第9話 一筋の光明
「リューネ・フリージア……その名前、聞いたことがあるな」
「本当ですか?」
「たしかアレだろ? 嘘か真か知らないが、触れるだけで防御加護をゼロにしてガードアウトさせるヤバイ即死魔法の使い手だったとかなんとか」
なにかの古い資料で読んだ気がする。
そうそう、その時は『小学生が考えた最強の無敵魔法』かよって笑い飛ばしたんだ。
「『マナスチール(魔力簒奪)』のことですね。触れている相手の魔力を根こそぎ奪って強制的にガードアウトさせる、フリージア家に伝わる秘伝の魔法です」
「おおっ、マジであるのか! ってことは、もしかしてリュカも使えるのか?」
それなら話は早いぞ。
触れるだけで相手をガードアウトさせられるなら、近づいてくる相手にカウンターを入れれば楽に勝てる。
今まで悩んでいたのがバカらしくなるくらいだ。
「残念ながら私は使えません。というか、使えた人は歴代でもほとんどいません」
「それだけ特殊な魔法ってことか」
「味方の魔力を回復する『魔力回復』という、ほとんど使える人がいない先天性の超高難度魔法があるんですけど。それを完全に使いこなしたうえで、さらに魔法式を反転させないといけないんです。そして私はそもそも『魔力回復』が使えないので、『マナスチール(魔力簒奪)』も使うことはできません」
「なるほどねぇ」
ま、そりゃそうだよな。
そんな最強魔法が使えたら、4部リーグで1勝24敗なんてことにはなっていない。
「それで、私は一人っ子なんですけど。生まれつき膨大な魔力量を持っていたせいで、リューネ・フリージアの再来なんて呼ばれて、一門のみんなから期待されちゃっていまして」
「周囲の期待か。それでリュカはあんまり得意じゃない姫騎士を、頑張っているんだな?」
「えへへ、そういうことですね。お母さんもお父さんも、お祖母ちゃんもお祖父ちゃんも、親戚も。皆が私に期待してくれるから、なんとか期待に応えたいんです……その結果が、1勝24敗なんですけど」
「それは……辛いな」
俺は一般庶民の出だから、名門一家の期待を一身に背負うなんて経験をしたことはない。
それでも、それがどれほど重いことなのか。
大きな期待を背負いながら、1勝24敗してしまうことがどれだけ辛いことなのか。
想像するのは難しいことではなかった。
リュカの人となりを知れたのは良かったが、少し重い話になっちまったな。
少し話を変えるか、なんて俺は思っていたのだが。
「あーあ、頭の中だと何通りも動きをシミュレーションできるのになぁ。実際に動くとなると、身体は全然思った通りに動いてくれないんですよね」
リュカが悔しそうに言ったその言葉に、俺はハッとさせられた。
「待て、頭の中でシミュレーションできるのか?」
「はい」
「戦闘時の動きを、何通りも同時にか?」
「そうですよ。それがどうかしましたか?」
さも当然といった様子でリュカが頷く。
そこにはわずかの慢心も
ただただ自然体の、素直な自信だけがそこにはあった。
「ちょっと姫騎士デュエルの机上模擬戦をやってみてもいいか?」
「構いませんよ。でも頭の中のデュエルに関しては、私、結構自信ありますよ?」
俺は急いで戦術ボードを用意すると、リュカと机上模擬戦を始めた。
大まかに説明すると、ボードゲームとカードゲームを足して、1ターン5秒制限を付けた即断即決のターン制バトルシミュレーションだ。
(実際にこれを簡略化して面白味をプラスしたものが、『姫騎士デュエルマスターズ』という名前の対戦型トレーディングカードゲームとして発売され、人気を博している)
そして机上模擬戦を5戦したのだが、俺はリュカに手も足も出ずに5戦とも完敗した。
「……嘘だろ? 俺、机上模擬戦はかなり自信あったんだけどな。まさか全敗するとは思わなかったぞ」
フレースヴェルグにいた時も、チーム内で行った机上模擬戦で、俺は負けたことがほとんどない。
その負けもキャサリンが、自分が勝つまで「もう一回!」を繰り返すから、少し手抜きプレイをして負けたくらいで。
その俺がまさか1勝もできずに、ストレートで5敗もするとはな。
しかも判断がおそろしく速い。
5秒制限なんて長すぎると言わんばかりに、ノータイムでプレイしてくるのだ。
間違いない。
リュカは頭の中で次にどうすればいいか、いくつもルートが出来上がっているんだ。
だから俺がプレイした直後に、ノータイムで即座に最適な次のプレイができるのだ。
「うちの家系は運動はてんでダメなんですけど、学者や博士をたくさん輩出していて、頭を使うことは得意な家系なんです。頭の中だけならアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクにだって負けませんから。頭の中だけですけどね」
リュカは最後、自嘲するように笑ったが、しかし俺はそこに一筋の光明を見出だしていた。
バラバラだったピースが、勝利という名の一つパズルに組み上がってゆく!
「これなら何とかなるかもしれない」
「え?」
「明日、朝一で一緒に出かけよう。試したいことがあるんだ」
「試したいこととは?」
「今日はもう遅いから、細かいことは実際に向こうに行ってから説明する。その方が早いしな」
「はぁ、分かりました」
「明日はハードな1日になる。今晩はぐっすり寝ておくんだぞ」
「ご安心を。寝つきはいい方なので。ヤマトさんこそ、あまり根を詰めないようにですよ?」
「サンキュー。俺ももうちょいしたら寝るよ。じゃあおやすみな」
「おやすみなさい、ヤマトさん」
リュカが部屋を出ていくと、俺はもう一度リュカの資料を見ながら考えをまとめていく。
「そうだよ。なにも普通に戦う必要はない。運動音痴なら、そもそも動かなきゃいいわけだろ」
あれこれ考えているうちに時間はどんどん過ぎていき。
結局この後、俺が寝たのは朝の4時前だった。
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