第97話「じゃあ私がヤマトさんにアタックしようかなー?」

「なんか2人でくっつきながら、楽しそうにイチャついてたね?」

 泳ぎ終えたマリーベルが戻ってきて早々、からかうように言ってきたのを、


「そ、そういうのじゃありませんから!」

 リュカが慌てたように否定した。


「え~? そう? なんかすっごくいい感じに見えたけど?」


「いい感じとか、そんなんじゃないですから!」

「そうだぞ。マリーベルは大きな思い違いをしている。なぁリュカ?」


「……」

「リュカ? どうした?」


「……ハイ、ソウデスネ」


「えっと、リュカ?」

「ヤマトサンノ、言ウ通リデスヨ」


「えーと、なんかちょっと機嫌悪いか?」

「……別ニ。ソンナコトアリマセンヨ。私ハ元気デス」


 なんかリュカの声が妙に無感情でフラットに聞こえるんだが。

 怒っているっぽいような気がするよなぁ?


 もしかしてマリーベルの言葉を俺が否定したから?

 でもさっきリュカも自分で、マリーベルの言葉を否定していたよな?

 そもそも仲良くイチャついていたってのは、完全にマリーベルの勘違いなんだし。


 うーん、年頃の女の子の思考は時々わかんないなぁ。

 これがジェネレーションギャップってやつか。

 やだなぁ、年は取りたくないよ。


 などと20代も折り返しに入り、30代が意識に入りつつあることに内心おびえていると、


「じゃあ私がヤマトさんにアタックしようかなー?」


 マリーベルはそう言うと、俺の右手を両手で絡め取るようにしながら抱き着いてきた。


 ふにょん。


 姫騎士デュエル業界で最大最強の名を欲しいままにする絶パイ王者リュカほどではないが、柔らかく実ったマリーベルの胸が、水着越しに俺の右腕に押し付けられる。


 お、おおぅ!?

 なんだか今日は、妙にリュカやマリーベルとの接触が多いな。


 水着でプールという状況が、俺たちを普段よりも解放的な気持ちにさせるのだろうか?


「お、おいマリーベル。そんなくっつくなって」

「えー、別にいいでしょー? 減るもんじゃないしー」


「な、なに言ってるんですかマリーベルさん!?」

 そしてそれを見たリュカが肩をビクリと跳ねさせてから、目を大きく見開いた。


 しかしマリーベルは、さらにギュッと俺の右手を抱きしめるようにくっついてくる。

 俺の右腕が、左右からふにょふにょサンドイッチされてしまう。


「えー? ヤマトさんがフリーならもっと仲良くなりたいなって思っただけだけど。ほら、ヤマトさんって結構カッコいいでしょ? ちょっとズルいところも大人の男性って感じでいけてるし? 決闘に負けたのなかったことにしてくれたりして、いつも助けてくれるし? 私、ヤマトさんのこと結構ありな感じだよ?」


「そ、そそそんなことありません! ヤマトさんはカッコよくないです! ズルくもないので大人の男性っぽくもありません! だからマリーベルさんもアタックする必要はちっともありませんからね!」


「そんなに力説しなくても……」


 リュカにカッコ良くないとストレートに言われてしまい、ちょっとションボリな俺である。

 でもズルいとは思うぞ。

 俺は口八丁でキャサリンも騙したし、アリッサも派手にブチ切れさせたからな。


「ふええっっ!? いえあの!? だからその!? 今のはなんと申しますかいわゆる一つの言葉の綾的な感じでして、決してそういう意図を持った発言ではなく――」


 しどろもどろになりながら、必死の弁明をしてくるリュカ。

 見ていて可愛らしいことこの上なかったが、なんだかイジメているみたいで少し心苦しいな。

 というわけで俺はリュカに優しい笑顔を向けた。


「大丈夫、特に気にしてないから」

「で、ですが――」


「リュカが俺を慕ってくれていることは、ちゃんと分かっているからさ」

「はぅ……えへへ、はい」


 優しく頭を撫でてあげると、リュカは嬉しそうに目を細めた。


「それとマリーベルも、あまりリュカをからかうなよな? 見ての通り何でも真に受けちゃう真面目な子なんだからさ」


「はーい、すみませーん」

 マリーベルは小悪魔っぽく笑うと、俺の右腕をパッと手放した。

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