第74話 A chain is no stronger than its weakest link


 でしょうね!と思った。

 真沼兄が一月と経たずにお金を返しに来た。

 どうやら銀行から融資を受けて一部を今回の返済に充てたらしい。

「君達の生活もあるだろうし、俺達の迷惑に対して早く解放されたいと思っているだろうから」

 との事だった。

 真沼兄は分かっていたが、弟はその歳になっても何の事か分かっていなかった。

 人生を無駄に生きてきたボンボンか…!

 犯人は案の定真沼弟だった。

 家の事情こそ話さなかったようだが、その手のトラブルで大変な目にあい兄が死にかけていたのをいとも簡単に祓ってくれた凄腕の術師…と紹介したらしい。

 俺の絶対と言った約束を簡単に破った事。そしてそれはでは禁忌である事。

 そして破られた結果迷惑を被った事を兄から切々と語られ申し訳なさそうな顔をしている。

 ただコイツ、まだ事の重大さを理解していない模様。

「序でに言いますが、一部のその手の方々から商売敵と見做され攻撃を受けていますからね?」

 俺の台詞に2人の顔が青ざめた。

 一部で済んでいるのは俺のことを知っている裏の連中や素晴らしき悪評、そしてムーンライトを利用している方々が「なんかお宅の社長さん、悪霊払いや呪詛払いが出来るって噂が広まっているけど、大丈夫?」と心配して情報統制してくれたことでギリギリ南関東で聞く程度に収まっているらしい。

 いやそれアウトだし?

 兎も角、真沼家とはこれでお別れ縁切りですっ!

 と言うことをダイレクトに友紀と佑那に伝えたら…

「[うん。分かった]」

 と、驚きの理解を示した。

「駄目と言っているの勝手に紹介すること自体悪魔の所業だよ」

[兄さんが大変な目にあうのは、駄目]

 うちの弟達、なんでこんなに真っ直ぐに育ったのかなぁ…いや、佑那は微妙に曲がっている気がする。

 で、だ。

 こちらを商売敵と判定して喧嘩売ってきた連中を潰しても良いかと各方面に問い合わせたらほぼ全員から駄目と言われた。

 俺は実害受けたんだが?家を襲撃されたんだが?

 一部念を飛ばして襲撃を仕掛けた奴が居て、獄卒達に追い回されていた。

 どうやらそれで心を病んだ連中が居るらしい。

 俺何もしてないんだが?念飛ばして仕掛けてくる奴が居るんだから俺の周りのことを考えて根こそぎ駆除が理想的なんだが…と言ったら襲撃したと思われる奴等から詫び状と現金が仲介の術者経由で渡された。

 一件も受けていないのを確認した事と、早まった真似をしてしまい申し訳ありませんというあまり謝罪ではないんじゃないかな?と言う謝罪文の数々と現金が…

 中には帯封で渡した奴までいた。

「まあ、身内だろうがなんだろうが命に関わることだからただではやらないし、舐められたら終わりの世界ですから。受け取って先方を安心させてやってください」

「どこぞの世界と同じ感じですね。あちらは億の金が普通に動きましたが」

「……因みに何処の組や組織です?」

 もの凄い神妙な顔で聞かれたので関係している所と、敵対して詫びを入れてきた組の話をしたら仲介の術者が遠い目をした。

「公的機関から札付きの組織まで…絶対に敵対するなと念押しをしておきますね」

 何故そんな達観した眼をするのかねぇ?



 えー、現在時刻は午前0時8分。

 場所は探索者協会本部前ダンジョンの最深部。

 覆面姿の軍人8名の部隊…4名2チームに襲われています。

 現代兵器を使っての奇襲だった。

 開幕スタングレネードで、同時に催涙弾。で、三方向からの一斉射撃を受けたんだが…僅か8秒の命だった。

 俺、妖怪と戦闘中。

 妖怪というか、鬼の一種で悪鬼と戦闘中だったんだが…スタングレネードで弱い人間がやってきたと大はしゃぎして俺そっちのけで奴らに襲いかかった。

 ただそれだけ。

 因みに戦っていたのは4体。

 保たないよなぁ…現代兵器だと。

 襲われた以上助ける義理は無いので引き裂かれていく連中をそのままに採掘作業を行った。


 採掘中に再び悪鬼が襲いかかってきたので殲滅し、元いたところに戻ると凄惨な状態となっていた。

「…タグだけでも拾っていくか」

 ため息交じりにタグを拾い集め、その手を止めた。

「へぇ?海軍が、事実なら俺を殺そうとしていると」

 タグ3段目の9桁番号の後ろに記載されていた三文字を見て俺は眼を細めた。

 ただ、不明な点もある。

 何故タグは綺麗な状態で落ちている?

 そして此奴らは潔すぎなかったか?声を上げなかったのもそうだが、倒されるまでの時間がほぼ無かったような気がするが…例え妖怪から襲撃を受けようとも撤退なり抵抗をするはず…となると見えてくるのは死兵。

 死んだ奴等は元々死兵として送り込まれた。

 しかも奴等は死兵なんて馬鹿なことはしない。

 それにそんな連中がこんな貧弱な装備でここまで普通に来る事が出来るか?

 そんな疑問に対しての可能性が2つ。

 真っ先に思いつくのが離間の計。

 そして孫子兵法の始計篇にもある怒而撓之(怒にしてこれみだし)か…始計篇は自軍が怒るやら怒っている敵を混乱させるなんて考え方もあるが…

 襲われ、これらのタグを見て殺気立った俺が確認のため急いで引き返す。周りが見えていないであろう俺が無警戒で駆け上がってきたところを…というところか?

 相手が奇襲を仕掛けやすいのは深層と下層の境界。

 考える。

 …よし、あと2時間は採掘をやろうか。深層や下層なら普通に妖怪やモンスターが湧き出てくる。

 そこそこ強い程度の連中ならモンスター相手だと1時間は耐えられるだろうが、妖怪相手だとどうだろうか。

 非常に興味深い。

 さあ、ガンガン採掘するそ!


 調子にのって掘りまくっていたら2時間半ほど経過していた。

 そして戻る途中、細い鋼鉄ワイヤーが俺の喉辺りの高さに仕掛けられていた。

 態々研がれた奴を用意するなんてなぁ…と思い仕掛けられている物を見たら、爆弾まで用意されているという。

 殺意高いな。

 ソッと回収をして周辺を見ると…死体が12体。

 今度はしっかり戦闘による抵抗をしたようだが…抵抗虚しくといった感じだった。

 いや、ねぇ…最近は遭わなくなったと安心していたのに…またお前かよ片輪車。

 即死系妖怪が深層ですらない下層域に出てくるのは大問題だぞ。

 まあ稀に良くあるが。

 遠慮なく顔面をぶん殴って倒し、さてどうしたものかを見渡す。

 外見はアジア系の人間には見えない者が半数。

 そして残りは確実にアジア人といった風貌だが…

 ───合衆国の人間じゃないじゃん此奴ら!

 なんて心の中でツッコミを入れる程度には真相が分かってしまっていた。

 というか神眼が此奴らの生前の所業と所属を普通に表示していた。

「…神眼が便利すぎて辛い」

 そんな軽口を叩きながら死体を回収する。

 こうも簡単に使い捨てするということは余程人材が有り余っていて更には上がどうしようもない連中だって事なんだろうな…

 死兵を平然と送り出した此奴らも同罪といれば同罪だが、上の命令には逆らえないのが軍人だ。

 国の駆け引きには応じないと釘を刺しておこうか…しかし単体で動けばその場は殲滅できても国と国の喧嘩となる可能性もあるか。

 二国ではなく三国にして三つ巴にしてしまうか?それとも…

 連環の計というのも悪くはないかな。

 幸いな事に情報の切っ掛けは頂いたんだ。

 中でも1人、大使館所属のスパイがいた。

 良い情報をありがとう、スパイよ。遠慮なく拠点を狙わせて貰おう

 鎖の輪である各組織の強度がどれほどのものなのか…教えて貰おうじゃないか。

 まずは都内の拠点16ヶ所から潰していくか。


 ここから俺の七日間戦争が始まった。



 ───A chain is no stronger than its weakest link───


 鎖の強さは最も弱い輪によって決まるものである。と、訳すべきなのか、

 鎖が強いのではなく、弱い輪が強いから鎖は強いのだ。と言うべきか。いやそれだと色々マシマシだなぁ!


 兄者が言いたいことの1つですね。ずっと言い続けていたことです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る