第98話 盛大に顔射されるマリーベル

 その後、マリーベルの提案で3人でウォーター・シューティングをして遊ぶことにする。


 おもちゃの水鉄砲――といっても大きなタンクのついた本格的なライフルタイプ――を使って撃ち合いをして、当たったら負けになる遊びだ。


「じゃあリュカとヤマトさんがチームで、私と勝負ね」

「リュカ、頼んだぞ。チームといっても、俺は多分まともな戦力にはなりえないから」


 姫騎士としてバリバリに鍛えていて実戦経験も豊富な2人と、裏方担当の俺じゃあ身体を動かす遊びは勝負にならないだろう。


 実質、リュカとマリーベルの一騎打ちだ。


 まぁ適当に弾幕を張るくらいなら、俺でも役に立てるかもしれないか。


 多分だけど遠距離で戦いたいリュカに、マリーベルが近接戦に持ち込もうと接近する──そんな姫騎士デュエルでよくある展開になるだろうから。


「がんばります! ヤマトさんにいいところを見せます!」

「期待してるぞ」

 リュカはとてもやる気だ。


「別に遊びなんだから、勝ち負けよりも楽しくできればいいでしょ?」

「ま、それも一理あるな」


 マリーベルの言うことはもっともだ。

 遊びなんだから勝ち負けよりも楽しくやれればいいだろう。


「ま、やるからには負ける気はないけどね。ヤマトさんにも容赦しないから」

「……まぁ、遊びでもなんでも、勝ちに行く姿勢は大事だよな」


 楽しくやろうと言いながら、リュカに負けず劣らずやる気満々のマリーベルに、俺は思わず苦笑した。


 というわけで俺&リュカ連合チームvsマリーベルの、2対1ウォーター・シューティング・デュエルが始まったのだが――。


 ビュッ!


「ぶふぅっ! けほっ、こほっ、えほっ……」


 開始早々、リュカがマリーベルを遠距離ヘッドショットして瞬殺した。


 顔に思いっきり射撃されて、鼻や気管に水が入ったのか、マリーベルが盛大にむせている。


 ちなみに俺はウォーターライフルを構えただけで、ただの一発も撃っていなかった。

 撃つ間もなく終わってしまったというか。

 

「はわっ、マリーベルさん大丈夫ですか!?」


 顔射されてケホケホしているマリーベルに、リュカが心配そうな声をかける。


「大丈夫大丈夫。ちょっと鼻を通って喉の奥に水が入っただけだから。ちょっと油断したわね。もう1回やりましょ、もう1回」


 マリーベルは苦笑いしながらも即リマッチを要求し、2戦目に入ったのだが――。


 ビュッ! ビュッ!


 またもやリュカはほとんど時間をかけずに、マリーベルをヘッドショットしてしまった。


「けほっ、こほっ……。くっ……思った以上にやるわねリュカ。でも私もちょっと慣れてきたから。だからもう1回やりましょ、もう1回!」


 再び盛大に顔射されてしまったマリーベルは、顔にかかった水を右手で荒々しく拭う。

 その瞳には明々とした勝負の炎が燃え盛っていた。


 アリッサとのデュエル直前に勝るとも劣らない鋭い目つきをしていて、どう見ても遊びを楽しむ目ではない。

 例えるなら、獲物を狙う肉食獣の目だった。


「マリーベル、遊びなんだから楽しくな? お前が言ったんだぞ?」

「そんなこといちいち言われなくても分かってますぅ!」


 マリーベルがムッとしたように俺を睨んでくる。


 あーうん。

 これ間違いなく、『うっさいわね、黙っててよ!』とか思っているだろ。

 俺の言ってること、1ミリも分かってないだろ。

 完全にガチのファイティングモードだろ。


 さすがローゼンベルク。

 アリッサ同様、負けず嫌いは超一流だな。

 俺はそれ以上は言うことを止めた。


 ここからはマリーベルのプライドの問題だ。

 俺が軽々に口出ししていいことではない。 


 というか、単なるお遊びのウォーター・シューティングだしな。

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