第57話 教えて兄者先生!(大学祭特別講座)本番!


「…ないわー……これは、ないわー」

 大講堂満員御礼。立ち見まで発生した挙げ句講師や技術者が録画の他に屋外モニターを緊急でレンタルして設置したらしい。

 ただの学生なんだが?屈強な連中と中務省の人間と分かる連中が最前列と次列をしっかり埋めているのはどういう事だ?

 今、心から友紀に感謝を捧げている。

 役になりきろう。緊張はないが、流石にこれは身バレ厳禁だ。


 概論が終わり、質疑応答が始まる。

 やはり光壁の質問が出たので同じような対応をしたら、一人だけ戦闘狂が居たようだった。

 タンクトップにホットパンツといった格好の女性は一気に最前列まで跳び、光壁目掛けて双剣で連撃を放つ。

「なんだよこれ、マジで効かねぇじゃねぇか!」

 光壁を蹴り、更に虚空を蹴って元いた所に着地をする彼女。

「今の攻撃は追跡者シーカーの双狼連撃ですね。失礼ですが、甲種探索者の方でしょうか」

 俺の問いに「ああ」と答えてニヤリと笑う。

「スゲぇなアンタ。俺のあの技、鬼にダメージを与えられるのに!」

「それは技でダメージを与えたのではなくその武器の力ですよ」

 瞬間、場の空気が重くなる。

「何?」

「現在張っている光璧の反射率は限りなく0に近くしているので防御力は鬼の金棒2~3発分です。これを破れないのであればとても…

 そちらの双剣、一度信頼の置ける鑑定者に視て貰う事をおすすめします」

「テメェ、言うじゃねぇか」

 その女性は吐き捨てるようにそう言ってこちらを睨む。

「一度光壁を解除しますので、前へどうぞ」

 光壁を解除したと同時に教壇前に跳んできた。

「で?俺に何をやらそうと?」

「簡単なことです。私に一撃を与えて下さい」

「はぁ?」

「勿論殺す気でどうぞ」

 俺の台詞に女性は殺意を隠そうともせずこちらを睨む。

「基本、ダンジョン産の鬼は五色の鬼がおり3タイプに別けられます。物理攻撃特化、術式特化、速度特化と───」

 説明をしている最中、双剣で真っ直ぐ頸を狙ってきた。

「残念ながら、素直すぎます」

 女性の左手を往なして地面に引き倒し、ホールドする。

「速度特化の3タイプありますが、少なくとも速度特化型は彼女と同等かそれ以上の速度を有し鬼の頑健さも持つ厄介な敵です。他に質問等はありますでしょうか」

 彼女から距離を取り周りを見渡す。

 彼女も起き上がり、少しふて腐れたようにこちらを見ている。

「あの、どうしてそんなに強いんですか?特殊職ですか?あと、その格好は…」

 男性が挙手をして質問をしてきた。

「私は神聖職で聖者です。強い理由は自分に出来る事を突き詰めスキルに疑問を持ち基礎と応用を常に考えているかどうかです。格好に関しましては身バレ防止のため執事コスプレをしております」

『えっ』

 大講堂内の全員がギョッとした顔で俺の方を見た。

「不罪証明を行いましょうか?先程解説の中で軽く触れましたが、聖光を応用し作り上げた一つがこの光壁です。神聖職を甘く見ていたらとんでもない目にあうという一つの教訓ですね」

 微笑みながらそう言うとどよめきだし、側に居た彼女も「俺、聖者に負けた?」とショックを隠し切れない状態だった。

 他に3~4つほどの質問に回答した所で時間となったので第一回目のは無事終わった。



「いやぁ…途中乱入はありましたが、何度聞いても良いですねぇ!」

 講師がホクホク顔でやってくる。

「それはなにより…飽きもせずに連続聴講ですか」

「無論だとも!同じ講義なのに新たな発見がある!何よりも質疑応答が良い!そして…本当に資料を見ずにやれるものなんだな」

「まあ、作ったのは私ですから」

「今回鬼の話が出たが、鬼に対して詳しすぎないかね?」

 講師がジッと俺の方を見る。

「全ての鬼とは戦っていますから。半日以内で行き来できる7割のダンジョンは既に深層まで潜っています。私は基本毎日ダンジョンに潜っていますから」

 3割は駅から遠く離れているか、深夜は入れないよう警備会社がロックを掛けている所だが。

「もしかして、あのレベルの探査を毎日?」

 何故か講師が愕然とした表情でこちらを見ている。

「ええ。弟や妹の生活の為にも財産は残せるうちに残しておかないといけません」

「───えっと、会社経営もしているんだよな?」

「任せっきりですが。もしトラブルがあっても専用口座金額以上の問題は起きないよう目を光らせていますよ?」

 関係弁護士や一応出資者の松谷神父などが。

「不動産会社だよね?」

「一つはそうですね」

「身の安全最優先じゃないの!?社長さん!」

 講師が吠えるが、そうも言ってられないんだよなぁ…

「あー…午後はその件も少し触れましょうか。何故強くならないといけないのかを」

「えっ!?更に詰め込むと!?」

「実例を挙げながら現在世界や日本で何が起きてこの先どうなるのかと言う話を15分程。採掘関連の説明を資料参照にし、現物を展示させる方法に変えれば問題ありませんので」

「これ絶対にお金取るレベルの講義だよ!」

 俺の説明に講師が頭を抱えた。

 いや知らんし。おのれ等が無理くり計画したんだろうが…おっと失礼。



 ───ええ、はい。

 現在午後の講演を行っておりますが、最前列には軍人さんが複数人いるんだ。

 外国の方も多いなぁ…見知った人もいるし。

 予定通り鉱物関連を端折って追加項目となる『何故強くならいといけないのか』を話す。

「皆さんはダンジョンを恵みと考えますか?それとも罠と考えますか?」

 その問いかけに聴講者達はざわつく。

『Mrそれはどういう事だろうか』

 最前列の見知った軍人が質問してきた。

「質問を質問で返されてしまいましたが、私は「皆さんはダンジョンを恩恵のみでリスクはほぼ無いとお考えでしょうか」と問いたいのです」

 ざわめきが大きくなっていく。考えたこともないという顔が多い。

「この十数年で日本の平均寿命がおよそ10歳落ちたのはご存じですか?」

 その問いに対しては半数以上が分かっているようで頷き、もう半数は「えっ!?」と言う顔をしていた。

「ダンジョン侵攻、またはダンジョンスタンピードによって一時数万人の尊い命が失われました。その後現在まで20代から40代の死亡者が増加していますが増加したうちの7割がダンジョン探索によって亡くなっています。しかし残りの3割はと言うと…ダンジョン外での妖怪・モンスターによる被害です」

 大講堂内のざわめきが止まった。

「かつて姿を消していた妖怪が再び姿を現している。虎は既に野に放たれているのです。中務省が復活した理由を何故皆さんお忘れなのでしょうか」

 あっ、と誰かが声を上げた。

「ダンジョン上層部にも稀に餓鬼や小鬼、屍人がでますが、中層域、下層域、深層域となると絵巻物などでしか見ないような妖怪を見ることがあります。

 そしてその数は年々増えているのです…と、言葉だけでは誰でも言えますしそんなもの陰謀だと言われたらそれまでです」

 全員が静かに傾聴しているのを確認し、とある映像を見せることにする。

 合成だCGだと言われる事はまず無い原初の恐怖をこれから見せる。

「資料としてお渡しすることは出来ませんが、映像としてこれらを見て戴く必要があるのでお見せ致します。ただ、会場内の皆様の中で心臓に持病のある方、怖がりな方は見ないことをおすすめいたします。いいですか、心を強く保ち下腹部に力を入れて下さい。では、お見せ致します」

 映し出されたのは以前出会した妖怪片輪車。

 見たら死ぬ系妖怪だが、退治もしているし念のために聖光でフィルターも掛けている…が、やはり全員分かったようだ。

 各所で悲鳴と絶望の声が上がる。

 次は鬼や小鬼、餓鬼の群れが光壁を叩いている映像。

 鬼が金棒で光壁を殴り反射され、小鬼が被害を受ける。

 強力な殺意と敵意は作り物や演技では無理だろう。

 映像を切る。

「いつかはこれらが外に出るのです。最初の映像に出ていた妖怪は片輪車。見たら死ぬと言われたりする妖怪ですが、現場でもそうですが聖光と光壁越しですので死の恐怖を感じる程度かと思います。

 そして次の鬼の群れに関しては既に討伐済みですので問題はありません。が、これらの映像は東京都内の下層域で出会した時の映像です」

『待ってくれ!君はアレだけの化け物を倒したのか!?』

『ええそうです。大佐殿、貴方は私のことを知っていますし、そこの女性も私のことを覚えていると思いますが?』

 そう返すと二人はまさかと言った顔でこちらを見ている。

「さて、話が長くなりましたが、すぐにではありませんがこういった手合いと戦わなければならない日が来るので強くならなければならないのです。

 が、勿論個々の力には限界が有り得手不得手もあります。

 戦闘が不得手な方々は自分の持つ得意分野を生かし備えることををして戴ければ幸いです。最後に───」

 以前久我瑞穂さんに話した各種対処法を話し、2~3程度の質問を受けて午後の講演を終了した。


『Mr…君はどこまで先へ進んでいるんだ』

 講演終了後、軍人方がすぐに声を掛けてきた。

『あの映像程度で先と言われると些か困ってしまいますが…』

 チラリと講師と中務省の辰巳上席の方を見る。

『んっ?そこの女性は分からないが、確か君は対モンスター専門の…』

「中務省陰陽局監視上席専門官 辰巳礼慈と申します」

 そう言って辰巳上席は名刺を渡そうとするが、大佐がそれを止めた。

『申し訳ないが私はちょっと特殊でね。名刺交換は遠慮願いたい』

 そう言って苦笑する大佐。

「近くのベースにいる大佐殿で本来外には出ない人です」

「えっ?」

「まあ、お忍びという事で」

『彼には散々脅されているのさ。下手なことをすれば大統領をぶん殴って分からせる…とね?』

「え゛っ!?」

 辰巳上席が慌てた様子でこちらを見る。

 俺は執事モードのままにこりと微笑み、首をかしげた。

『あの映像を見て理解した。彼一人を止めるために核を使う必要がある。下手をするとそれすら封じることが出来、返される可能性もあるんだよ』

『そうならないことを祈ってください。ただ、神様が許可を出した場合は問答無用でお邪魔致しますのであしからず』

『………その時は殺さない程度で頼むよ』

 大佐は引きつった笑みを浮かべ大講堂を出ていった。


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