第37話 Dies iræ
さて、タイムアタックの時間だ。
列車から降りると同時に電源をONにし、各方面へ連絡を取る。
磯部課長は先に許可を取っていたらしいが、場所分からないのにようやるわ…
あと、品川駅で待機しているという。
うん。目の前にいるな。
それを無視して一斉連絡の返しを確認する。
───情報屋から来ている。
ほほう?建物込みで売りに出ていると?なんてご都合的な…よし。10億までなら即買いだ。
あの辺りは治安悪化と妖怪の噂もあって地価が下がっているから…買えるだろ。
5分経過
多方面から連絡が次々と来る中、情報屋から連絡が来た。
俺が預けていた金で十分に買えるらしい。
すぐに買うよう連絡し、改札口を出る。
「ああ!こっちだ!」
磯部課長が大声を上げる。
道行く人達が何事かと見る中、パーカー姿の男性が磯部課長へ駆け寄る。
はい、光壁。
カッッ
パーカー男が光り、磯部課長の周辺が煙に包まれる。
それを見た往来の人々はパニックになる。
「そこの人達、撮影しているんだったら救急車に連絡、あの人警官だから撮影しているとあらぬ疑い掛けられるぞ?」
俺の台詞に何人かは慌てて撮影を止め、警察や救急車に電話をはじめる。
それでも何人かは撮影を続けているが…
三つの光壁を全て解除し、煙を吹き飛ばす。
「自爆テロか…」
「向こうに撮影している連中が居るので同行を求めてみたら如何です?テロリストの仲間の可能性もあると言って身分証提示を要求するとか」
「…おう、そうするが、コイツをどうするんだ?」
倒れている全裸の元パーカー男を指す。
「───後部座席一台空いてません?まあ、多分救急車が来るとは思いますが」
「車は4台で来ているが…まあ、手配させよう」
磯部課長はそう言って撮影していた連中に突撃していった。
17分経過
ゴタゴタも数分で救急車などが来たため沈静化。
「岩崎案件だ」の一言でスムーズに事が運ぶ不思議。
そして車で10分の所に来ています。
「本当にこんな所に…コンテナ街だろ」
「まあ、確かに周辺はコンテナターミナルですが…お、来たか」
買取完了のメッセージが入ってきた。
「よし」
「どうした?」
「もう少し行った加工工場前に車を停めて待機してください。突撃します」
「いや待て待て待て待て!それはマズイ!犯罪になるぞ!?」
「問題無いです。今から突撃する場所は俺が先程買い上げた土地であり、建物です。そして相手は不法占拠…明確な犯罪の温床であれば…あとは分かりますね?」
敷地内を素早く光壁で囲い、扉の前に立つ。
目の前の金属扉の背後に4人ほど銃を構えて待機している気配がする。
「さあ、始めようか…」
ジャスト、20分経過。戦闘フェイズ開始。
金属扉に手を掛け、前面に光壁を展開。全身の駆動部、部位骨格を連動させ、双掌打を放つ。
轟音と共に扉が吹き飛び、中で構えてた人間も吹き飛ぶ。
「逮捕は任せました」
俺はそう言い残して中へと入った。
21分経過
扉を入ってすぐ右手にある事務所に突入。発砲していた2人は光壁に弾かれ、被弾。手刀で手首を叩き、銃を吹き飛ばして部屋を出て奥の工場へ走る。
───ビンゴ。
工場ではこんな騒ぎになっているにもかかわらずあまり宜しくないことをしている連中が数名、武装している連中が数名、術師が数名…それと珍しい邪眼師がいる。
『珍しいな。邪視、邪眼か。欧州からの流れのようだが?』
『ほう?それを分かるとは…これはこれは』
『ボスの女に手を出して逃げてきたのか。成る程…こちらの組織は南欧の巨大組織と敵対する道を取ったようだな。背後に着いている政治家も愉快なことになりそうだ』
工場内の一部の人間がざわめく。
いや、凄いな最近のその道の人達。
少なくとも3カ国語は知っているのか。
そんな事を思いながら一気に邪眼使いとの距離を詰め、口にあるモノをぶち込む。
『!?…がああああっ!?』
零落した神や邪眼使い対策として一部界隈で使われている代物。
こんなもの使いたくも所持もしたくない代物…汚物である。
落神等に関しては使うことはないが、邪眼、魔眼使いの類には使わなければ周りに被害が出るので袋に入れて所持している。
勿論人のではない。
あ、気分悪くなってきた。周りを黙らせることに注力しよう。
26分経過
術師達はどうやらダンジョン付近の祭壇から逃げた連中のようだ。
「術師に告ぐ。お前達喧嘩を売ってはいけない連中に喧嘩売ったようだぞ?古源流といえば分かるか?」
後ろ手に親指と小指を結束バンドで縛り上げ、口は細布で上手く喋れないように封をしているが、一人年配の術者が「ふぐっ!?」と声を漏らし、みるみる顔が青ざめていく。
あ、分かるのか。ということは此奴は没落した正統派なんだな…源流派だろうな。
「教団が目指す偽神上洛については既にあちらに伝えた。良かったな?」
ガクガクと震える年配の術者と何事かと怯える術者達。
…うん。邪眼使いは問題無く再起不能だな。二重の意味で。
さて、まだ奥があるぞ…
様子を窺っていた磯部課長等に手で合図をし、先に進む。
29分経過
2階に上がるとすぐに銃撃で歓迎してくれた。
マシンガン含め結構エグイ武器を用意しているな…
相手も相手でバリケードを張りながら銃撃している為跳弾が返る心配は…無論ある。
というよりも現在進行形で悲鳴が上がっている。
光壁で全域を塞いでいるため見事なまでに跳弾。因果応報も相まって蜂の巣状態という…
数分経たずに銃声が止み、うめき声のみが数カ所から聞こえる。
床にも光壁しておいて良かった…TAC-338まで持ち出すとか、どうなっているんだ?
死傷者多数。ということでお邪魔します。
奥の部屋へと突撃。
ノックしたら不思議なことに扉が奥へとダイブしていった。
そして轟音と共に部屋の奥が爆発した。
───スマン。扉に爆弾しかけていたのか…図らずとも一掃してしまったようだ。
聖光を散らし、敷地全体に行き渡らせる。
いや、まだあと一人、いや二人いるな。
部屋の先に進む。
スチールキャビネットを開くとそこは隣の部屋への扉だった。
そして2人の女性がいた。
ガタガタと震え、怯えた表情でこちらを見る東南アジア系の女性と、彼女を守るように前に立ち、驚愕の表情でこちらを見る真子だった。
34分経過
付近で待機していた警官隊や救急隊も突入し、現場はかなりごった返している。
そんな中俺はのんびりと歩道からそれらの様子を眺めている。
「怪我人と死亡者の搬送はほぼ終わったが…恐ろしいな。これは」
横に立っていた磯部課長が険しい顔でそう呟く。
「内部文書は紛失させないでくださいよ?」
「コピーを2部とっておくが…無くなるんだろうな」
「警察内部どころか各方面に協力者がいるようですからね…ただ、それも二月と経たずに崩壊するとは思いますが」
「どういう…今日行った先で何かあったのか?」
「まあ、あちらにも話をしておいたので叩くはずですし、なによりこの組織、南欧の巨大組織のお尋ね者を受け入れているので…そこからの報復もあるでしょうね」
「は!?そりゃあマズイだろ!」
「あの組織は昔の任侠的な連中だ。ボスの女を邪眼を使って奪った下衆を生かしちゃ置かないし、それを受け入れた組織も敵だと豪語する程には大きな所だ。
下手に庇わず強制送還に留めて置いた方が良い。飛び火しますよ?」
「………」
憤然とした表情で黙り込む磯部課長に「国際問題にしたいならどうぞ」とだけ言う。
「───なんで国際問題にまで発展するんだよ」
「そりゃあ、奴が国のお偉いさんの娘や奥さんをその眼を使って事に及んでいるんですから…ねぇ」
幾ら正義感があっても限界はある。
色々な感情をない交ぜにした表情をし、空を見上げる。
「───分かった。どうせ俺等は上にあげるだけだ」
深い深いため息を吐き、磯部課長は絞り出すようにそう言い建物の中へと向かって行った。
40分───終了。
特に問題も無く救助出来る人間は救助できたし、周辺への被害を抑えることに注力した結果と思えばまずまずか…
連合組織総人数:36名
武装勢力 :24名
術者・邪眼師 :10名
幹部クラス :2名
救助者:6名(日本国籍3名、外国籍3名)
「さて、家に帰るか…土産物は複数買ったし、喜んでくれるかな…」
「待て待て!おまっ、帰るな!」
「俺の仕事は終わったんですが?」
「ここはどうするんだよ!今の所有者はお前だろう!?」
「明日クリーニング掛けて他所に売りますよ。聖光も掛けてあるので心霊物件にはなりませんし…まあ、瑕疵物件にはなるか」
「売るのはもう少し待ってくれ。周辺含めて調べたい」
「……まあ、ご自由にどうぞ。使うとしたら倉庫として使いますので」
「だーかーら帰るな!お前、今回カメラ付けてないだろ!」
「ありますが?」
「は!?何処にだ!?」
「2カ所に付けているので後程送ります。これで良いですか?」
「………ああ。車を回すか?」
「タクシーが来ているので結構です」
俺はそう言ってちょうど今来たタクシーに乗り込む。
「お客さん、どちらまで?」
「探索者協会本部まで」
「自宅でなくても?」
「分かるのであれば」
タクシーが走り出す。
会話もなく、車は協会本部ではなく、自宅へと走る。
20分ほど過ぎた辺りで俺は運転手に話しかける。
「───運転手さん、日本は長いのかな?」
「……4年になります」
「4年か…今日多分運転手さんと同じ国の人間だろうなぁ…そんな人を見たんだ」
「へぇ…どんな感じの人でした?」
「サングラスを掛けた醜男だったよ。どうしようもないんで思わず犬の糞を喰わせてしまったよ」
「!!っ、そうか…そうかぁ…」
信号が赤になり、車がゆっくりと止まる。
「Fragenti fidem non est fides servenda」
「…感謝します」
「一応話はしておいた。強制送還の根回しもしておくので後は任せる」
「何から何まで…本当に、ありがとう」
「両方のボスによろしく伝えておいてくれ。奴の目を恐れる必要は無いとも」
「ああ、伝えておきます」
信号が変わり、車は再び走り出す。
そして数分と経たずに自宅前に着いた。
「釣りは要らない。安いワインでも買って乾杯してくれ」
「いや、金は…」
運転手が慌てるのを尻目にタクシーを降り、家へと入った。
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