第99話 3度目、またもや顔射されるマリーベル

 第3戦目が始まると、マリーベルは実戦さながらの戦闘機動で、前後左右に鋭いフェイントをかけ始めた。

 行くと見せかけて止まり、右と見せかけて急転換して左に。

 鋭いステップを何度も踏んで、リュカに最初の一発撃たせようとする。


「なるほど、そういうことか」


 引き金と連動したポンプから水を打ち出すウォーターライフルの構造上、ポンプ内に水が再充填リロードされるまでに、射撃することができないラグが少しだけ存在する。


 マリーベルはそのラグの瞬間に一気に距離を詰めようとしているのだと、俺はマリーベルの行動から戦術意図を分析した。


 対してリュカはマリーベルの動きにつられることなく、その場から一歩も動かずに冷静に射撃のタイミングをうかがっている。


「これは絶対要塞――アブソリュート・フォートレスか」

 ゴッド・オブ・ブレイビアでのシンデレラストーリーを支える、リュカの代名詞とも言える戦術だ。


 無駄撃ちをさせて隙を突こうとしているマリーベルと、どっしりと構えてじっくりと動きを観察するリュカ。


 何が恐ろしいって、お互いにまだ1発も撃っていないときた。

 さながら姫騎士デュエル本番のような、どちらもガチの序盤の入り方だ。


 息の詰まるジリジリとした駆け引きが続いたあと、先に動いたのはなんとリュカだった。

 さぁ来いと言わんばかりに1発、特に必要もない牽制射撃を放ったのだ。


 マリーベルは待っていましたとばかりに、即座に反応した。


「はぁぁぁぁぁ!」

 リュカが引き金を引いた瞬間、マリーベルが一気に接近を試みる!


 自身の射撃ラグを織り込んで撃てる最速で撃ちまくりながら、さらに横から回り込むようにしてリュカの射角の自由を奪いつつ、僅かな時間で距離を詰める!


「なんだよその動き、ガチすぎるだろ……水鉄砲遊びにそこまでしなくてもいいだろ……」


 とても遊びとは思えないマリーベルの動きに、俺は思わずツッコミをつぶやいてしまう。


 しかしリュカは見事に応戦した。


 ビュッ、ビュッ!

 まずはマリーベルの水弾を、自分の水弾で綺麗に撃ち落として迎撃すると、


 ビュッ!


 マリーベルが得意の近接レンジに入りきるギリギリ直前で、またもや狙いすました正確なヘッドショットでマリーベルの顏を撃ち抜いてみせたのだ。


「ぶふっ!? けほっ、こほっ、えほっ……。なんでよ? ほぼ同じ数弾を撃っているのに、どうして私にだけ当たるわけ? 私が撃った弾を、リュカが狙って撃ち落としているのは分かるんだけど」


 手も足も出ずにまたもや派手に顔射撃され、まさかの3連敗を喫してしまったマリーベルが、どうにも納得がいかない様子でつぶやく。


「それはですね。マリーベルさんの水弾を私の水弾で撃ち落とす時に、その次のマリーベルさんの射撃に対しての壁になるような位置で、撃ち落としているからです」


「壁?」


「ほら、水鉄砲の弾って、ぶつかった時にバシャって水の壁になって広がるじゃないですか。それを盾として利用して、マリーベルさんの次の水弾を防いでいるんです。私の1発でマリーベルさんの2発分をつぶしている計算ですね」


 リュカはさも当然のことのようにサラリと言ってのけたのだが、それが超高度な空間把握能力と精緻な射撃のテクニックの産物であることは、俺にもマリーベルにももちろん伝わっている。


「まったく、信じられないほど精密なエイム力ね。うーん、1発被弾で負けになるこのゲームルールだと、さすがに厳しいわね」


「改めて、遠距離戦で負けなしってのは伊達じゃないな」


 いやはや、ライトニング・ブリッツの未来は明るいよ。


「えへへ、お褒めいただきありがとうございます。でも全然たいしたことじゃないですから」


 やっていることは超すごいのに、当のリュカは照れたようにはにかむ。

 どれだけ強くなっても奥ゆかしさを忘れないリュカだった。


「さて、どうする? このルールだとリュカにはちょっと勝てなさそうだよな。ルールを変えるか、別の遊びにするか――」


「はぁ? なにバカなこと言ってるのヤマトさん。まだやるに決まってるでしょ。1回も勝てないままじゃ終われないもの」


 俺の言葉に被せるようにしてマリーベルが抗議すると、クサフグのように頬をプクっと可愛らしく膨らませた。

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