第86話 アスナとアリッサ、2人は友人!

「あなたはフェンリルの開発者です。しかも世紀の大天才と言われているのだとか。この前サインをした時に言っておられましたよね」


「わわっ、覚えていてくれたんだ。ありがとう!」


 自称だけどな。

 まぁ実際にものすごく頭がいいんだが。


「もちろん覚えていますよ。フェンリルは実に革命的なマジックウェポンです。先日戦ったティファニア・グランデは、バーニング・ライガーでわたしが一番目をかけている極めて優秀な姫騎士なのですが、それをああも完璧に倒してみせたのですから、恐れ入りました」


 アリッサが気持ち悪いくらいにべた褒めする。


「ふふん、まぁねー。アタシとリュカちゃんとフェンリルの力がシナジーすれば、もう最強無敵だから」


 そしてあからさまに調子に乗るアスナ。

 アスナはアリッサにサインをねだるくらいに、アリッサのファンだ。

 そんなアリッサにべた褒めされて、顔が完全ににやけていた。


「おっしゃる通りですね。ティファニアもフェンリル対策をかなりやり込んでいたのですが、見事にその上を行かれてしまいました」


「ふふふ、でしょでしょ?」


「ですがフェンリルはまだ開発途上と聞き及んでおります」

「まぁねー。まだまだ改善点は多いかな」


 開発途上というか、魔力をドカ食いするから現状ではリュカにしか扱えないんだけどな。

 フェンリル最大の機密事項なんで、もちろん教えないけど。


「そこでわたしからアスナ・タチバナ――アスナと呼んでも構いませんか? わたしは友人は名前で呼ぶタイプです」

「もちろん! じゃあアタシもアリッサって呼んでもいい?」


「ふふっ、当然ですよアスナ。わたしたちはもう友人なんですから」

「えへへ、やったぁ♪」


 ヤバい。

 アスナの奴、アリッサに完全に篭絡ろうらくされかかっているぞ!


 俺はなんとか話に割って入ろうとするが、アリッサは俺が何か言うよりも先に、矢継ぎ早に次々と言葉を繰り出してくる。

 会話を進めていく道筋が、頭の中で完全に出来上がっている証拠だ。


「話を戻しますが、わたしからアスナに提案があります」

「提案って?」

 アスナが小首をかしげた。


「わたしがフェンリルの模擬戦闘訓練の対戦パートナーになりましょう」

「え?」


「フェンリルは姫騎士デュエルの根本すら変えうる可能性を秘めたマジックウェポンです。姫騎士デュエル業界の更なる発展のためにも、わたしとしても開発に協力するのはやぶさかではありません」


「ふんふん!」


「最強の姫騎士と名高いわたしとの戦闘データが取れるのは、フェンリルの開発にも非常に有意義だと思いますが、どうでしょうか?」


「アリッサとの戦闘データが取れる……?」


「そちらが必要であれば、基本的にいつでも協力するとお約束します」

「いつでも!? つまりデータ取り放題ってこと!?」


「そういうことになりますね。もちろん、そこでわたしが知ったことは決して外部には漏らしません」

「!!!!!!」


 アリッサの提案に、アスナが大きく目を見開いた。


「しかしそのためには、わたしがここで生活をすることが必要です。その都度わざわざ来るのは、時間も暇もかかって大変ですから」


「まぁ、それはそうだよね」

「でしたら――」


「待ってくれアスナ。少し落ち着こう!」


 俺はアスナの心が完全に傾きつつあるのを見てとって、慌てて会話に割って入った。

 アリッサの言葉に強引に被せるようにして会話を中断させる。


 くっそ。

 アリッサの奴、完全にアスナを狙い撃ちで落としに来ているぞ。


 これはまずい。

 と、言うのもだ。

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