第36話 貴人、奇人、鬼神は何処にでもいる。


 さて、俺は何を見せられているのだろうか。

 貸家に入り、封筒を開け、中身を確認したと思ったら…

「ふあああああああああああっっっ!可愛い!可愛いよぉぉぉ!」

 超高速で食べ物を収納ポーチにしまい、友紀の写真を見て大興奮…いや、限界オタクと化していた。


「───失礼、まさか先頭におねむなゆうちゃ…眠そうな友紀様の写真があるとは思わず…感情の制御ができなくなってしまいました」

 顔を赤らめてそう言い訳する彼女。

 ……こんなんでも、日本に古くからある組織の次期当主なんだぜ?

「お気になさらず。妹も稀にああなるので…と言うよりも妹が似たような感じになって撮った写真がそれらなので」

 いやマジで。

 大声を出さないようにしながらも何か高速で呟き、音もなく自室に戻りカメラを取って戻って来たかと思えば写真を撮り出すという…

 次そんな奇行を見たら殴ろう。

 叩けば治るだろ。グーが良いかな?掌打かな?

「ああ、妹さんとは良いお酒が飲めそうです」

 この尊き御方は人々を魅了するような笑みを浮かべ、そう宣った。

「まだ未成年ですのであと数年お待ちいただければ、と」

「そうですか、残念です」

 残念そうにため息を吐く。

 そっと茶を出す。

「どうぞ。大和や伊勢、宇治には及びませんが…」

「…狭山ですか」

「はい」

 飲みもせず、色と香りだけで言い当て、微笑む。

 それが経験なのか、鑑定眼なのかは分からない。

「弟が好きな銘柄d「いただきます」…」

 友紀、お前にストーカーができるのもそう遠くは無いかも知れないぞ…



「今日の日程ですが、これから奈良の支邸で正式な会合を行いますが、その前に」

 居住まいを正し、彼女がこちらを見る。

「貴方が所有している退魔系の武器や自宅に設置しているような結界系の代物を融通していただきたいのです。お金であれば税金の掛からないようにも…200億までであれば」

 いや、言い辛そうにしているが自宅の結界把握してるのか。

 それ以上に金額が桁違いだぞ?

「そちらの関係しているダミー会社に売った…という形で構いませんが、どの程度のものをいかほどお求めで?」

「あるのですか!?」

「規模にもよりますが、破魔刀、退魔剣、結界関連や破魔関連もいくつか…ここでご覧に入れても良いのですが……ああ、公的な土産の方を先に」

 俺は大和錦の剣包を取りだし、テーブルの上に置く。

 彼女はそれを紐解き、中を確認する。と、目の色が変わった。

「……まさか、鬼が拵えた短刀…4~500年前愚かな領主によって討たれて以降、出回らなかったのですが」

「生きていますよ。最近酒盛りをしてこれらを戴きましたので」

「酒っ!?……でっ、ではこの他にも」

 ワナワナと震えている彼女を尻目にあの鍛冶鬼が寄越した代物を調べる。

 かなりぞんざいに放り込んだせいでロクに調べてもいない。

 時間が空いた時に調べようと思っていたんだが…

「刀や短刀は極端に少なかったな…宝石珊瑚や玉、鉱物……ああ、玉はやめておいた方が良いな。宝石珊瑚は出せるか…これだ」


【鍛冶鬼の宝石珊瑚】レア:一つ目鬼が友人の証として送った物の一つ。

 鬼の防人という呪が掛けられており、一町歩間の邪気邪霊を鍛冶鬼の名において封ずる。(50年有効)


 ───眼の進化が止まらない件。有効期限あったのか。まあ、人間50年時代?以前の鬼だからそうなるか。

 あ。

 フリーズなさってる。

「………これを買い受けるのに何億出せば?素材も加工も呪力も特級品…」

 いや、なんかスマン。これ以上の物の方が多いんだ…

 自問自答をしている彼女に軽く声を掛け、続きは先方で、ということで話をまとめ、貸屋を後にした。



 奈良の飛鳥駅から車でおよそ10分。古い佇まいの日本家屋が畑の中に姿を見せた。

「壺井、集まっているのは8名と言っていたな」

 駐車場に車を止めた運転手に彼女が声を掛ける。

「はい、お嬢様」

 運転手───壺井は感情無く首肯する。

「では何故屋敷の中に20名以上いるのです?」

「!?」

 壺井は「まさか!?」といった表情で屋敷の方を見る。

 聖光を薄くして屋敷を通す。2名倒れているな…ご年配の男女だ。

 念のために聖光壁で守っておこう。

「中に居るのは人間で間違いは無いが、2名ほどご年配の男女が倒れている」

 俺の台詞に2人がもの凄い反応をする。

「まあ、命に別状は無いしプロテクトも掛けているので問題は無い。その2名以外は全員無力化しても良いのか?」

「…ええ。構いません」

 一瞬の逡巡の後、彼女は頷く。

「───ああ、そうだ見せようと思っていた此奴を使うか」

 刺股を取り出す。

 そして石突きで地を突いた。

 数秒後、

『うわぁぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!』

 屋内から絶叫が上がる。

「「えっ!?」」

「どうぞ。全員無力化されていますから」

 そう言って中に入るよう促す。

「えっ、ええ…」

「お嬢様、私が先に入ります」

 壺井がそう言って屋敷へと入る。

 それに続き彼女が屋敷に入り、最後に俺が入る。

 外見は古民家と言った見かけではあったが、門を潜り塀の内側へと入ると立派な屋敷だった。

 しかしそこにそぐわない呪術的武装をした男性2名と現代の武装をした男性が4名が気絶していた。

「見覚えは?」

「そこの2名は支流末席の者ですそこの武装している者達は知りません」

「少なくとも真っ当な人間では無いな。それに日本人でも無い」

 眼を起動させる。

「………またこいつらか…んっ?ここが何なのか知らずに来た?そんな馬鹿な…ああ、其奴に操られてきたのか」

「分かるのですか?」

「ええ。この眼は全ての罪科をも見通します」

 4人を縛り上げ、2人は光璧の棺に放り込む。

 そして玄関から中に入り…中はかなり荒れていた。

 ご年配の男女を守るように倒れている4名と有象無象。

 とりあえず術者らしき人間達は光璧の棺に放り込み、武装連中は縛り上げる。

「こちらを飲ませてやってくれ。下級ポーションだ」

「「えっ!?」」

 ポーションを6本とりだしてテーブルの上に置く。

「急げ、撃たれている人間もいるんだ」

 保護対象の2人の光璧を外し、癒しの波動で体力を回復させる。

「内部争いのだしに俺が使われた形か」

「恥ずかしながら外部から力を借りるのをよしとしない強硬派…いえ、末席の者達が決起した結果です」

 いや、思い切り借りてるじゃないか…と言いたいが、恐らく傀儡は道具扱いなんだろうな…

「しかし、急に決めたのに何故こうも襲撃出来た?」

 そう呟きながら見渡す。

 ───ああ、此奴か。

「その男から離れた方が良い。其奴が引き入れた犯人だ」

 壺井が介抱していた青年を素早く聖光の棺に閉じ込める。

「何を…」

「粟津嗣道31歳、先々代からの悲願である当主の座を狙い一族の派閥を洗脳、千載一遇の好機に動く。現当主含めほとんどを討ち取り、次期当主若菜を迎え入れる計画を企てる。当主夫妻は現在別件で不在と言うことを知らなかった。

 7年前の加賀氏毒殺の実行犯。強心薬を服用していた加賀氏に3種の毒草を薄く混ぜ合わせ、過剰摂取に見せかけて殺害。露見を恐れ隠蔽工作を行う。

 そして───救世人道教会と接触あり」

 ポーションを与えられた粟津以外の全員がこちらを見ている。

「これらの件はお任せします。さて、情報提供と商談をはじめましょうか」

 俺はにこやかにそう話しかけた。



 まさか宝剣含め刀剣類5、防御結界類5、ポーション類37本…合計59億で買ってもらえるとは思わなかった。通常の所に売った場合は1~3億いくかどうかだが…

 しかし、救世人道教会もとんでもないところに喧嘩を売ったな。

 今回はお粗末な内部争いこそあったが、本来は万の諜報員や実働部隊を持つ組織だけに…放っておいても壊滅するだろう。

 ただ、それだと手遅れになる可能性もある。

「帰りながら出島は潰すか」

 予定時間より少しだけ早いんだ。寄り道の時間はある。組織壊滅のタイムアタック…狙ってみるか。

 とりあえず、関西方面は問題無い旨と、関東側に関してはこれから動くと磯部課長へメッセージを送り、電源を落とした。


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