第53話 兄者、闇落ちする?(1/2)
『しゃちょぉぉ…』
「何事だ?」
『警察の方が…詐欺の容疑で家宅捜索をすると言って』
「今そちらへ向かう。地下倉庫には俺の許可無しには入れるなよ?」
『はい!お待ちしております』
通話を終え、思い切りため息を吐く。
「一応磯部課長には連絡を入れておくか」
平穏な時期が1週間続くとどうしてこうも修羅場が襲ってくるのだろうかと本気で思った。
会社に行くと軽く騒ぎになっていた。
「ですからあの倉庫は社長の許可がないと…」
地下倉庫の貯蔵品とそれを守るための防衛システムがエグいことを知っているからこそ必死に止めているんだろうが…
「あ!社長!」
保科が俺を見付け声を掛けてきた。
「あ?社長?」
「ええ。そうですが、家宅捜査令状を見せて戴けますか?」
「ああ!?」
恫喝してくる男に少し違和感を覚える。
「詐欺とのことですが、どういった詐欺なんでしょうか。販売物品は全20アイテムのみですが」
「何?」
男はピクリと反応する。
「そして値段は一切変わりませんよ?…で、貴方はどのどこの誰ですか?警察官ではないですよね?」
「!?」
いや、そもそも警察官1人だけというのもおかしいだろ。
「失礼する。こちらに岩崎…ああ、いたい…板倉、何でお前がいる?」
「っ!?磯部…何で、お前…」
おっとご都合主義か?
「あー…こいつは板倉誠也。捜査2課の人間だが…お前、今どこの部署だ?」
「本庁だ」
「1人でやってきた挙句、捜査差押許可状を提出しないんですが」
「……お前、やりやがったな?」
「…」
男───板倉はそっと俺らから視線を外す。
「警察はまた俺に対してここまで敵対行為をしたがるという事で?」
「いや!それは違うぞ!?板倉!テメェ誰に依頼された!誰の指示だ!?」
磯部課長が板倉の胸ぐらを掴んだ。
「何だよ…上からだよ。ここで聖水?とか称して普通の水を売りつけているからガサ入れて来いって」
「だから誰だよ言ったのは!」
「言えるわけねぇだろ」
「保科、聖水の購入者リストあるな?」
「はい!」
「全員にクレームが来ているから返金すると伝えてくれ。それと中務省含め今後一切販売しないとも」
「宜しいのですか!?」
保科が驚きの声を上げる。
「当然だ。こういう風に疑われた場合は販売を打ち切るとリスト記名の際に伝えてあるな?」
「はい。常連のお客様に怒られますが、必ず…ですが」
「であれば問題無い。警官捨て駒にしてまで言える連中なら相応のリスクも織り込み済みだろうからな」
保科は覚悟を決めたように頷くと、電話をかけ始めた。
「岩崎、今…中務省って…」
磯部課長が顔を引きつらせている。
「ええ。その普通の水とやらはずっと中務省にも納品していましたので。大変有効で死傷者が減ったと喜んでもらっていましたし、是非にとのことで専用のボトルまで用意していましたが…
残念ですがこの様な結果に。まあ、警察としては別部署の人間が何人死のうが知ったことではないという結論なんだと諦めて受け入れますのでどうぞご安心を」
「えっ!?」
慌てる板倉に表情を消し、ジッと見つめる。
「ああ、うちは聖水と呪符・護符類の高額商品に関しては全て顧客リストを作成しており、毎回必ず契約書記入を行っておりますので。いやぁ…正直作るのが大変でしたので新たな製法を編み出しはしたものの、サービス的な意味合いもあったので助かります」
俺の台詞に2人が固まる。
俺が聖水晶片を用意して作るわけだからボッタクリレベルで利益はある。が、俺が用意しなければならない。
ぶっちゃけ面倒くさい。
磯部課長と板倉の胸辺りから着信音が鳴った。
2人は揃って外に出て行き…両者とも無茶苦茶謝っている声が聞こえる。
「…廣瀬氏、今回の損失をどう見る?」
ボソリと小声で聞いてみる。
『この損失を社長さんが何とも思っていない時点でお察しだと思いますがー』
確かにそうなんだが、撤退かリスク分散か…まあ、撤退と言っても数千円レベルの物だけにするのと、リスク分散は高額アイテムを会員制の販売店にするだけだが。
『やはり分けた方がいいでしょうねぇ』
ため息を吐く。
結論は同じだ。ただリスク分散のために店舗を増やすというのが…
「まずは切り分け部分撤退か…」
俺の呟きに電話をしていた2人がビクリと反応する。
「顧客リストが必要なリスクのあるものからの撤退と言うだけだぞ?」
一応声を掛けると2人は心底ホッとした顔をした。
不動産部門に聖水を卸して内部使用ということで回しても良いとは思うが…いや、聖水に関してはそっちの方が良い気がしてきたぞ?
ポーションストックよりも現実的だし軽(浄霊)作業にもってこいだ。
廣瀬氏にこっそり相談すると『それは良いですねぇ!』と食い気味に反応された。
横流ししないよう瓶は同じ物をそのまま使い、内部に異世界のポーション保護魔法を仕込んでおこう。
先方に連絡を入れると無茶苦茶感謝された。問題物件のクリーニングの時短が必要なレベルで追い込まれていたようだ。
いやだから、頼むからそういったことは早く言えと…
聖水に関しては落ち着いた。これ以上の問題は起こらないだろう。
と、警察官2人が戻ってきた。
顔色が悪い2人。いや、磯部課長は完全にとばっちりだが。
「岩崎…済まないがその返金対応等を止めてはもらえないだろうか」
「俺は規律と契約、法律を遵守する人間です。そしてこういった術関係の契約に関しては特に重要視されます。
だからクレームはあったと思いますが…撤回しろとは言われていないはずですよ?言ってきたらそれは第三者です。それこそ我々の知ったことではない」
「そんな無責任な話が───」
「売買契約を結んだ相手が転売禁止とあるにもかかわらず売ったか、明記されている期限を過ぎて使った。この場合こちらが罪になりますか?」
「……いや、ならない」
「効果効能に関して度が過ぎるような相手に使っても意味はありません。もし不良品があれば速やかにこちらに来店して戴き、交換対応もしくは返金対応するようにとも書いていますが、
こちらが詐欺にあたると警察の方々は仰っているという事ですよね?」
「───いや、それは…」
言葉に詰まる板倉は目を逸らした。
「こちらとしても売られた喧嘩は買わなければならない。これまで警察と協力体制を取ってきましたし、注意喚起してきたにもかかわらず次から次へと警察自体が喧嘩を売ってくる始末…
磯部課長。非常に残念ですが、この件のこともありますので暫くの間俺は警察に対して手助け等を一切行いません。
それと、板倉さん。貴方の上と同室にいた某官僚のカタがつくまで俺は人妖全ての問題事に対して一切手出しをしませんのでそのおつもりで」
「は?」
板倉は何を言われたのか分からないと言った顔をする。
「待て、待ってくれ!すぐに警視総監に連絡を入れ確認を取る!だからせめて妖怪だけでも…」
「警察は中務省の人間が何人死んでも構わないらしいので俺もそれに倣った言い方をするとすれば…警官が巡回で何人食い殺されようが知ったことか。
今年だけでも28名救ったが、もう知るか。俺は目の前に人が攫われようと食い殺されようが無視をする。
契約と法を遵守して何度冤罪にかけた?何度不罪証明を無視した?警察が法を守らなくて良いのなら俺も手助けをする意味は無い。無法者に手を貸す義理は無い」
無表情で2人にそう言ったあと、にこりと笑う。
「お引き取りください。それでもまだこちらが詐欺容疑があって家宅捜索と差し押さえをするというのであれば書類を持って来てください」
「…お邪魔、しました。おい、板倉行くぞ!」
磯部課長は板倉の腕を掴み外へと出て行った。
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