~ゴッド・オブ・ブレイビア~ 姫騎士デュエル・アナリストの俺、男だからとランク2位のチームを追放され、訳あり美少女ばかりの新チームに拾われる。「開幕戦は3日後だ。よろしく頼むよ」「……OK」
第3話「今日から俺はライトニング・ブリッツのデュエル・アナリストだ!」
第3話「今日から俺はライトニング・ブリッツのデュエル・アナリストだ!」
「俺がミューレのチームに?」
「今季からトップリーグに参戦する『ライトニング・ブリッツ』。実は私はそこのオーナーをしていてね。優秀なデュエル・アナリストを探していたところだったんだ」
「ライトニング・ブリッツ? ああ、フレースヴェルグの開幕戦の相手か。でもチームの資料を見たけど、オーナーは別の名前だったはずだけど」
「そんなところまでよく見ているねぇ。実を言うと名義変更の手続きにちょっと手間取ってね。前から実質オーナーとして動いてはいたんだけれど、正式にオーナーに就任したのはつい昨日なのさ」
「本当にギリギリだな。っていうかそもそもライトニング・ブリッツは、オフに金銭面のゴタゴタがあってチームの姫騎士・スタッフが全員、よそに移籍したって話みたいだけど。オーナーまで代わっていたのか」
ライトニング・ブリッツは去年2部リーグで優勝し、今シーズンからトップリーグであるゴッド・オブ・ブレイビアに昇格を果たしたものの。
オフにオーナーの運営資金使い込みが発覚してチームは経営難に陥り、姫騎士もスタッフもごっそり他のチームに移籍して、抜け殻みたいになっていたはずだ。
参戦自体を取り止めて、チームも解体って話まであったはず。
だから初戦の相手だったけれど、俺は何の対策も取ってはいなかった。
所属する姫騎士すら不明だし、対策の取りようがなかったからだ。
ぶっちゃけ不戦勝だと思っていた。
「ちょっとした幸運があってね。チームの経営権を私が手に入れたんだ。まあ、お金はそれなりにかかったけどね」
「察するに、名義変更の手続きに手間取ったっていうのは、買い取る金を用意するのに時間がかかったってことか?」
「人がせっかくオブラートに包んでいるんだから、そこはスルーしてくれていいんだよ?」
ミューレが小さく苦笑した。
「悪い、つい癖で細かいところまで確認したくてさ」
「ふふっ、職業柄というやつだね」
「それで中身がすっからかんのチームだから、開幕直前のギリギリまでスタッフを探しているってわけだ。で、俺に白羽の矢が立ったと」
「ありていに言えばそうなるね。話が早くて助かるよ。もし受けてくれるなら、全権委任とは言わないが、ヤマトのやり方に私は口出ししないと約束する」
「俺のやり方は最大限尊重してくれる、と。でもいいのか?」
「もちろんさ。ヤマトの能力を、私は以前から高く評価している。少し前まで下位に低迷していたフレースヴェルグが強くなった理由の一つは、君の存在だと思っていたからね。今日、偶然にもこの場に居合わせたことには、運命すら感じているよ」
「運命とは、これまた情熱的な口説き文句だな。当然、姫騎士はもう3人揃っているんだよな? 3人は無理でもリーグ戦に出るなら最低でも2人必要だ。なにはともあれ姫騎士がいないと何も始まらないぞ?」
キャサリンの言葉ではないが、実際に戦うのは姫騎士だ。
姫騎士抜きにして、姫騎士デュエルは成り立たない。
3人の姫騎士が1デュエルずつ戦って、2勝した方が勝ちとなるチーム戦は、姫騎士が最低2人はいないとその時点で不戦敗となってしまう。
チームの姫騎士が全員抜けたライトニング・ブリッツは、姫騎士探しから始めないといけない。
それもトップリーグで通用するだけの優秀な姫騎士を、だ。
「今は2人だけだが、3人目もなんとかめどがついている。まだ実績はないし欠点も多い子たちだが、全員、私が見込んだ才能ある姫騎士さ。ヤマトのような実績のあるデュエル・アナリストに見て貰えれば、モノになるはずだよ」
とりあえず姫騎士は大丈夫、と。
「資金繰りはどうなんだ? メインスポンサーくらいは決まっているのか?」
「正直、そこが一番厳しくてね。不祥事があったチームで、中身もスカスカなわけだろう? スポンサーはまだ1社も決まっていなくてね。おかげで運営するのも一苦労だ。借金は増えていくばかりだよ」
姫騎士デュエルはそれなりに金がかかる。
チーム運営にスポンサーは欠かせない。
もちろんトップリーグであるゴッド・オブ・ブレイビアに参戦するチームは、広告効果が絶大なので、普通ならスポンサーは引く手あまただ。
姫騎士デュエルのテレビ放映でロゴが映り込むだけでなく、CMにも所属姫騎士を優先して起用できるし、一般販売されない特別席からデュエルを観戦することもできる。
しかし不祥事を起こして中身がすっからかんの『最下位確定チーム』のスポンサーとなる物好きな企業は、さすがにいないようだった。
「ふぅむ……」
なるほどね。
どう考えてもこりゃ駄目だな。
ブッチキリ最下位で1年で2部に降格――どころかシーズン中にチーム解体までありえる。
開幕直前の今頃になってまだ、チームスタッフやスポンサーを集めているようなチームが勝ち残れるほど、ゴッド・オブ・ブレイビアは甘くない。
俺への報酬も相当渋いだろう。
おそらくは勝利ボーナス(勝ったら払う)がメインになる。
それもたいした額じゃないはず。
なにせお金がないんだから、払いたくても払えない。
それでも俺は妙にこの話が気になっていた。
ぶっちゃけ乗り気だった。
それは男の俺を色眼鏡抜きで評価してくれたミューレに、感謝していたからかもしれないし。
何もないチームの状況が、全てを失った今の自分と似ていると、勝手にシンパシーを感じていたのかもしれなかった。
「かなり無理なお願いだっていうのは分かっている。それでもなんとか、引き受けてくれないだろうか。資金繰りは厳しいが、条件面はなるべく努力はしてみせる。勝ちさえすれば、スポンサーもついてくれるはずだ」
ミューレは真剣な顔でそう言うと、立ち上がって背筋を伸ばしてから、腰を大きく追って深々と頭を下げた。
もちろん俺の答えは決まっていた。
「OK、引き受けた」
「本当かい!?」
「ああ、今日から俺はライトニング・ブリッツのデュエル・アナリストだ!」
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