第85話「ふはははっ!見たか小娘!これが搦め手!大人の戦い方というものだ!」

「ですから2つの相反する権利を擦り合わせようと言っているのです。権利が守られるべきと言うのでしたら、家族であるお姉さまと一緒に過ごしたいという私の権利も守られるべきだと考えますが?」


「な、なるほど」


「ちょっとヤマトさん! さも『かかってこいよ』みたいな感じで話し始めておいて、二言目にいきなり『な、なるほど』じゃないでしょ! なにあっさりと言いくるめられているのよ! やる気あるの?」


 マリーベルがうがーっと唸るが、俺にも言い訳をさせて欲しい。


「いやー、明らかに理論武装している相手に、準備も無しに論戦はさすがに厳しいかなって……」


 並の相手なら俺も口八丁でやりこめることはできるだろうが、アリッサは弁論能力も相当に高いクレバーな相手だ。

 しかも俺にリベンジする気満々ときた。


 前回、決闘をうやむやにした時は徹底して煽ることにより、ローゼンベルクのプライドを刺激することができたが、今日はそういう要素もない。

 ぶっちゃけちょっと勝てそうにないかなぁ。


「言い訳なんていいから、なにか考えてよ」


 マリーベルに怒りのガン睨みをされた俺は、またもや慌てて頭を高速回転させると、少し路線変更した、しかし最高に効果的な反論を思いついた。


「ここには機密データが置いてあるし、チームとして隠しておきたいことだってある。ライバルチームの人間を出入りさせて、それをみすみす漏洩させるわけにはいかない」


 まぁ?

 実を言うと、フェンリルの開発データ以外にたいしたデータも機密もないんだが、それをアリッサが確かめる術はないし、そのフェンリルのデータってのがやばいくらいに重要機密なのも間違いない。


「わたしは情報の漏洩など絶対にいたしません。誇り高きローゼンベルクの家名に懸けて誓いましょう」


「たとえ他には漏洩しなくても、その情報はアリッサの中には残る。対戦時にその情報を使われると俺たちは不利になる。そんな無駄なリスクを負う必要も義務も、俺たちにはない」


「ふむ……」


「特にフェンリルは最重要機密で、ブレイビア王立魔法院から貸与されて試験運用中の最新マジックウェポンだ。ブレイビア王立魔法院との守秘義務契約もある。ライバルチームの人間に施設に入りびたられるのは、契約面でも到底許容できない」


 この主張に対してアリッサからの即座の反論はなかった。


 ……よし、勝った。

 アリッサが即座に反論できなかったことで、俺は勝利を確信した。


 俺のこの主張の最大のポイントは、マリーベルとアリッサという二項対立だったところに、ブレイビア王立魔法院という第3者を入れたことだ。

 これによってブレイビア王立魔法院の同意が必要となり、俺たちを言いくるめることには最早、何の意味も持たなくなったのだ!


 ふはははっ!

 見たか小娘!


 これがからめ手!

 大人の戦い方というものだ!

 ただ真っ向勝負で相手を負かすことだけが戦いだと思うなよ!


 しかしよもやよもや。

 アリッサはこれにすら、反論をしてみせたのだ!


「そういえばアスナ・タチバナさん」

「え、なに?」


 急にアリッサから話を振られたアスナが──我関せずといったのんきな顔で砂糖マシマシの紅茶を飲んでいた──びっくりした顔を、論戦中の俺たちの方に向けてくる。

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