第61話 知らないうちにコードネームが付いていた。


 どうやら友紀が置き手紙を読んで香椎の爺さんに連絡を入れたらしい。

 香椎の爺さんは友紀に駄々甘だからな…おっと、ブーメランが飛んできたぞ?

 そして爺さんの怒りが有頂天そのままにクレームin。

 表には出ていないが爺さんの功績と戦闘教導、そして一族関係は関係各所無視できないレベルだったりするからな。

 訳のわからないまま話を聞くと嫌がらせどころか死んでこいレベルでダンジョン侵攻を拒否ったダンジョン殲滅部隊の人間がいると聞き大慌て。

 そいつを叱り飛ばし現場に送り込んだところ、忍者が姿を現して侵攻を止めたと寝言を言ったので制止しようとしたところ逃げられた───らしい。

 しかし、確認すると実際ダンジョン内には妖怪どころかモンスターすらいない状態になっており、更には戦闘跡があったため、その人物を捕まえてダンジョン殲滅部隊に入れようと現場にいた奴から提案があったらしい。

 で、中務省に問い合わせ(協力拒否を認め強く出られなくなった)するも拒否。

 爺さんに俺の所在を問い合わしたところ、これも拒否。それどころか逆鱗に触れるという大騒動に発展しているとの事。

「ふーん」

「ふーんてお前…」

「師範。一族の秘伝を公に開かされた挙げ句飼い殺しになりたいです?」

「ゴメンだな」

「家族を人質に取ろうとしたり冤罪を掛けて拘束してこようとする組織を信用出来ますか?」

「そんな事までしようとしていたのか!?」

「ええ。だから爺さんはブチ切れたんですよ」

「そりゃあ親父もキレる。あの時の焼き直しだからな」

「と、いうと?」

「まだ20年は経っていないか…十数年前の宮内庁ダンジョン崩壊事件の解決の一端を親父が担っていた。と言うよりも奴等の本命は陛下のお命だったんだ」

「それは表に出せないですね」

「当時自衛隊の宮内庁ダンジョン部隊は逃げ、皇宮護衛隊は鬼の襲撃にほぼ壊滅。親父と俺の兄のみで鬼3体と小鬼達の侵攻を防ぎきった。

 しかし、上の連中が行ったことは部隊逃走の隠蔽と表に出ることのなかった親父を一般人がその場にいたことによるせいによってその一般人を逃がそうとして犠牲者が出たと会見で発表してしまった。それ以前に宮内庁ダンジョンのモンスターは正門へ向かっていると報じていたから今更言えなかったんだろうな」

「いやそれは悪手どころの話ではないでしょう」

「ああ。兄貴は重態の中、その報を聞き憤死したよ…「訳あって汚名を着せられるのは構わない。ただ武官の保身のために我が一族は───」とまで叫んで絶命したよ。見舞いに来ていた俺や皇宮護衛隊達の前でな」

「…」

「まあ、直後陛下が異例のお気持ちどころか糾弾のお言葉を表明され、更に呼応するように各警備会社が自衛隊の天下りを完全拒否。

 幾つかの関連業界が締め出しに掛かり上の連中は撤回と陳謝をするも「なら息子を蘇らせてくれ。トドメを刺したのはお前達だ」と言う言葉の前に何も言えず辞任…すら認められず処分。

 そして親父は役目を次代に受け継がせる事に専念すると引き留められるも引退したわけだが…上の連中は保身のために貶めるのと同時にそれを何とかしようと動いた際に手を差し伸べて取り込もうと画策していたことが分かってなぁ」

「どこまでも学習しないか…10年以上経てばそうなるか…いや、関係者がいるわけだから学習するだろうが」

「その上官らの一族は皆絶えたよ」

 昏い笑みを浮かべた師範に「ああ、そういう」と頷いた。



 誤った愛国精神と選民思想なんだろうか。

 これも愛国精神の一つ、なんだろうな。

 ただ、今回の件で中務省があんなに弱腰というのがおかしい。

 警察庁は皇宮警察の流れで宮内庁ダンジョン周辺と本部に皇宮護衛隊を置いていたのも納得だが、自衛隊が…いや、ダンジョン殲滅部隊の成り立ちは間違いなく宮内庁ダンジョン崩壊事件で中務省ができ、殲滅部隊内に対化け物の専門家を派遣することでこれまで以上にスムーズに管理外ダンジョン等を殲滅しているという話だったと思うが…

 そして軍部は暴走する。

 ここまでがテンプレ。

 ここからがテンプルこめかみ

 テンプレ通りなら軍部暴走だったが、自衛隊自体が警察権力や協力関係格者すらガチ撤退騒ぎになり更には過去の爆弾香椎の爺様まで爆発。お詫び行脚のなか、ポジティブモンスターであり行動力のある体育会系軍人が懲りずに方々調べ俺に辿り着いた。

 あの騒ぎから2週間は経ったか…12月に入ったある日のことだった。

「お前が、岩崎結羽人だな?」

「磯部さん、コイツです。ストーカーして人の個人情報を漁っていたのは」

「おう!ちょっと署まで来て貰おうか」

「なっ!?私は───」

「名乗り上げても良いが、その結果お前さんの所属組織は極めて多大かつ致命傷を受ける事になるぞ?現にお前のその暴走聞き込みでお前の上官が首を吊ったんだが?」

 まあ、直後に発見され命に別状はないが。

「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」

「自分に酔いしれ組織の害にしかならないことを行っている無駄飯食いの大鳥は駆除対象だろ。どう考えても」

「何ッ!?」

 男は磯部課長に殴りかかり、アッサリと取り押さえられた。

「公務執行妨害の現行犯も追加。お前どうしようもないな…」

 呆れたように言いながら手錠をかける磯部課長。

「しかしお前もお前だよ…警察関連組織からは岩崎案件で知られ、自衛隊の一部からはコードネーム”メタトロン”だぞ?絶対に触れるなと自衛隊どころか駐留軍のお偉いさんまで騒いでいるらしいな?」

「そんなコードネームは知らないんだが?」

「本人には言わないだろ…」

 男を部下に引き渡し大きなため息を吐く磯部課長に俺は疑問を投げかける。

「随分と横の連携ができてきたようで?」

「誰かさんのおかげでな!?」

「もしその誰かさんにあったら宜しく伝えておいてくれ」

 俺はそう言い残しその場を去った。



 翌日、自衛隊のお偉いさん方が家ではなくI・W不動産へ詫びに来ていた。

 これは、情報は掴んでいたが奴に教えなかったという意思表示なんだろうな…

 当たり前だが諜報部隊は動いていただろうから俺のことは早い段階から把握していただろう。

 そしてただの詫びではないんだろうな、とも。

 ───話を聞いて分かった。

 中条グループや国内外の企業が同じタイミングで警備会社の変更話が出たため慌てて調べたら全員が「国益と言いながら個人やその家族を脅したり尊厳を傷付けるような行為、情報を抜き出そうとするような組織の退職者を抱えた所は信用ならない」と言ってきたという。

 現状もその警戒は解かれていないのかこのままだと年を越すと同時にかなりの損害がその大手警備会社に出るとただでさえ入隊者が減っているのに今後本当に組織運営サポートが厳しくなっていくと泣きつかれた。

 何も警備会社だけではなく関係会社にも彼等は圧力をかけてきたらしい。

 いや何してるの?

 何故か同席してきた静留を見る。

 静留は「当然では?」と言った表情でこちらを見て小首をかしげた。

 うっそだろおい…この後始末俺がするのか?

「結羽人さん。この騒動、貴方だけではありませんからね?」

「というと?」

「友紀くんに恩義のある方や信者が即座に動いたんです」

 あっ、これはマズい。

 俺の中で予想していた国内外企業の数が二桁増えた。

 特に外資系はヤバい。

「確実に俺ではなく友紀の身に危険が迫っていたんだな。まあ、誘拐含め物理的に危害を与えるのは100%不可能だが」

 とりあえず謝罪を受け入れ今後俺らに対し無理に強要等しないことを約束・宣誓をして貰い話は終わった。

「───俺は大人しくダンジョン労働者しておけば問題無いんだが…」

 自衛隊のお偉方が帰ったあとため息交じりにそう呟くと静留が「まだ言ってるの?」と呆れたように返してきた。

「会社を複数所有してそれぞれの業界にかなりの影響力を持つ経営者なのに?」

「俺は困っていた奴に自分が使える金を貸しただけだぞ?」

「……常々思うけど、その家族のことは途轍もなく大切にするのに自身に対してはどうしてそこまで無頓着なの?何かあったら友紀くん泣くわよ?今回の件もそれを察した周辺が反応した結果よ?

 …まあ、うちが終息宣言出したら即座に元に戻ると思うけど…」

 深い深いため息を付く静留に俺もため息を吐く。

 安全マージンはある程度取っているぞ?

 ただ、それをぶち抜くようなとんでもない事がよく起きるだけで。

 いやマジで俺じゃなかったら死んでいるような案件が多すぎるぞ?

「一応言っておくが、自分が自由にできる金は一度ダンジョンに入ればそこそこ稼げるから問題無いと思っているだけだぞ?」

「だーかーら!毎日下層や深層域まで普通に往復してモンスターを倒したり大量に採掘をするような個人が存在しないの!」

 いや俺が居るじゃないか、と言おうとしたが静留の口撃は止まらない。

「そもそも協会や合同買取所で変に搾取されたりしているのは個人で動いていたからなのですよ!?結羽人さんが別に構わないといったからそこまで大事にはしていませんが、合同買取所に関しては私達中条グループは不正と汚職の温床だと証拠を突きつけ改善要求をしましたけど、他企業がのらりくらりと引き延ばしを行っているので近々一般への公表と共に全国の合同買取所付近に単独の買取所を出店する予定です」

「おいおい…それこそ何十億掛かる話だ?」

 いや、これもう決定事項として動いているよな?

 国への届け出や予算の確保、物件と人員の確保、セキュリティの問題…ああ、

「今回の件で警備会社の足元を見た交渉を急ぎ行うと」

「何処に対しての飴で、何処に対しての鞭かは…ねぇ?」

 妖艶に笑う静留は既に経営者と言うよりも女帝の風格が出ていた。

「頑張っている方々がくだらない理由で搾取されるというのは私達の経営方針にそぐいませんので」

「まあ、俺以外にも結構数居たようだしな」

 俺の方も一応渡しておこうか。

 情報屋などに依頼していた調査結果を静留に渡す。

「これは?」

「そっちが調べ上げた調査結果と同じ物だ。ただ、もっと闇深いから会社に戻って上の連中と一緒に見てくれ」

 情報屋と2つの組織の諜報力。それらが調べた日本全国の実態を2,700ページにまとめ上げられた大作だ。

 ───正直。これが公表されたら色々な信用問題が揺らぐが、仕方ないレベルだと思う。

 買い取りの価格は各企業が適正価値を国に提出し、最低値を定めた上で適正な価格と国がお墨付きを与えている…ハズだった。

 しかし今回の調査でかなり洒落にならない事実が大量に出てきたのだから。

 マギトロンや鉱石関係はまだ良い。適正価格だ。

 ただそれ以外の価格幅があり得なかった。

 廣瀬氏が数日かけて各論文や買取価格から算出した結果が…笑えなかった。

 いや、その金額が全て税金というのであればそう言えば良いのだが、企業の懐に入っているとなると話は変わる。

 最近値上げが発表されても尚最終粗利6割というのはどうなんだ?

「恐らくドロップアイテム等は表の値段が上がることは無いだろう…ブラックマーケットに全て流れるだけだろうな。その事含めそこに書いてある」

「…分かりました。これは本社で読ませてもらいます」

 国の買取価格は…上がらないだろうな。

 それを知らない国民は適正価格を知らないまま提出し、その大半が安く買い叩かれたまま闇に消えていく。

 本当に何処までも腐っているよ。国も、世界も。


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