第22話 心霊現象と呪いと認識阻害は素人目には分からない
「怪奇現象?」
大学講義室で静留から突然持ち込まれた話に俺は首をかしげる。
「ええ。父がダンジョン産ではない物ですが、呪物ではないナニカではないかと」
───いや、本社ビル襲撃騒ぎから数日経っていないのに研究者含め通常運転過ぎないか?
恐らく呆れた顔をしていたのだろう。静留は苦々しい表情でため息を吐いた。
「鑑定をしても特殊表記も何もないからと…それに、事件ガン無視で研究している人達ですよ?分解したら何か分かるかも知れないと狙っているそうで…」
「…OK理解」
理解したくはないが、あの連中ならテロリストが入ってきた時に「こんな事もあろうかと!」とか言いながら爆破実験や武器転用ができる実験して遊ぶんだろうなぁ…相手が死んでも『実験中に襲われ、事故った結果であり我々に非はない!』とか絶対言うだろうし。
そのレベルのマッドサイエンティスト達だ。珍しい物はとりあえずバラすだろうなぁ…
「しかし向こうにも聖者職いるだろう?」
「───その聖職者もアイテムを分解しようとするので現在父の方で確保されているのです」
「しかしなぁ…俺が見ても分からない可能性が高いだろう?」
「…知っていましたか?鑑定などで霊視は出来ないのです」
「怪奇現象って、心霊現象なのか…」
「はい。俗に言うポルターガイスト等ですね」
「そのアイテムは?」
「人形です」
「……寺に持っていけ」
「何故か断られたらしいの…」
……仕方ないか。
とりあえず見てみることにした。
───普通にいるな。生身の女性が。
中条邸に入るとそこには無茶苦茶寛いでいる20代後半と思しき女性がいた。
その女性はリモコン片手にテレビを見ており、やってきたこちらに気付いていない。
「…やっぱりテレビが…」
静留は気味が悪いといった表情でテレビの方を見る。
「で?その人形って?」
「こっちよ」
そういってリビングではなく奥の応接室へと向かう。
そしてテレビを見ていた女性が慌てて応接室へと走り出した。
女性が応接室に入ったのを確認してすぐに薄く覆っていた光膜を光壁との二重防御にする。
おそらく、コイツは大分ヤバイ。
何年か前に出会した呪詛組織と似た流れの人間だが、規模が違う。
「───こういった仕事を請け負う場合、名前を決して言ってはならない。これから俺は裕也だ。いいな?」
「えっと、ええ。分かったわ」
小声で静留にそう言うと不思議そうな顔をしながらも静留は頷いた。
「じゃあ、開けるわね」
そう言って静留は応接室の扉を開けた。
成る程これは鑑定出来ない。
赤黒い布人形に何か文字がビッシリと書き綴られた呪符が巻き付いている。
これを見た瞬間に呪術が発動し、認識が狂い、催眠を受ける。
「この人形なんだけど…きれいなにほんにんぎょうでしょお?」
「動くなっ!」
虚ろな目になってフラフラと人形に歩き出す静留らに対して言葉を発した。
同時に光壁を薄く室内に展開し、確認をする。
「ゆーやくん?」
「何だ?」
『ユウヤ、動くな』
女性が声を発した。
「───」
「…所詮は学生。妾達の敵ではない…のぅ?」
「───奉りて、裁定を願う。気を禁じ、この身に降りかかる一切の穢れを禁ずる」
「貴様、呪禁師かや!?」
女性が俺から距離を取るように跳び退く。
そして俺が周りを見回す動作をすると息を吐き嗤いだした。
「そうか。不動法は破れたが、それ以外は破れておらぬか!」
呵々大笑する女性を無視し、赤黒い人形を視る。
【魍魎代雛】伝説級:淀んだ川に流された呪詛を受けし形代。
水死体を喰らい変質した魍魎が依代としている。
見ると疑の力により認識阻害等の疑偽効果を起こす。
「魍魎…黒鬼か」
「!?」
光壁を三重展開し、人形と女性を閉じ込める。
「っ!?」
静留がその場に倒れる。
まあ、それはそうだ。
「さて、その女性の魂は…何処にある?彼女こそが呪術師のはずだが?」
「ははははっ!鬼に対して形代を使い使役を試みた身の程知らずだったのでな!喰ろうてやったわ!」
「ソレは本当か?」
「嘘を吐いてどうする!」
「天然の黒鬼なら平然と嘘を吐く」
「ははははっ!良く分かっているではないか!ならば人如きが鬼に、あのような紛い物の穴蔵にいるような弱い鬼ではない我等に勝てないことも!」
「その結界を壊してから物を言え」
「むっ!?」
「地方の川の邪霊が鬼となっておよそ一千年か?まあ、お前の言う紛い物とは違うかも知れないが、その紛い物の群れとお前単体…どちらが強いか…」
「───!?」
女性が少し焦った様子で視線を複数方向に向ける。
「女性の魂は何処にある?」
「っ、知らぬ!」
「本当か?」
「本当だ!」
「誓ってか?」
「ああ!」
「沙庭に対してもか?」
「──────ああ」
「ならば俺はこの魔水晶を差し出そう」
「まさかお前は審神者なのか!?」
「一緒にするな。俺はモドキだ」
俺は魔水晶を女性に投げ渡し、女性はその魔水晶を受け取る。
「くっ、ははははっ!確かにモドキだ!」
【誓文により依代及び形代は効果無効とし、鬼の腕を一時封印。源川明代は一年間の呪法封印を行う】
「………は?、はあっ!?」
「ふむ。量刑の裁定も含まれたか。嘘まみれの鬼であれば仕方ない」
魔水晶が光り、同時に女性と魍魎代雛、そしてこちらから見えない位置に置かれていた旅行カバンが光る。
「ああ、そこにお前の本来の依代があったのか」
「きさっ!まさかはじめから…っ!」
「さてな…恨むなら主を恨んでくれ。屋敷の人間を乗っ取ったと思い気を抜いているからそうなる」
「おのれっ!おのれええええええっ!」
憤怒の表情で俺に殴りかかり、光壁にぶつかって無様な光景を見せる。
そしてそのまま光が浮き上がり、入れ替わる。
「静留。起きろ」
「───ゆう…や?」
「よく言えました。現状を確認してくれ」
「えっ?…誰っ!?何!?」
フラフラと起き上がり、辺りを見回し…驚愕の表情になる。
「怪奇現象の正体と人形だ」
スマートフォンを取り出し、いつもの磯部課長へ電話を掛ける。
『ここのところ多くないか!?何があった!?』
「今回は俺ではないですね。中条邸はご存じですよね?」
『ああ。前の爆破未遂…まさか何かあったのか?』
「ええ。至急来て戴きたいのですが、中務省から呪術等の専門家もお願いします」
『何があった?』
「人の認識を操って悪さをする呪術師と鬼を捕らえています」
『俺等は10分以内に行けるが、中務省は少し時間が掛かると思うぞ?』
「誓文で術の封印と鬼の一時封印はされているので問題は無いかと」
『───急かす』
「お願いします」
通話を終え、改めて周辺を見る。
酒瓶が転がり、端に布団が敷かれている。
「これは、どういう…」
「ぬらりひょんと同じだ。認識をずらし、家に居座る。いつの間にかいる」
「え、でも…」
「その人形を視た瞬間に術が発動。目撃者の認識が狂わされていた」
「……お父さん達は」
「多分気付いていないだろうな。この術の効果範囲は基本短いが、認識の書き換えなどだから違和感がほぼ無い。スパイ活動や潜入にはもってこいだが…まあ、コイツが駄目な方向で悪いヤツで良かったな」
「気付いていたの?」
「リビングでソファーに寝そべりながらテレビ見ていたな。俺等が来たので慌てて応接室へ向かった」
「ぇえー?」
初見なんだから俺が術に掛かっていない状態なのは分かっているはずなんだが、余程慌ていたのか、後からどうにでもなると思ったのか…後者だろうな。
チャイムが鳴り、スマートフォンに着信が入る。
『今到着した。ただ、中務省の技官も既に来ているんだが』
「…分かりました」
通話を切り、静留を薄い光壁で覆う。
「警察達が着いたらしい。ここまで案内してくれ。念のために誰かが変な動きをしないか確認しながら…もし妙な行動をしたら大きな声で『何をしているんですか?』と聞いてくれ」
「…うん。分かった」
何かを察したのか静留は頷いて玄関へと向かう。
「───良かったな。お仲間が迎えに来たようで」
俺の呟きに倒れていた女性がビクリと体を震わせる。
喋らないことで俺の更なる追求を躱したいのだろう。
「小さいとはいえ、高い魔水晶を対価に封じた…だけでは元は取れないんだよ…源川さん」
ビクリと震え、恐る恐る顔を上げる。
カシャッ
「!!?」
「うん。綺麗に撮れているな。元がキレイなんだ。こんな引き込み役をせずに真っ当に働くか、中務省の技官として働けば良いんだが…」
「~~~っ!」
源川は顔を真っ赤にして俯いた。
「…まさか、声を封じられている?」
首をかしげたところで、磯部課長らが入ってきて…
「何をしているんですかっ!?」
静留の声と共に俺が柏手を打つ。
「っ!?誰だお前は!」
「犯人ですよ。捕まえてください」
「~~~っ!くそぉぉぉっ!」
即座に取り押さえられた高齢男性を見て俺はため息を吐いた。
「…岩崎。俺には何が何だかさっぱり分からないが…」
「警察官全員が暗示によって認識阻害を受けていたんですよ」
「いや、しかしさっきまでコイツは中務省の若い技官で…」
「顔は?」
「………」
「恐らく全員が顔を覚えていないでしょうね。そう言うことですよ。ああ、こいつらは目や指、声、動作で術を使うので雁字搦めにした上で寝袋に押し込めれば問題ありません」
「…詳しいな」
「一度出会しましたので。あの時はこんな便利なスキルもなかったので大変でしたよ…」
「いや、スキルも何も無しで対処出来るものなのか!?」
「強い意志と気力さえあれば。あとは如何なる時も隙を晒さなければ」
「無理だろ」
「それをしたから企業情報売買組織を摘発出来たんですが?」
「アレもお前か!」
「あの時は未熟だったので数名取り逃がしましたが…そこの老人がその時の一人でしょうね」
ニヤリと笑ってみせる俺に高齢男性はこちらを向いて呪詛を吐いた。
「ほら、こうやって呪詛を吐くから全てを封じろと言ったんだが…」
呪詛は弾かれ、高齢男性へと返り、血を吐いた。
「おい?おおいっ!?」
「言ったはずですよ?どうしようもないですね」
白目を剥いてビクンビクンと震える高齢男性の口からソロリと大きな蛭が出てくる。
「ああ、呪詛を返されて体内に飼っていたモノが出てきたか…滅せよ」
蛭は光を受けて消滅する。
「静留。申し訳ないが捨てる予定のタオルがあれば頼む。此奴の口を塞ぐ」
「おいっ!?それは…」
「逃がしてもすぐに捕らえる力があるのならそのままで良いと思いますがね?」
ジロリと磯部課長を見ると、苦悶の表情で俯く。
「そこら辺の法改正をしないと本気で在野の呪術師にいいようにされますよ?」
「すみませーん!中務省技官の井ノ原と申します!」
「磯部課長。本物が到着したようですよ」
「…ああ、おい。迎えに行ってくれ」
磯部課長は部下に指示を出し、大きなため息を吐いた。
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