第56話 ヤマトの計略を見抜くマリーベル


 マリーベルの恐怖心をなくすために策を考える、とは言ったもののだ。

 なにせ時間がない。


 ゴッド・オブ・ブレイビアは毎週末の開催。

 次節のバーニング・ライガー戦までもう数日しかない。

 まともにやったら時間切れで、何も変わらないままその日を迎えてしまう。


「というわけでリュカ。模擬戦でマリーベルをボコボコにしてやってくれ」


 決闘があった翌日。

 なんとか対策をひねくりだした俺は、演習場にリュカとマリーベルを呼び出すと、こう切り出した。


「え? いえ、あの……急にそんなこと言われましても……」

 しかしリュカは困ったような顔を見せる。


「なーに安心しろ。今のリュカならマリーベルをボコれる」


「ちょっとヤマトさん、その言い方はないでしょ」

 その言葉に、マリーベルが頬を膨らませて俺をにらんだ。


「ほぅ? なら自分はリュカよりも強いと? 聞いたかリュカ。舐められているぞ」


「そ、そんなこと言ってないし! ほんとだからね、リュカ!」

 しかしマリーベルはすぐに慌てた様子でリュカに釈明を始めた。


「もちろん分かっています。でもどうして模擬戦なんですか?」

 リュカが疑問を呈してきた。


「ゴッド・オブ・ブレイビアでも有数のエース級が2人もいるんだし、手合わせするのは悪くない話だろ? できれば何戦かやってみてほしいところだ」


「分かりました。マリーベルさんも大丈夫ですか?」


「私も別にいいけど。でもその前にヤマトさんに質問していいかな?」

「もちろん。何でも聞いてくれていいぞ」


 お、マリーベルがいつになく積極的だな。

 これはとてもいい兆候だぞ。

 未来は明るいな!


 そう思ってた時期が俺にもありました。


「これって私をカッカさせるようなことを言ってイラつかせて、思わず全力を出させるって作戦ってことでOK?」


「……」

「あ、ヤマトさんが黙っちゃった。ってことは図星ね」

「ま、まぁ……うん……」


 主たる目的はまさにマリーベルが指摘した通りだった。

 デュエルまで時間がないから、ゆっくりと段階を踏んでいくことはできない。

 必然的に、こういう荒療治しかやりようがなかった。


 だがしかし、決してそれだけではない。

 これには更なる隠された目的があって――


「それと連戦で私を疲れさせて思考能力を低下させて、何も考えられないようにすることで、気が付いたら全力を出していた――みたいな状況を作る目的もあったり?」


「……」


「魔力量が無限にあって、自身は動かないリュカは、連戦や長期戦にめっぽう強いものね。そんなリュカと連戦させるって、つまりそういう意図だよね?」


 なっ!?

 なんだこいつ!?


「まさか特殊な魔法で、俺の頭の中を盗み見でもしているのか!?」


 マリーベルの実家であるローゼンベルク家といえば、姫騎士家系の中でも名門中の名門。

 そういう特殊な補助魔法も存在しているのかもしれなかった。


「そんなのないから。炎魔法は攻撃専門の属性だから。でもこれも図星なんだ。やるじゃんリュカ」

 と、そこでマリーベルがリュカに視線を向けた。


「なんでここでリュカの名前が出てくるんだ?」

 思わずリュカに目を向けると、


「あ、えっと、あの、その……」

 なぜかリュカは完全にしどろもどろな様子で視線を泳がせていた。


「リュカ、そんなにあたふたしてどうしたんだ?」

「えっと、あの、だから、その……」


 リュカが困ったようにマリーベルを見ると、マリーベルがにんまりと笑いながら言った。


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