第58話 ナルホドー・フリージア

 ふふん。

 こうして目の前で自分の弱点をこそこそ話されていると思うと、イラつくだろう?


 マリーベルに限らず炎魔法の使い手はみんな、熱しやすく情熱的な性格をしている。

 実際、マリーベルもついカッとなって決闘を受けてしまった。


 なにせ熱が入りやすいのが炎属性の姫騎士なのだ。

 頭では分かっていても、身体は正直に反応してしまうのだ。


 大人のテクニックを舐めるなよ?

 じっくりと分からせてやるぜ。


「時間切れの判定勝ちでいいくらいのイメージだな。我慢比べをしよう。そしてマリーベルがしびれを切らして前に出てきたら、いつものようにカウンターだ。一番の狙いはライオネル・ストライクだな」


「なるほど」


「少々押し込まれたって気にするな。少し我慢すればマリーベルの方から勝手に別の行動をとってくれる。後はそれの繰り返しだ」


「なるほど」


「リュカよ、『なるほど』と言えとは言ったが、そこまで律義に『なるほど』だけ言わなくてもいいんだぞ?」


 それじゃナルホドー・フリージアさんになっちゃうぞ?


「えーと、その、なるほど?」


 まぁいいか。

 この実直で真面目で素直な性格は、リュカの最大の武器の一つだからな。


「ライオネル・ストライクは威力は凄いが、方向転換が難しい魔法だ。それまでひたすら防御に徹し、ライオネル・ストライクを使って前に出てきたら狩る。シンプルな作戦で行こう。以上だ」


「分かりました!」

 最後にリュカが頷いたのを見て、


「もういい?」

 マリーベルがわずかにイラツキを見せながら尋ねてくる。


「リュカ、すぐ行けるか?」

「はい!」


 こうしてアドバイスを受けたリュカと、若干イラつき気味のマリーベルの模擬戦が始まった。


 リュカは俺の指示通りに、あの手この手で近づこうとするマリーベルを上手くあしらいながら、ひたすら遠距離戦で削り続ける。


 マリーベルはなかなか近づけないことに明らかにイラつきながらも、持ち前の高い技術でリュカを攻略しようと試みた。


 が、しかし。

 リュカも前年2位のキャサリンをパーフェクトKOするなど7戦全勝の、今やトップランカーの1人。

 本気を出さずにリュカを攻略することは、さすがのマリーベルでも難しい。


 結局、マリーベルは有効打をなにも打てないままに、遠距離でリュカにチマチマ削られ続けて完敗した。



「うーん、これは思ったよりも深刻だな……」


『絶対要塞――アブソリュート・フォートレス』とまで言われるリュカとフェンリルの遠距離砲撃を抜けるには、ある程度の被弾を覚悟で、強引に前に出て突破する必要がある。


 当然、全力を振り絞る必要があるわけだが、マリーベルはどうしてもそれができなかったのだ。


 どうする?

 これじゃとても間に合わない――。


 ◇


 そうこうしている内に3日が過ぎ。

 俺は今の今まで有効な打開策を用意できないままに、バーニング・ライガーとのデュエルの前日を迎えていた。


 最後の模擬戦も今、終わってしまう。

 今日もマリーベルはリュカ&フェンリルに一矢報いることすらできなかった。


 その代わりと言ってはなんだが。


「リュカはもう炎魔法への対処はバッチリね」

 完敗続きのマリーベルが、額の汗を手の甲でぬぐいながら肩をすくめた。


「炎魔法のトップランカーの攻撃力は、想像していたのと実際に戦ったのでは全然違っていました。ですがマリーベルさんと模擬戦ができたおかげで、かなり自信が持てました」


「ふふっ、良かった」

「でも、マリーベルさんのほうは全然……」


 マリーベルの成果が出ていないことで、リュカがションボリとした顔になってしまった。

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