~ゴッド・オブ・ブレイビア~ 姫騎士デュエル・アナリストの俺、男だからとランク2位のチームを追放され、訳あり美少女ばかりの新チームに拾われる。「開幕戦は3日後だ。よろしく頼むよ」「……OK」
マナシロカナタ🐈ねこたま25年夏発売予定
第1章 捨てる神あらば拾う神あり
第1話 男だからとクビにされる
『姫騎士デュエル』
それは美しい姫騎士たちが、安全かつ公正なルールの下でド派手な魔法戦闘を行う、極上のバトルエンターテインメントである。
特に『姫騎士発祥の地』と言われるここブレイビア王国では、その人気は高く。
トップランカーの姫騎士ともなれば、富と名誉は思いのまま。
さらにはアイドルのごとく絶大な人気を博していた。
そんなブレイビア王国の誇る姫騎士デュエルのトップリーグが『ゴッド・オブ・ブレイビア』だ。
そこに参戦する強豪チーム『フレースヴェルグ』でデータ分析担当――いわゆるデュエル・アナリストをしていた俺ことヤマト・リンドウは、
「ヤマト、あなたはクビよ」
行きつけの寂れたカフェで、徹夜で仕上げたばかりの個人フィードバックシートをファイリングしていたところで、突然やってきたチームリーダーのキャサリン・マオから、冷たい声でそう告げられた。
「今……なんて?」
「あなたはクビだと言ったのよ、ヤマト。チームリーダーの私には、その権限があるわ」
「さすがに唐突すぎないか? まずは理由を聞いてもいいだろうか?」
キャサリンにいきなりクビと言われて、俺は困惑していた。
徹夜で疲れていたはずなのに、一瞬にして眠気が吹っ飛ぶ。
「理由? そんなもの決まっているでしょう。あなたがチームに必要なくなったからよ。それ以外にあるかしら?」
しかしキャサリンは大きな溜息をつきながら、肩をすくめて小馬鹿にしたような言葉を返してくる。
「冗談はやめてくれ。今はシーズン開幕直前の大事な時期だろ。去年はエースの君が個人ランキング2位の活躍をしたおかげでチームも2位。個人ランキング1位のアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクを直接対決で倒せば、優勝に手が届くってところまで来たんだぞ?」
それを踏まえての今シーズン。
その開幕直前。
優勝も視野に入れるフレースヴェルグにとって、とても大事な時期だった。
さっきまとめ上げたばかりの資料も、ほぼ全てがアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクとキャサリンの直接対戦に向けてのものだ。
アリッサ・カガヤ・ローゼンベルク。
最強チーム『バーニング・ライガー』の誇る絶対エースだ。
参戦1年目のデビュー戦から173戦無敗。
現在5シーズン連続で個人ランキング1位&チーム優勝を成し遂げている、まさに現役最強の姫騎士だ。
破壊力抜群のド派手な炎魔法で、圧倒的に攻め立てて勝ち切る姿から、ついた二つ名は『烈火の姫騎士』。
キャサリンは去年アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクと、ゴッド・オブ・ブレイビア(リーグ戦)で1度。
ドラゴンキング・トーナメント(一発勝負の勝ち上がり戦)でもう1度。
さらにプレーオフの合計3度戦ったものの、その全てに敗れていた。
誰もが認める絶対王者、それがアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクである。
そんなアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクとの来たるべき頂上決戦に向けて、1%でも勝利の確率が上がるようにと、俺は詰めに詰めたデータ分析とキャサリン用に個人カスタマイズした対策を用意し終えた――まさにそのタイミングだったのだ。
寝耳に水とはこのことだ。
しかしキャサリンは冷徹な口調のままで言った。
「大事な時期だからよ」
「え?」
「あなたの存在はもうデメリットでしかないわ。皆まで言わせないでちょうだい」
「デメリットって。おいおい、それはないだろ?」
「いいえ、あるわね。そもそも男って時点で微妙なのよ。実際に姫騎士デュエルを戦ったこともないくせに」
姫騎士に戦うための力――魔力を与える精霊は、女性としか契約しない。
よって男は姫騎士にはなれない。
子供でも知っている世界の
だから男の俺は、姫騎士としてデュエルに臨む気持ちを想像することしかできない。
たしかにそれは事実だった。
だけど。
「そりゃ男の俺は、どうやったって姫騎士にはなれないさ。だから直接的な貢献度は低いかもしれない。それでも昼夜を惜しんでデータ収集をして、分析して、細かくフィードバックしてきたと思っている」
俺は俺なりに、裏方として全力で貢献してきた自負がある。
「ええ、そうね」
しかしキャサリンは、そこで俺の意見を肯定してみせた。
「だったら――」
「だからそれが一番のデメリットだと言っているのよ」
「……どういう意味だよ?」
キャサリンの意図が掴めずに俺は小さく首を傾げた。
「今の私は個人ランキング2位。去年もあと一歩のところまでアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクを追い込んだ。そうよね?」
「ああ、そうだな」
正直に言えば、直接対決はどれも完敗だったので、『あと一歩』は言い過ぎだと思うんだが。
話が逸れてしまうので、とりあえず今はそういうことにしておこう。
「それを踏まえて、私はオフの間に徹底して鍛錬を重ねてきたわ。私は強くなった。その自信と手応えがある。もうあなたに事細かに指示されなくても私は勝てるのよ。確固たる勝つイメージが私の中にできているわ」
そう言い切ったキャサリンは言葉通り自信に満ち溢れていた。
だがしかし。
「オフの間に成長しているのは、アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクだって同じだ。彼女は年々、驚くほどに強くなっている。去年のイメージのままじゃ、勝ち負けは測れないぞ」
さっき俺がまとめたデータは、2人のオフの成長予測も加味したものになっている。
もちろん今シーズンの実際のデュエルデータを随時入れ込んで、アップデートしていくのだが。
それでも現状考えられうる最高のフィードバックシートだと、自信を持って言うことができた。
しかしキャサリンは大きなため息をつくと、再び小馬鹿にしたように肩をすくめた。
「はぁ、いい加減に分かってもらえないかしら? 姫騎士でもない男のあなたに、こうやって偉そうにあれこれ言われるのが不愉快だと言っているのよ」
「な――」
「だってそうでしょ? 個人ランキング2位のキャサリン・マオが、ただのデータ分析しかできない裏方の男ごときに、なんであれこれ言われないといけないわけ?」
「……俺が男だからなのか?」
姫騎士デュエルの世界は徹底した女尊男卑。
分かっている。
分かってはいるが、それでも俺はやるせない気持ちを押し殺すことができないでいた。
「それともう1つ。あなたのフィードバックを別のデュエル・アナリストに見せたら、意図の分からない非合理的な箇所がいくつもあると指摘されたわよ 。合理的なフィードバックとはずいぶんかけ離れているってね」
「それは個人の戦闘スタイルや性格に合わせて、データ分析に必要なバイアスを加えているからだ。データは誰にでも当てはまる万能薬じゃない。勝利という結果を得るために、個々人に合った形でフィードバックする必要がある。それがチーム専属デュエル・アナリストの仕事だ。実際、今まではそれで勝って来たはずだ」
「あら、まるで今まで勝ってきたのは自分の手柄とでも言いたいみたいね? 裏方の男のくせに」
「そんなことは言っていないだろ。揚げ足を取るなっての。対象となる個人を理解して、個々人にあったフィードバックを返すことは、俺は間違っていないと思う」
「とてもそうは聞こえなかったけれど? でもそれならより一層あなたは必要ないわよね。だってもうあなたと私は、まったく理解し合えていないのだから。あなたの言う個人を理解して行うフィードバックは、私には行えないわけでしょう?」
「それは……そうだけどさ」
キャサリンはもう俺のフィードバックは聞き入れないだろう。
よって俺はもう、キャサリンに貢献することができない。
「話はついたわね。一応、今までのお礼は言っておくわ。今日までありがとうヤマト。そしてさようなら。もう会うこともないでしょう。だって私とあなたは住む世界が違うのだから」
キャサリンは最後にクスクスと笑いながらそう言い残すと、場末のバーにはなんとも場違いに、颯爽と肩で風を切りながら歩き去っていった。
俺はその背中が見えなくなるまで見つめてから、
「マジかよ……」
無力感にさいなまれながら、力なく机に突っ伏した。
ヤマト・リンドウ。
それは25歳にして、突然無職になった男の名前だった。
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新作をお読みいただきありがとうございます!
楽しんで頂けるよう頑張ります!
そして読者の皆さんにお願いです。
スタートダッシュが肝心です!
初日は景気よく「複数話」更新します!
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この2つの数字がよければ、いろいろと作品の未来がよくなることもあると思いますので、なにとぞー!(>_<)
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