第52話 現状確認

「現状の認識?」

 マリーベルがおうむ返しに聞き返してくる。


「そもそもの話として、俺はマリーベルがちゃんと全力を出せば、もっと拮抗したデュエルになったと思っている」


「全力ってどういう意味よ? 私は全力で戦っていたわ」

「残念ながら俺の目にはそうは映っていなかった」

「なによそれ」


 マリーベルがなんとも反抗的な目つきになる。


 おおう。

 この凄まじい眼力。

 アリッサの姉ってのにも納得だ。

 間違いなく同じ血を引いている。


 だけどこれは悪くない反応だぞ。

 なにせ今までは心の壁を作られて、こういう素直な態度を取ってすらもらえなかったからな。


 そういう意味では今、俺とマリーベルは初めて、心の壁を取っ払った真正面からの本音の会話をしているのだ。


 だから俺ははっきりと告げる。


「実を言うと、今日も含めてマリーベルのデュエルを見て、ずっと気になっていたんだ。マリーベルが全力の少し手前で必ず力を緩めることにさ」


「だからそんなことは――」


「とりあえずは話を聞いてくれよ」

「……わかったわ」


 不満そうに言ったものの、聞く姿勢を見せてくるマリーベルに俺は言葉を続ける。


「一番分かりやすい例が、同威力の魔法を撃ち合った時だ。そのまま押しきれそうでも、マリーベルは力比べは続けずに、必ず別の行動で相手を攻略しようとする」


「それで勝ってるんだから、いいでしょ」


「今まではな。マリーベルの高い魔法戦闘技術が、常に相手を上回っていたから、力比べをせずにテクニックでの勝負に持ち込めた。だが今回だけは違う。アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクは超一級のテクニックを持っている。技術だけでは上回れないのは、さっき戦って分かったはずだ」


「それは……」

 俺の言葉に納得するところもあったのか、不満そうではあるものの、マリーベルは反論をしてきたりはしない。


「俺はずっと、そのまま押し切れば勝てるって状況でも、必ず力比べを止めるマリーベルをなんでかなと思っていた。だけど今なら分かる。マリーベルは全力を出すのが怖いんだ」


「は? 怖い? 私が何を怖がっているって言うのよ?」

 マリーベルが露骨にムッとしたような顔を見せる。


 俺は言おう言わまいかわずかに迷ってから、しかしはっきりと言った。

 現状認識をする上で、これは避けては通れない話題だから。


「病気の――魔力齟齬そごの再発だ」

「……」


 図星だったのか、マリーベルが押し黙った。


「さっきのデュエルがその典型だ。ライオネル・ストライクを撃ち合った時、別に力負けしていたわけでもないのに、マリーベルの方から力比べを嫌がって逃げた」


「……」


「マリーベルは状況が拮抗した時、常に自分から状況を変えようと動く。それはマリーベルの技術の高さもあるんだろうが、それよりも何よりも、力を出し過ぎて魔力齟齬そごを再発するのが怖いからだ――っていうのが俺の現状の見立てなんだけど、違うか?」


 俺は過去のデータと、今日知り得た情報をミックスした、今できうるマリーベルについての見解を全てつまびらかにした。


「……」

「どうかな? 大きく外れてはいないと思うんだけど」


 その問いかけに、マリーベルが降参とでも言うかのように肩を大きくすくめてから、言った。


「ヤマトさんの言った通りよ。さすがはリュカを短期間でトップランカーに仕立て上げたデュエル・アナリストね。見事な分析だわ」

「お褒めいただき光栄だ」


「ねぇヤマトさん。ちょっとだけ昔話をしてもいいかな?」

「聞かせてもらえるなら聞かせて欲しいな」


「ありがと。じゃあ話すね」

 そう言うと、マリーベルは過去を懐かしむような遠い目をしながら語り始めた。

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