第87話 アスナの『立場』
アスナはライトニング・ブリッツの実質的なスタッフではあるが、実は正式な身分はブレイビア王立魔法院の研究員だ。
アスナはあくまでフェンリル開発のためにチームに帯同しているという建前であり、フェンリルという最新技術の無償供与も全てはフェンリル開発の一環だ。
開発費や整備費にしたってブレイビア王立魔法院から全額出ていて、俺たちはレンタル料すら払っていない。
そしてこの「金を払っていない」ことが俺たちの立場を極めて弱くしていて、金を払ってないんだから当然、権利もなにも持ち合わせてはいない。
俺たちの関係はブレイビア王立魔法院が絶対的に主で、ライトニング・ブリッツは従属的な立場なのだ。
つまりざっくり言えば、アスナにはライトニング・ブリッツに尽くす義務は、そこまで課せられていないのだ。
あくまでアスナとブレイビア王立魔法院の第一目的は、フェンリルの開発にある。
ライトニング・ブリッツがゴッド・オブ・ブレイビアで好成績を収めることは、フェンリルを貸与してもらうために俺が取ってつけた、でっち上げの理由でしかない。
ブレイビア魔法院にとってはフェンリルの開発が進めば、俺たちがどうなろうと究極的には関係はない。
(アスナはだいぶリュカ個人に入れ込んではいるが)
だから――勝手にライトニング・ブリッツのチーム情報を持ち出すとかの不法行為は別として――フェンリルのデータを
もう間違いない。
アリッサは俺たち個人1人1人のことやチームでの立ち位置を、徹底的に調べ上げている。
その上で俺がブレイビア王立魔法院の名前を出したのをこれ幸いと、アスナを狙い撃ちしてきたのだ。
そんなアリッサに対して、ブレイビア王立魔法院の名前さえ出しておけば反論できないだろうと安易に考えた俺は、アリッサという最強王者への理解があまりに浅すぎた。
分かっていたつもりだったんだが、今回ばかりは完全にその上をいかれてしまった。
完敗だよアリッサ・カガヤ・ローゼンベルク。
情報戦は俺の負けだ。
君は姫騎士として強いだけでなく、全てにおいて本当に優秀で超一流だ。
だが。
それはそれとして。
この状況は本っっっ当にまずい!
アスナには、フェンリル開発という本来の仕事がある。
アリッサの提案に乗らないことはライトニング・ブリッツへの義理立てにはなるが、それは逆にブレイビア王立魔法院への背信行為にもなりうるのだ。
よってアスナはこの提案に対して簡単にはノーと言えないし、言ってはいけない。
そもそもあまりに魅力的な提案すぎて、心が惹かれているだろう。
だがなんとかアスナを説得しなければ、アリッサがここで一緒に生活するとかしないとかそういうのを通り越して、ライトニング・ブリッツがシャレにならない状況に陥ってしまう。
マリーベルを守るためだったとはいえ、俺が余計な論戦をアリッサに挑んでしまったせいで、チームに危機を呼び込んでしまったのだ。
「だ、だってヤマト。全データを取り放題なんだよ?」
「アスナの言いたいことはよく分かる。だが情報は何よりも価値がある。一方的にフェンリルのデータをライバルチームに見られることは、ライトニング・ブリッツのデュエル・アナリストとしてどうしても止めたいんだ」
「ヤマトの気持ちも分かるけど、アタシも研究員としての立場が……」
だよな。
当然、そういう反応になるよな。
アスナの立場ならこの反応は当然だ。
むしろこう返してこなかったら、逆に俺はアスナを職業人として信用できないまであった。
しかしそれを踏まえた上で、俺はアスナの説得を試みる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます