第56話 ヤマトの計略を見抜くマリーベル
◇
マリーベルの恐怖心をなくすために策を考える、とは言ったもののだ。
なにせ時間がない。
ゴッド・オブ・ブレイビアは毎週末の開催。
次節のバーニング・ライガー戦までもう数日しかない。
まともにやったら時間切れで、何も変わらないままその日を迎えてしまう。
「というわけでリュカ。模擬戦でマリーベルをボコボコにしてやってくれ」
決闘があった翌日。
なんとか対策をひねくりだした俺は、演習場にリュカとマリーベルを呼び出すと、こう切り出した。
「え? いえ、あの……急にそんなこと言われましても……」
しかしリュカは困ったような顔を見せる。
「なーに安心しろ。今のリュカならマリーベルをボコれる」
「ちょっとヤマトさん、その言い方はないでしょ」
その言葉に、マリーベルが頬を膨らませて俺をにらんだ。
「ほぅ? なら自分はリュカよりも強いと? 聞いたかリュカ。舐められているぞ」
「そ、そんなこと言ってないし! ほんとだからね、リュカ!」
しかしマリーベルはすぐに慌てた様子でリュカに釈明を始めた。
「もちろん分かっています。でもどうして模擬戦なんですか?」
リュカが疑問を呈してきた。
「ゴッド・オブ・ブレイビアでも有数のエース級が2人もいるんだし、手合わせするのは悪くない話だろ? できれば何戦かやってみてほしいところだ」
「分かりました。マリーベルさんも大丈夫ですか?」
「私も別にいいけど。でもその前にヤマトさんに質問していいかな?」
「もちろん。何でも聞いてくれていいぞ」
お、マリーベルがいつになく積極的だな。
これはとてもいい兆候だぞ。
未来は明るいな!
そう思ってた時期が俺にもありました。
「これって私をカッカさせるようなことを言ってイラつかせて、思わず全力を出させるって作戦ってことでOK?」
「……」
「あ、ヤマトさんが黙っちゃった。ってことは図星ね」
「ま、まぁ……うん……」
主たる目的はまさにマリーベルが指摘した通りだった。
デュエルまで時間がないから、ゆっくりと段階を踏んでいくことはできない。
必然的に、こういう荒療治しかやりようがなかった。
だがしかし、決してそれだけではない。
これには更なる隠された目的があって――
「それと連戦で私を疲れさせて思考能力を低下させて、何も考えられないようにすることで、気が付いたら全力を出していた――みたいな状況を作る目的もあったり?」
「……」
「魔力量が無限にあって、自身は動かないリュカは、連戦や長期戦にめっぽう強いものね。そんなリュカと連戦させるって、つまりそういう意図だよね?」
なっ!?
なんだこいつ!?
「まさか特殊な魔法で、俺の頭の中を盗み見でもしているのか!?」
マリーベルの実家であるローゼンベルク家といえば、姫騎士家系の中でも名門中の名門。
そういう特殊な補助魔法も存在しているのかもしれなかった。
「そんなのないから。炎魔法は攻撃専門の属性だから。でもこれも図星なんだ。やるじゃんリュカ」
と、そこでマリーベルがリュカに視線を向けた。
「なんでここでリュカの名前が出てくるんだ?」
思わずリュカに目を向けると、
「あ、えっと、あの、その……」
なぜかリュカは完全にしどろもどろな様子で視線を泳がせていた。
「リュカ、そんなにあたふたしてどうしたんだ?」
「えっと、あの、だから、その……」
リュカが困ったようにマリーベルを見ると、マリーベルがにんまりと笑いながら言った。
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