第83話 これが絶対王者の鋼メンタル
「アリッサ、なんでここにいるのよ。こんな朝早くから連絡も無しに会いにくるなんて、無作法でしょ」
突然のノーアポ来訪に、マリーベルがまゆをひそめた。
「いえ、たまたま近くを通りかかったので、お姉さまとチームの皆さまにご挨拶をしようと思いまして」
しかしアリッサは全く動じることなく、にっこりと笑みを返す。
「この辺りには、民家の他には公民館と地元の小さな商店街くらいしかなかったと思うが、どんな理由で近くを通りかかったんだ?」
そんなアリッサに、俺は至極当然の疑問を投げかけたのだが、
「あら、そうなんですね」
アリッサは俺の指摘を「それがどうかしましたか?」と言わんばかりに、右から左にスルーした。
「え? あ、はい」
としか言えない俺。
すごいな。
これがマリーベルに負けるまで5年間負け知らずだった最強王者のメンタルか。
しかも俺に向けてくる視線が、心なしかキツい気がする。
これ間違いなく、決闘を有耶無耶にした俺のことを恨んでいるだろ。
あの時は『このゲスが』とか言われたしな。
マリーベルと一緒のチームになれなかったことの、諸悪の根元だと思われていそうな雰囲気だ。
マリーベルを守るためとはいえ、先にケンカをふっかけたのは俺だから、恨まれるのは仕方ないっちゃ仕方ないんだが……。
「じゃあ挨拶も済んだんだから、帰りなさいな」
「せっかくなのでお茶でも頂いていこうと思います」
そう言うとアリッサは一切の迷いを見せず、マリーベルの隣の席に堂々と腰掛けた。
マリーベルがはっきりと帰れと言ったのに、隣に座って、お茶を飲んでいくと言ってのける。
本当にすごいメンタルをしているよ。
アリッサはさらに俺へと視線を向けてきた。
とっとと茶でも出せという意味だと俺は判断する。
「じゃあお茶でも入れてくるな」
「ホットの紅茶をストレートでお願いします」
「まったく、なんでもはっきりと主張してくるお嬢さまだなぁ」
「何か言いましたか?」
「いや、別に……紅茶はティーバッグしかないんだが、それでいいか?」
「構いません」
俺は来客用のちょっとお高いティーバッグを取り出すと、ちょうどついさっきまで沸かしていたお湯を、人数分ポットに注ぐ。
「それで本当は何の用なの? 負けた言い訳でもしに来たわけ? 言っとくけど、もう1回はなしだからね。ま、もう1回やっても勝つのは私だけど」
すると呆れたようなマリーベルの声が聞こえてきた。
最後に一言、余計な煽りを入れてしまうのが、実にローゼンベルクらしい。
そんなマリーベルに、アリッサが頭ローゼンベルクで言い返すと話がまたややこしくなるなという危惧は、ありがたいことに
「私はまだまだ未熟です。お姉さまとのデュエルで、私はそのことを深く理解しました」
「あら、それはまた殊勝な心がけね」
「はい。未熟な私がお姉さまから学ぶべきことは多々あると痛感しております」
「だから帰ってきて面倒見てほしいって? 残念ながらそれは無理な話ね。もうあなたも小さな子供じゃないんだから、自分の壁は自分で乗り越えなさい」
「お姉さまならそう言うと思いました。それでこそ敬愛するお姉さまです」
「なんだ、ちゃんと分かっているじゃ──」
「なので、しばらくはここで生活を共にすることでお姉さまから学び、己の未熟を正していこうと思っています」
「…………は?」
マリーベルが思わずといった様子で、あんぐりと口を開けた。
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