第34話 それは決して…

 下層から中層へ上がり、数カ所で採掘作業をしてバックパックに放り込み、ダンジョンを出た。

 まあ、予想通り武装した集団が待ち構えていた。

 しかも協会の部隊だった。

 殺気立った様子に俺はため息を吐く。

「俺が襲いかかったという嘘の通報でもあったか?阿保らしい。『聖光』…これで疑いは晴れたな?これ以上恥の上塗りをしないで欲しいものだ」

 ィン

 後方から後頭部目掛けて狙撃を受けた。

 恐らく聖光を使うことを見越して狙撃手を手配していたんだろうな…相手側。

 幸い弾丸は俺を掠め武装していた一人にヒット。

 俺はそれを無視して狙撃をしたであろう場所目掛け圧縮した光線を放つ。

「で、もしやこれもそちらの攻撃か?」

「ちっ,違う!」

 流れ弾に当たり悲鳴を上げてのたうつ隊員を冷ややかな目で見ながら確認をすると、他の隊員が慌てた様子で否定してくる。

「訴えてきた連中は当然面通しのために待機させてるよな?あと、警察も側で待機を───」

「…居ない」

「……」

「被害者グループは、住所と連絡先を確認し、帰した。警察は、取り押さえてから呼ぶつもりだったため、呼んでいない」

「……アンタ達に逮捕する権限は無かったと思うが?それに、奴等は警察が追っている犯罪者の可能性が高いんだが、それを帰した?」

「………」

「更に言えば、何故俺が犯人だと?」

「…ソロでライダースーツにバックパック姿の男性が仲間を襲って殺したと」

 俺は警備の石田の方を見る。

「此奴ら聞いちゃくれないし、丘野特務課長は呼ばれて祭壇の所に行ってしまったままでなぁ…聞いちゃくれないんだよ」

 外部委託の悲しい現実だなぁ…

 少し悲しくなりながらもスマートフォンを取り出し、連絡を入れる。

 相手は当然───

『何があった!?』

「狙撃されました。後ダンジョン内では襲撃も受けました」

『…と言うことは協会側のダンジョンか。すぐに向かう…って狙撃犯は!』

「カウンターを打ち込みましたので無事かどうかは…位置としては建設会社の建物の屋上かと」

『わかった。そこにも回す』

 磯部課長はすぐに動いた。

「数分後に警察が来るので…救急車は呼ばなくても?」

「……いや、呼ばなくて良い」

 何か躊躇うように断ってきた隊員に「そうですか」と返し、警察が来るのを待った。



「何故呼ばない!?その判断をするのはそっちではないだろうが!」

「し、しかし…」

「殺されたというのなら事件だろうが!事実確認も必要だし、デマの可能性もある。そもそも事実確認も出来ず、被害届も出されていない。緊急性があるのであれば通報するのが普通だろうが!」

 はい。現在、磯部課長の雷が協会の方々に降り注いでおります。

「協会がやらかした事件、忘れてないよな?あの事件の被害者は彼だぞ?」

「!!?」

 あ、全員がこっち見た。

「また冤罪を生むつもりだったか?」

「いえ、我々は不罪証明を確認したのですぐに…」

「それを確認した相手が狙撃をしてきたんだよな?要はそこまで織り込み済みだったってわけだ。コイツじゃ無かったら死んでいるだろうな」

「っ…」

 いや、何故そこで悔しそうな顔をするのか…申し訳なさそうな顔なら分かるが。

「訴えてきた連中の言を信じたのなら尚更俺等警察に連絡する必要があったよな?」

 そう言われた瞬間、何名かが「そう言われれば、そうだ」といった顔をした。

 何かおかしいぞ?

 取り出したるは賽の錫杖。

「Oṃ ha ha ha vismaye svāhā」

 シャンッッ

 辺り一帯に遊鐶の音が鳴り響く。

 そこに一つの衝撃が走る。

 協会の部隊全員が大きく震え、辺りを見回した。

 ───もの凄く、嫌な予感がする。

「…は?」

 ザワザワし出す部隊員に磯部課長が怪訝な顔をする。

「で?」

「えっ?」

「その自称被害者等の連絡先は?」

「えっ?いや…どちら様で?」

 ああ、やっぱりか…と息を吐く。

「磯部課長、此奴らさっきまで呪術的催眠暗示を受けていたようだ」

「は?…いや、全員?マジで?」

「これは拙いな…かなりの術者がいるぞ」

 少なくとも襲撃犯の中には居ない。

 と言うことは、協会の人間は既に…

「どうした?」

「この部隊員はどこで喰らったのか、それを考えていたんですが」

「最悪は協会本部か」

「その可能性ですね。行きたくはありませんが、行くしかないですかね」

「俺はお願いすることしか出来ないが…」

「………証人としてそちらの部隊の人も一人は一緒に来てください」

「えっ?あ、ああ…」

 何が起きているのか理解出来ないという顔の面々にそう言い、

「石田さん。説明お願いします」

「俺かぁ!?」

「一番分かっているでしょう?」

「……分かった」

 大きなため息を吐いて気合いを入れ直した石田が部隊責任者に説明をはじめた。



 協会に着くと、深夜という事と、事前に此処のダンジョンは調査中で入れないとアナウンスしていたためか普段より静かだった。

 いや、静かすぎた。

「おかしいな…」

 隊員が辺りを見回しながらそう呟く。

「まあ、相手は俺等がここに来ることまでは把握しているだろう」

「おまっ!?敵地に突っ込んでいる状態だぞ!?」

「問題は無いです。術は破ったので相手に多少は返っているでしょうし」

 錫杖を取り出し、入口を石突きで勢いよく突く。

 シャンッッ

 遊鐶の金属音が鳴り響き、同時に悲鳴が上がった。

「行くぞ!」

 磯部課長が協会内へと駆け込み、その後を慌てて隊員が追う。

「急いては事をし損じると言うが…まあ、兵は拙速を尊ぶとも言うか」

 俺は周りを見渡しながら何かないか確認をする。と、

「…緻密なのか雑なのか…いや、複数の組織が絡んでいるからか」

 広い駐車場の出入り口に最も近い所に一台の車が駐車しているのを見つけた。

 周りに車は無い。

 そして人間が2人乗っている。

 こちらを確認しているが、まだこちらが気付いたことを知らないようだ。

「さ、て…と」

 その車まで一気に距離を詰める。

 錫杖をしまい、刺股を取り出す。

 慌てて逃げようとした連中がビクリと体を震わせ、パニックに陥った。

 獄卒の気配を感じ、聖属性に焼かれるような幻痛を感じているのだろう。

 逃げるという余裕すらない。

「さて、そこの2名は何か用か?俺に対して明らかな敵意を持っているようだが」

 刺股をしまって声を掛ける。

 2人は真っ青な顔でガクガクと震えながら俺を見る。

「地獄の鬼と、対面したいか?」

「「ひぃぃっ!?」」

 こちらの台詞に2人は頭を抱えて踞った。


「───あちらは結構な人数が催眠?かなにかに掛かっていたようだ。犯人と思しき女は捕らえたが…お前のその2人はなんだ?」

「その実行犯の運び屋だ」

「は?」

「関東以外の組織の人間…と言えば分かりますか?」

「…マジ?」

「ナンバープレートくらい見ろ警察官」

 磯部課長は急いでナンバープレートを確認し、顔をしかめてこちらを見た。

「…おい、山口ナンバーなんだが」

「つまりはそう言うことですよ」

「………今回はどんだけ広範囲なんだ?」

「さあ?俺に聞かずに此奴らに聞いて下さい」

 そう言って2人を見ると、俺を見てまた怯えだした。

「…いやお前さぁ…何をやったんだよ」

「物理的なことや脅すような事はしていないと思いますが?」

 ただ、地獄の鬼と対面したいか?という質問はしたが。

 獄卒の刺股だからそれは当然だよなぁ?

「まあ、まとめて警察署にご招待だな。と、そう言えば此奴らも催眠とかは?」

「掛かってませんよ。少なくとも利害関係があるようなので」

「そうか。なら岩崎案件として取り調べを行おう」

 ───その案件名、もの凄く嫌なんですが…直せませんかねぇ?


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