聞いて来た。
「はい。弾きますよ。甲種探索者…ハンターが放つスキル横一文字の威力はご存じでしょうか」
「えっと、はい。私も探索者なので…」
「隣の貴方も探索者ですか?」
「ああ。甲種のハンターだ。横一文字も出来る」
体格や佇まいから見て攻防両方できるタイプと見られるその男性は静かに頷く。
「では、こちらの鉄棍でそれをして戴いても?」
「は?」
「ああ、これが本物かどうかお確かめ下されば…」
俺は鋼鉄製の一寸径の六尺棒を取り出し、一番前のテーブルの上に置く。
「おっ、も!」
持ち手の部分を普通に持ち上げようとした講師が即断念した。
「……確かに、重い」
聴講者達がそれぞれ確認していった、が…
「これ、鋼鉄棍ってなっていますけど!?」
どうやら中に鑑定持ちが居たようだ。
「ええ、その方が頑丈ですから。ああ、ご心配なく。反射率は更に落しますので振った本人にダメージはありません」
「そんな事も…」
男性はそう言いながら棍を持ち上げ前へ進み出る。そして教壇の前に立ち、こちら目掛けてスキルを使い全力で横に振った。
「…は?」
男性が何が起きたのか分からないと言った顔で当たった所を見る。
「当たったが…え?何だこれ…」
もう一度横薙ぎを行う。
風を叩く音がし、棍はその先に行かない。
「わけが、分からない…何だこれ」
そう言いながら何度も鋼鉄棍で薙ぐ。
しまいには素手でファイター系スキルを発動するもやはりその場所で止まった。
「ありがとうございます。実はこれ、神聖職が使う聖光の応用です。私は聖者職なので基本武器の使用は出来ないので…」
鋼鉄棍を片付け、そう言うと知っている人以外の全員が化け物を見るような目でこちらを見た。
「因みにですが、先程の横一文字、あの鋼鉄棍で甲種の熟練探索者がスキル横一文字を行った場合、戦車がひしゃげます。スキルで発動者とその武器は強化されますので対物ライフルレベルの攻撃が出せるという事です」
そう補足をした。
「他に質問は?」
………予想以上に質問が多く、質疑応答30分の予定が1時間を過ぎてしまった。
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