第57話 ヤマトの計略を見抜いたのは……リュカ

「昨日の夜に、リュカにアドバイスを貰いに行ったのよ。リュカの性格の良さはもう知っているから、もっと仲良くしてもいいかなって思えたから。時間がないから、なりふり構ってもいられないし」


「いいことじゃないか。実際に戦う姫騎士の視点や着眼点ってのは、裏方の俺にはどうしたって分からないしな。同じチームの姫騎士同士、積極的に情報交換をしてくれると俺もありがたいよ」


 俺は肯定を示すようにうんうんとうなずく。


「面と向かって話をしたのは初めてだったんだけど、思いのほか話が弾んじゃったのよね」

「そりゃ良かった。でもそれがどうしたんだよ? イマイチ話の繋がりが見えないんだけど?」


「その時に、ヤマトさんならどんなアドバイスをするかって話になったの。そしたらリュカがさっき私が言ったようなことを、いろいろと語って聞かせてくれたのよ。さすがリュカね。『ヤマトさんのことなら私に任せてください』って言うだけあって、バッチリ当たっていたわよ」


「ああ、そういうこと……」

 つまり俺の作戦意図を見破ったのは、マリーベルではなくリュカだったわけだ。


「だ、だってマリーベルさんに相談に来てもらえたのが嬉しくて、それでいろんな話をしている内に、つい私なりの推測をしゃべってしまって……ううっ、ヤマトさんの邪魔をしちゃってごめんなさい……」


 リュカはもう完全に涙目になってしまっていた。


「あはは、謝る必要はないよ。それだけ俺の意図を正しく理解してくれているってことなんだからさ。むしろ嬉しいくらいだ」


「ほんとですか?」

「ほんとほんと」


 リュカの頭を軽くポンポンと撫でてあげると、涙目から一転。リュカは嬉しそうに目を細めた。


「というわけで、この作戦は効果がないわね。だって私がヤマトさんの意図に気付いちゃっているんだもの」


「そういうことになるな。でも、それでも模擬戦はやって欲しい。実はこれはリュカのスパーリングも兼ねていてさ」


「もう、ヤマトさんって本当に抜け目がないよね。二段構え、三段構えが当たり前なんだもの」


「なにせバーニング・ライガーは、マリーベルと同じ炎魔法の姫騎士しかいない。トップランカーのマリーベルを相手に模擬戦をやることは、リュカにとって大きな経験値になるからな」


 これでマリーベルが俺の意図に気付いていなければ完璧だったんだが、仕方ない。


「マリーベルさんと模擬戦……それ自体は楽しみですけど、炎魔法のトップランカーと戦うのは初めてなので、ちょっと不安です。炎魔法の近接攻撃力は全属性最強なので」


「だからこそさ。本番で不安になるより、ここで慣れておこう。ってわけで、俺がとりあえずのマリーベル対策を教える。ちょっと耳を貸してくれ」

「あ、はい」


 俺はリュカを呼び寄せると、耳元で小声で内緒話を始めた。


「ぶっちゃけマリーベルに弱点らしい弱点はない。だがもちろん対策はある。でもその前に、ここでもう一つマリーベルにトラップをしかける。これからしばらく『なるほど』とマリーベルに聞こえるように言ってくれ。マリーベルを疑心暗鬼にさせたい」


「な、なるほど」

 リュカが俺の意図を汲んで『なるほど』と言った。


「で、次に対策なんだけど、マリーベルはリュカに近づこうとする。だが絶対に強引な突破はしてこない。マリーベルの動きをしっかりと見ていけば、リュカとフェンリルなら十分対処できる」


「なるほど?」

 若干、疑問に感じているような『なるほど』が返ってきた。

 俺はリュカの疑問や不安を取り除くべく、詳細に理由を説明していく。


「炎魔法の最大のストロングポイントは、破壊力満点の攻撃魔法による強引な突破だ。だが今のマリーベルはそれができない。テクニックでリュカを攻略しようとする。テクニック勝負なら、リュカとフェンリルに勝てる姫騎士はそうはいないだろ?」


「な、なるほど」


「こちらからは絶対に仕掛けない。必ずマリーベルが動くのを待って、それに対処しつつひたすら遠距離でちくちく防御加護を削るんだ。今のマリーベルならそれで勝てるはずだ」


「なるほど」


 俺はリュカに説明しながら、チラチラとマリーベルにわざとらしい視線を送った。

 マリーベルは俺と視線が合うと、わずかにムッとしたような表情を返してくる。

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