第27話 偽神の上洛、神の零落

「───いや、何故俺にその話を持ってくる?」

 聞いたあとの第一声がこれだった。

 話は遡る。

 大学の帰りに中務省の職員2名が大学前で待機していて俺を捕まえる。

 特にこの後の講義もないのでそのまま連れて行かれた先…少しお高めの個室で俺を捕まえた理由を聞く。

 まああの事件のことで話があると言われたからホイホイ付いてきたんだが。

 井ノ原技官が言うには源川さんは初犯で尚且つ食べ飲みしていた物は全て自分で買った物だったという。更には中条家が被害届を出さない事や親族を人質に取られていた点などを考慮。裏取引の末中務省の嘱託員となったらしい。

 親は目を覚まし問題無いものの衰弱が激しいため現在も入院中。

 大和川の翁は留置先で謎の急死を遂げたらしい。警察署プチパニック。

 それも闇に葬ったとか。怖いよ中務省。

 それもこれも法整備が確りされていないからなんだが…早く何とかしなよ。

 さて本題。

 その源川母より聞いた話で、まもなく偽神が上洛をすると。

 どうにか出来ないか?と。

 そしてそれらを聞いた結果が冒頭の台詞だ。

「そもそも偽神といえど神々相手であれば中務省の、おたくらの管轄だろう?更に言えば現在京都には三重の結界が張られていると聞いたが?柵…関の役割、御簾…神秘を護る役割、そして四聖獣相関による地脈浄化。これらと京都内の仏教寺院が正常に機能していれば魔王波旬は止められると思うが?」

「!?何故、魔王だと…いやそれ以前に柵の法を何故!?」

「何か知っているのですか!?」

 えー?この人達面倒くさい…

 まあ、食事分は───

「この前元使い魔より連絡があってな。魔王波旬が教団を立ち上げ、勢力を拡大させていると。今の社会不安含め不満をそれらが受けて動いた志多羅神上洛事件の時と似ているから注意されたし、と」

 二人とも「?」となった。

 いやマジか…専門職。もっと勉強してくれ。

「本朝世紀に記載されていて天慶八年七月諸神入京云々とある。天災等による不安や政治不信によって民衆が起こした代物だ。

 その数年前にもトラブルのあった石清水宮だが、この諸神入京に関しては志多羅神とはなっているものの、天神や八幡神と民衆は訳も分からず神の名を変えながら石清水宮へ参った…と、かなり端折ったが、民俗学的には幕末のええじゃないか騒動の平安版とでも考えられそうだが…専門職的にはどう捉える?」

「断言は出来ませんが、偽神僭称による乗っ取りを疑います」

「時期は…ああ、騒乱期だな。確かに僭称が横行し各地で騒ぎのあった頃か…」

 調べれば分かるからと研鑽を怠るとは…咄嗟にその知識が必要となる場合はどうするんだろうか…書は遅効性の薬であり有事にこそ神の力を発揮する対処薬だというのに…いや、年寄り臭い説教になりそうだ。

「魔王波旬。つまりは全ての人間を堕落させる者がおり、偽神を奉じて上京すると言うのであればそれを調べ、煽動スキルなり悪魔憑きの確認をし、聖職者が聖光をし、誓文で問い、再度聖光を行うことで此方彼方共に嘘偽りのないことを確認すれば良い。それはそちらのできる仕事だろう?」

 む?茶碗蒸しがなかなか…今度皆で来ても良いな。

「───確かに。気が逸ったな…感謝する」

「いや、食事代分の労働をしただけだ。それとこれは老婆心ながら…少し前に知恵比べをしてくる珍しいタイプの妖怪と出会した。互いに謎かけをし負けた方が相手を殺すという厄介な奴だったが、そういった手合いが最近出てくる以上、ある程度は書を読み対策を立てた方がよいかと」

「「待って!」」

 何事?

「いや、いやいや…いやいやいやいや、待って。待ってください!そんな危険な妖怪が居たと!?」

「ああ。自称零落した神…と僭称。実際は道真公になりたかった学者のなれの果てが悪霊化し、その後地方の集落で神として祀られたが廃れて妖となったらしい」

「まさか…その問答に?」

「相手が条件としてネット検索を封じてきたのでそれに応じ、まず一勝して相手の素性を嘘偽り無く誓文を介して確認。そして次も勝利し学問の何たるかを喝破して始末したが…拙かったか?」

「大妖ほどでは無くても鬼クラスですよね、それ…」

 愕然としている二人に俺は首をかしげる。

 最近わりと頻繁に妖怪と出会すぞ?良い妖怪4に悪い妖怪6の割合で。

「それに、元使い魔という不穏な言葉があったが、今は使い魔ではないと?」

「ああ。今は山陰側に居るな。自己研鑽をすると旅立っていった。何しろ元が犬神だったからな…襲いかかってきたのを屈服させて毒抜きをし、暫くペットとして飼って野に帰した」

「「帰すな!」」

 なんてわがままな…

「平安代のとある高名な法師が行った犬神だぞ?没落し外道と化したその家を嘆きながら襲いかかってきたんだ。流石に消すには惜しいだろうが」

「違う。そうじゃない」

「野に解き放ったらまた誰かに憑いて良くないことを…」

「既に精霊化していて自然の中に居た方が人を守りやすいと言っていたんだが…」

「せいれい、か?」

 二人揃って首をかしげている。

 まさか、これも知らないのか!?

 いや大丈夫か!?中務省技官!

 ええいこれもサービスか!

「…人が無から神を作ることは出来ない。この国は霊や精霊を崇めて神と呼ぶ。結果精霊以上を神と称している。ただ実際は自称神というだけでほとんどは神ではない。

 ただ、一部の精霊は位の高い神より限定的に神と名乗ることを許されたり、代行をするよう指示を受けているらしい。それは神話世界の神々ですらそうらしいぞ」

「そんな…」

「我々の知っている話とは…」

 いや、本当に面倒くさいな!

「青龍、白虎、朱雀、玄武。これらは神格に等しい精霊だよな?」

「あ、ああ…」

「そうですね」

「この四聖獣を四神と呼ぶ場合もあるよな?」

「「あっ…」」

 大陸側も自然を神に見立てて崇拝し、やがて擬人化をさせて神としてヒトガタを敬っているわけで、それはこの国も同じ…いや、この国にはそれがまだ残っているが、人ならざるものでもそれ自体を神と崇めるしなぁ…古代日本人は凄いわ。

「その、済まないがその知識はどこから…」

「古妖や神からだが?」

「神と交信できるのですか!?」

「いや、むしろ出来ないことに驚きを隠せないんだが…聖職者はできるだろうし、場所によっては会えるぞ?」

「「…会える…?」」

 その虚無な目は止めて欲しいんだが?

「ダンジョンの深層に神が捕らわれている場合があるらしい。まあ、その場合その一部が神域となっているらしいが…近々行ってみようと思う」

「待て。まさか深層に行けるのか!?」

「少し時間が掛かるので行きたくないだけで、下層で鬼は安定して倒せているが…深層は出てくる相手が変わるのでかなり面倒だ」

「鬼が出た時点で絶望的なんだが…あの件で倒せるというのは分かったが…分かったが…っ」

「下層下部だと複数体出るぞ?」

「…うちの部隊では無理だな」

「ですね」

 いや、即諦めんなよ…スタンピード起きたらどうするんだよ…

 ───妖怪が跋扈している時点で色々アウトだとは思うが…しかし、被害をそんなに聞かないんだよな…

「一つ聞きたいが」

「何か?」

「今年起きた妖怪による被害等は何件くらいだ?」

「先月時点では交通事故含め31件ですね」

 それに違和感を覚えないのかこいつらは…

「5年前の妖怪による被害件数は9件なんだが…急増していると思わないのか?」

「「………っ!?」」

 バチンとナニカに弾かれたように二人同時に仰け反り、我に返ったように辺りを見回す。

「これは、根深いな…何処まで覚えている?」

「すべて…覚えている。違和感を持たないよう制限されていたんだろう…」

「…部長ですね。これは」

 険しい顔で呟く井ノ原技官に男性技官が頷く。

「だな…改めて感謝する。どうやら敵は内部にも居るようだ」

 頼むから俺を巻き込むなよ?こんなご時世に内部争いなんて馬鹿らしいことを…


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