第82話 ご機嫌・ご愉快・ご満悦マリーベル

「おはようマリーベル」

「マリーベルさんおはようございます」

「マリーベルちゃん、おはよー」


「昨日は遅かったんだろ。疲れているだろうし、ゆっくり寝ててもいいんだぞ」


 マリーベルは俺たちが寝た後、かなり遅い時間にミューレと帰って来ていたはず。

 夢うつつだったが、門の開く音とかがしていたから間違いない。


「疲れていても、いつも通りの時間に起きた方がすっきりするから」

 しかしマリーベルは特に疲れた素振りも見せずにそう答えた。


「これが若さか……羨ましいな」

「ヤマトさんも十分若いでしょ?」


「それが最近は徹夜すると、すごく疲れを感じるようになってさ

「そ、そうなんだ。た、大変なんだね」


 マリーベルがなんとも微妙な顔をした。


「ちなみにローゼンベルクとの話し合いは上手くいったんだよな?」


「まぁね。あんな風に謝られたら、私も怒ってばかりはいられないし」


 なるほど。

 マリーベルの軽やかな口振りからは──100点満点ではないかもしれないが──昨日の話し合いがかなりの高得点だったことが見てとれた。


 となると、これだけは聞いておかないとだよな。

 俺だけでなく、リュカもアスナも気になっているだろうし。

 

 俺は軽く一呼吸を入れると、単刀直入に尋ねた。


「来季はバーニング・ライガーに移籍するのか?」


「え? なんでよ? 移籍なんてしないけど」

 するとマリーベルがびっくりしたような顔を見せた。


「だってローゼンベルクとは和解したんだろ?」

「うん、した」


「だったら――」


「それとこれとは話が別だし。私がどのチームにいようが、誰に文句を言われる筋合いはないでしょ? だいたいライトニング・ブリッツのエースが抜けたら、ミューレさんもみんなも困るもんね」


「よかったぁ……」

 マリーベルの答えを聞いて、リュカが大きね安堵の息をはいた。


「なによリュカ? まさか私がみんなを見捨てて、移籍するなんて思っていたわけ? 失礼しちゃうわね」


「すみません。5分5分くらいで思っていました……」

 リュカが正直に白状した。

 せっかくマリーベルが移籍しないで済んだというのに、完全にションボリしてしまっている。


「ああもう、別に怒ってなんていないから。今のは私なりのコミュニケーションスタイルだから。だからそんなにしょんぼりしないで、ね?」


「ほんとですか?」

「ほんとほんと。ね、ヤマトさん」


「そうだぞ。マリーベルはツンデレだから、つい一言多く言っちゃうんだ。その辺は真面目に取り合わずに、ザックリ割り引いて聞いておけばいい」


「なるほどね。ヤマトさんが私の言葉をどう受け取っているか、よーーーーーく分かったわ」

「……そういうつもりで言ったんじゃ、なかったんだけどな」


「まぁいいわ。さーてと。そんなことより、スポーツ新聞を確認しよーっと。どれどれ……うんうん、全紙、私がトップじゃない。ま、当然よね~!」


 マリーベルは食卓に並べられたスポーツ新聞を見て、ご機嫌・ご愉快・ご満悦だった。


 自分の顔がでかでかと載っているのを見て恥ずかしがっていたリュカとは、実に対照的だが、これがマリーベルの個性であり、強さの秘訣でもあるんだよな。


 俺たちが食卓で和気あいあいと昨日の勝利を話のタネに盛り上がっていると、


「お姉さま、それにライトニング・ブリッツの皆さん、おはようございます」


 なぜか食堂に、アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクが顔を出した。


 ……え?

 ……はい?

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