第84話 マリーベルの信頼を失わないため、俺は戦う! ヤマトvsアリッサ

「なるほど。マリーベルが帰って来ないなら、自分がマリーベルのところに行けばいいってか。押してもダメなら引いてみなってな。ははっ」


「ヤマトさん、笑い話してるんじゃないんだけど?」

 マリーベルの怒気をはらんだ声に、紅茶セットをトレイに載せて持ってきた俺は、口をつぐむとピンと背筋を伸ばした。


 そして高速で頭を回転させると、すかさずマリーベルの援護に入った。


「姫騎士デュエル統一規則(マスタールール)細則第18条『シーズン中は他チームとの過度な交流は慎まなくてはならない』。八百長を防ぐためのルールに抵触する」


 俺はライトニング・ブリッツのデュエル・アナリスト。

 当然マリーベルの味方だ。


「さすがヤマトさん。細かいところまでよく覚えてる!」

 マリーベルが俺に信頼の眼差しを向けてくる。


「なーに、これくらいたいしたことはないさ」

 マリーベルが頼りにしてくれることに俺は嬉しさを感じながらも、気にする必要はないと爽やかに言ってのけたのだが――。


 しかしアリッサが顔色一つ変えずに即座に反論を繰り出してきた。


「姫騎士デュエル統一規則(マスタールール)細則第18条・補足第1項『ただし家族及び近しい親族は除く』とあります」


「むっ……!」


「家族が共に過ごす権利は、人権の観点から可能な限り保護されます。家族とは具体的には三親等内の血縁関係を指すと解釈されています。そして私とお姉さまは二親等。補足第1項の指す間柄になります」


「くっ……!」


「なにか反論はありますか? あれば聞きましょう」

「あ、ありません」


 さすが最強の姫騎士。

 デュエルには全く関係ない統一規則(マスタールール)の細則のさらに補足条項なんて細かいところまで、しっかりと覚えているな!


「ヤマトさんさぁ……」

 マリーベルが信頼から一転、『なに簡単に言いくるめられてんのよ』みたいな失望がありありと浮かんだ視線を向けてくる。


 マズい。

 ここずっと地道に積み上げてきたマリーベルとの信頼関係が、一瞬にして失われようとしているぞ。


 と、そこで。

 俺はアリッサが口元にほんのわずか、笑みを浮かべていることに気が付いた。


 そうか!

 これは計略だ!

 アリッサはこの状況を利用して、俺とマリーベルの信頼関係を崩そうとしているのだ!


 ピンチはチャンスと隣り合わせ。

 一流の姫騎士ともなれば、ほんのわずかなチャンスを、最大のリターンへと変えてしまう。


 ここで論戦して俺を負かすことで、俺がデュエル・アナリストとして無能だとマリーベルに印象付けようとしているのだ!


 俺はアリッサの計略を完全に見破った。


 いいだろう。

 アリッサ・カガヤ・ローゼンベルク。

 その論戦、受けて立ってやる!


 姫騎士としては最強かもしれないが、俺だってデュエル・アナリストとしてデータと言葉を武器にそれなりの結果を残してきたんだ。

 あんまり大人を舐めるなよ?


 俺は紅茶をみんなのカップに注ぎながら──その時間を利用して──更なる反論の道筋を頭の中で練り上げた。


 俺は紅茶を均等に注ぎ終えると、言った。


「権利が守られるべきと言うなら、離れて過ごしたいってマリーベルの権利も守られるべきじゃないか? 姉妹といえど独立した人格を持っている別個の人間。突き詰めれば他人だ」


 マリーベルが『うんうん、ヤマトさんやるじゃん』みたいな期待に満ち満ちた顔になる。

 まぁ見とけマリーベル。

 お前は俺が守ってやる!

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