第65話 一年の計は元旦にあり。ただし当日から計画は破綻する


「新年おめでとうございます」

「[新年おめでとうございます]」

 我が家は0時に新年を祝う事は基本無い。

 人が決めた時間的には正しいが、昔ベースで言えば日が昇ったら年明けだと思う。

 更に細かく言えば太陰暦で暦が設定されているはずなんだよなぁ…従って新暦の正月は正月では無いわけで…

 なんて言い出したらきりが無いので人正月という事で。

「2人にはお年玉を渡そう。いつもの事ながら大切に使えよ?佑那は…まあ、仕方ないと思うが」

「仕方ないと思うのであればあんなお嬢様学校への許可を…なんで願書が2年前からって…」

「身辺調査と推薦人の確認だろ。理事長が挨拶に来た時に聞いた」

「えっ!?いつの間に!?」

「お前、理事長の関係者も助けてたんだな」

 まあ、俺も理事長本人を助けたが…因果ってのは本当にややこしい。

 そのせいで推薦枠ガン無視の特別枠での入学”願い”が既に出来上がっているのだが。

「あっちに入ると何かと入り用だ。無駄遣いはするなよ?」

 俺はまず佑那にお年玉と書かれた封筒を渡す。

「…あの、結羽人お兄様?これ、お年玉袋では無くて角3封筒とかいうモノでは?」

「ああ。一目見て良く分かったな?」

「あとなんかギッシリなんですが!?」

「沢山入っているからって無駄に使うなよ?」

 それだけ言って友紀の方を向く。

「大丈夫だとは思うが、お前も入り用になるだろうから無駄遣いはするなよ?」

[僕、あんなに沢山は怖いんだけど…]

 ちょっと怯え気味の友紀には普通のポチ袋を渡す。

 それを見てホッとした顔の友紀。

 一方隣では…

「帯封6つ…六百万…怖いんですが!?」

「百は常に手元に置いておけ。残りは銀行に預けておけば良い」

 贈与税云々に関しては探索者共有口座から出しているので問題は無い。

 この辺りは探索者が増えて欲しい国の必死さが伝わるな。

[兄さん、開けてみてもいい?]

「良いぞ」

 友紀がポチ袋を空け、固まった。

[…カード?付箋紙…暗証番号って]

「友紀の口座だ。そろそろ渡しておこうと思ってな」

 言いながら俺は佑那と同じ封筒を友紀に渡す。

[えっ?]

「そのカードは元々渡す予定だったモノ。これが俺のお年玉だ。その袋にはお年玉とは書いていないだろ?」

[うわぁ…うわぁ…]

「佑那と同額入っているから」

 友紀が泣きそうな顔をしているが、正月くらいは弄らせてくれ。

「まさに、外道!」

 佑那が驚愕した顔でそう叫ぶ。煩いわ。



 家族で初詣に行き、ちょっとしたハプニングはあったものの無事帰宅。

 で、2人とも友人が迎えに来たのでお参りに行った。

 そして俺も───静留が女性SP同行でやってきた。

「新年おめでとうございます!さあ参りましょう!それとこちらをどうぞ」

「ああ、明けましておめでとう。態々悪いな…こちらがお返しだ」

「これがあれば、去年の嫌な思い出も消えます!」

「…お前は何故そこまで食い気に走ったんだろうな…」

「余所ではきちんとしていますよ!?」

「佑那とおなじこと言わんでくれ…」

 不安になるんだよ、その台詞。

 一路神社へと向かう。が、

「───なあ、いつもの神社では無いのか?」

「ええ。契約している星見の方が今年はここに詣でるようにと」

 なんで日吉神社に…もう面倒事の予感しかしないんだが…

 住宅街の奥にあるその神社に着く。

 正月なのに人気が無い。

「これは、謀られたな」

「えっ!?」

「馬鹿な!」

 驚く静留とSP。

 言い方が悪かったか。

「謀ったのは恐らく中務省だ。星見の人間は上からの指示だろう」

 神託スキルを発現させているものは俺が知る限り日本では2名。

 その内1人は既に亡くなっており、もう1人もかなりの高齢だ。

 恐らくその人物から中務省経由で指示が出たんだろうな。

「最悪上司を呼び出す準備をしないといけないのか」

「結羽人さん!?」

 おっと殺気が漏れた。

「…行こうか。ただ、体内に気を張り巡らせろよ?絶対に面倒事が待ち構えているからな?」

 俺はそう言って不自然なまでに人気の無い参道を歩き出した。


 境内は神聖な空気…というよりも聖域結界が張られ、一人の男が立っていた。

「来たか。神を待たすとは不敬な」

「神じゃ無いだろうが」

 男の第一声に即返す。

 ビシッと空気が張り詰めた。

「お主、自分の言った事によってどのような咎があるのか、分かっておるのか?」

「神と呼ばれるモノは遣わされた伊邪那岐、伊邪那美までであり、その2人によって生み出された者まではギリギリ神の範囲と言えるが、以降は神人であり神では無い」

「黙れ!この無礼者めが!貴様は大人しく我が手駒となるのだ!」

「それが言いたいがためにそこで瀕死の職員2人に無理矢理聖域結界を作り出させているというのか?」

「人が神に仕えるのは当然。命を差し出す事も誉れであろうが」

「初詣の願掛けが叶った事は一度も無いが、ここまで酷い事も無かったな…仙の位まで落ちた神人を滅ぼすのはせめてもの慈悲か?」

 体内の結を解き、聖域を自前の力で逆侵攻をしかける。

「ひっ!?不敬ぞ!人の分際で───」

「正月早々何をやっているかなぁ…やあ、結羽人くん。明けましておめでとう」

 緊迫した空気が霧散する。

 いや、強制的に別の世界となった。

「上司の監督がなっていないから稀少な聖域使いが使いものにならなくなりそうなんだが?新年おめでとう」

 俺はやってきた天之御中主にそう声を掛ける。

「そこは人と同じかな。良いやつもいれば悪いヤツも居る。そもそもあの2人も神では無かったんだけど…彼女だけは神になったね」

「何故、尊き御方が…」

 存在はそこにあるだけで既に何者か分かったのだろう。

 顔面蒼白で天之御中主に対して男は膝を突いていた。

「少しでも邪を纏っていたり淀みを纏った神が居たら知らせるようお願いしていたからねぇ…彼に」

「来なかったら他地区の神呼んでぶちのめして貰うかこの手でぶちのめすかの二択でしたが?」

「流石にそれは止めてね?前に管轄区外の神呼んだでしょ。その時も後から言われたからね?」

「言われてもなぁ…あの件はあちらが悪いんだが?」

「…えっ?………今度酒奢って貰おう」

「そこで俺を巻き込まないでくれ」

「面子が足りなかったら呼ぶよ…さて本題だが、コイツの処分についてはこちらでやっても?」

 気配が一変する。

 何か言おうとしていた男は声も出せずに口を半開きにしてただただ震えていた。

「今の世界状況を鑑みたらこんな馬鹿な事できないんだけどねぇ…やらかし派閥の者だからなぁ」

「分かっているなら京都へ行ってくれ」

「私が居ない方が都合の良い事も色々あるのさ…父親ではなく祖父の方に引き取って貰うよ。彼なら知らないわけでも亡いし、その辺の山経由すれば何とかなるからね」

 天之御中主の台詞に「ああ、成る程」と納得する。

 この男を暫く引きずり回す気だ。

 少し離れた所に目的の神社はあるが、あちらこちらの神社の側を引き回しながら連れて行くのだろう。

 ただ、そこで任せると言ってはならない。

「こちらに配慮しつつそちらの良いように」

「ふふふ…分かったよ。じゃ、これは連れて行くからそこの人達をよろしく」

 そう言って天之御中主様達は去っていった。

「…どうせ近くで待機しているだろ」

 ため息を吐きながらスマートフォンを取りだして上席に連絡を入れる。

『新年おめでとう、日吉神社からかな?』

「めでたいと思っているなら今すぐ辞めた方が良いぞ?そっちの職員2名が神に力を搾り取られて瀕死だ」

『───すぐに救急車を手配する』

 いや本当に神に何を期待しているんだ…

「…よし、お二人さん。参ろうか」

 へたり込んでいる二人を起こし、埃を払う。

「「えっ?」」

「参拝はしないのか?」

 そのために来たと思うんだが…

「あの、もう神様は居ないのでは…」

「あの神を祀っているわけではないぞ?ここは」

「「えっ?」」

「まあ俺はただの挨拶として参るわけだから気にする事もないが…」

 倒れている男性2人の腰の部分にカイロを貼りそのまま放置。

 後は自分で何とかしてくれ。

 正月だが。

 気温一ケタ台だが。


2人とも天之御中主はしっかりと見る事ができなかったようだ。

まあ、正月に神を拝めたんだから喜べ。


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