第100話 最後まで顔射され続けて愚痴るマリーベル

「いや、さっき自分でもこのルールじゃ勝てないって言ってただろ?」


「厳しいって言ったの! 勝てないとは言ってないもん」

 うがーと吠えたてたマリーベルが、プイっと顔を背ける。


「た、たしかに言ってないな……でも勝ち負けよりも楽しむことの方が大事とは、言っていたよな?」


「それはそれ、これはこれよ。それに楽しく勝ち負けを競えるなら、それが理想でしょ? ってわけだからリュカ、もう1戦しましょ。いいわよね?」


「望むところです。それにマリーベルさんにはバーニング・ライガーとの対戦前に、炎魔法の姫騎士を想定した模擬デュエルを何度もしてもらいましたから。今日はお礼も兼ねて、何戦だって付き合いますよ!」


 おおっ!

 マリーベルでなく、リュカも結構やる気だ。

 もしかしてこれ、レクリエーションも兼ねた模擬戦闘訓練として結構ありなのでは?


「言っとくけど手加減はやめてよね? わざと負けたりしたら絶交だから」

「もちろんです。全力を尽くすことが、マリーベルさんへの一番の恩返しだと思っていますから」


 この後、ゴッド・オブ・ブレイビアのトップランカー同士による、超ガチのウォーター・シューティング・模擬デュエル(と言っても過言ではないだろう)が行われ、俺はそれを特等席で見物した。


「ふむふむ、こういう動きもありなのか。今のは実際の姫騎士デュエルでも応用できそうだな。ルールが違うことでいつもとは2人のデュエルへのアプローチが違っていて、すごく新鮮だ。これは今後の参考になるな」


 結局、最後までマリーベルはリュカに容赦なくヘッドショットされ続けたが、俺にはとってはかなり収穫の多いウォーター・シューティング・模擬デュエルだった。



 その後、水着から私服に着替えての帰り道。


「そもそもね、ルールが悪いのよ。私は遠距離戦より接近戦の方が向いているんだし、水鉄砲をたった1発被弾したら負けなんて遠距離ガン有利な特殊勝利条件は、姫騎士デュエルじゃありえないわ」


 砲撃戦では敵なしのリュカの前に無惨にも全敗を喫したマリーベルが、悔しさも露わに愚痴ってくる。


「いやいや、そもそもこれは姫騎士デュエルじゃないからな?」


「そうですよ。マリーベルさんの鋭い接近行動は、実際には1発当てたくらいじゃ止まりません。それに実戦だとカラミティ・インフェルノもあります。あれだけの大魔法を撃たれたら、私には止める手段がありませんから」


 リュカにべた褒めされて、


「ふふっ、そうよね。やっぱり実戦だとまた違うわよね」

 マリーベルが頬を緩ませた。


「だから最も効果の期待できる攻略方法としては、カラミティ・インフェルノの詠唱に入った瞬間に全力で攻撃することだろうな。現状、詠唱には少し時間が必要で、詠唱中は移動することもできない。そこが唯一にして最大の弱点だ。撃たれたら負け確定だが、魔法が完成するまでにガードアウトさせることができれば、そもそも撃たれる前に終わらせることができる」


 2人の話に乗っかるようにして、俺は自分なりのカラミティ・インフェルノの現状分析(というほどのものでもないが)を語って聞かせたのだが──。


「ヤマトさんさ。時々、空気が読めないって言われない?」

「その分析は、とても的確だとは思うのですが、今はちょっと……」


 マリーベルからはジト目を向けられ、リュカには言葉を濁されてしまった。


 しまった。

 今はマリーベルを励ます前提の話の流れだった。


「とは言っても、マリーベルはあのアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに勝ったんだからな。正式なルールなら姫騎士デュエルで今現在、最強なのは誰がなんと言おうとマリーベルだ」


「はいはい。取ってつけたような誉め言葉をありがとね、ヤマトさん」

「ヤマトさん、今のはちょっと露骨かもです……」


「はい、すみません……」


「ま、アリッサより強いって褒められて悪い気はしないけどね。なにせあの子に世界で初めて土をつけたんだから」


「姫騎士デュエルの歴史に名を刻みましたね!」


 とまぁそんなこんなで。

 リュカとマリーベルとプールで楽しく遊んでお開きとなるはずだったのだが――。


「お姉さま、今日は大事な仕事と聞いていましたが、ずいぶんとお楽しみだったようですね」


 アリッサが突然、にゅうっと現れた。

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