第13話 超MMとは、かなりムカついているのを表す古い昔言葉です

「で、だ。ここからが本題なんだが」

 俺が真面目な雰囲気を継続しながら切り出すと、


「あれ? 今日は私の魔力を計測させてもらいに来たんじゃないんですか?」

 リュカが小首をかしげた。


「それも大事な目的だったんだが、それはあくまで前提条件みたいなもんでさ。本題はここからなんだ」


「あ、でもそうですよね。たくさん魔力があることが分かっても、分かっただけでは状況は何も変わりませんから」


「そういうこと」


 さすがはリュカ。

 理解が早い。


「それで本題って? 乗りかかった船だし、幼馴染のよしみで聞くだけ聞いてあげるわよ。でも時間がないから完結にね」


 そして時間がないと言いながら、ちゃんと話を聞いてくれる心優しいアスナである。

 なんだかんだでアスナは面倒見のいい奴なのだ(俺の方が年上だけど)。


「なら結論から言うな。アスナの開発しているマジックウェポンを使わせて欲しいんだ」


 マジックウェポンは魔動兵器とも呼ばれる、魔力で動く武器や兵器のことで、新生さえすれば姫騎士デュエルでも使うことができる。


「マジックウェポンを?」


「分離・遠距離攻撃タイプの思考操作型マジックウェポン――開発コードは『フェンリル』だったか? ちょっと前に話してくれたよな」


「フェンリル? あー、あれはダメよ。前にも言ったでしょ。魔力の伝達効率の問題で、どうにも燃費が改善できなくて。発想は悪くないと思うんだけどね。なにせ使用者の魔力をバカみたいにドカ食いするから、現状だと大型の魔力炉と直結でもしない限りまともに――って、そういうことね。なーる!」


 急いでいるからか早口だったアスナが、ピタリと言葉を止めると、納得顔でポンと手を打った。


「ああ。あれをリュカに使わせたいんだ。リュカならどれだけ燃費が悪かろうが、問題にならないからな」

「なるほど、考えたわね」


「じゃあ貸してくれるよな」

「ダメに決まってるでしょ」


 笑顔でお願いした俺を、アスナが一刀両断でぶったぎった。


「なんでだよ? 貸してくれよ? 今はそういう話の流れだっただろ。空気読めよな。幼馴染なんだし」


「空気読むとか幼馴染とかそういうんじゃないの」

「じゃあなんでだよ? 意地悪かよ?」


「あのね。研究開発中の最新のマジックウェポンを、おいそれと貸し出せるわけないでしょ。研究開発はアタシがやってるけど、開発資金も出来上がった資産も全部ブレイビア王立魔法院のものなのよ? そんなもの勝手に貸し出したりしたら、問答無用でアタシのクビが飛ぶわよ」


「やっぱそうなるか」

「やっぱそうなるかって、あんたねぇ。アタシをクビにしてやろうとか考えていたわけ? 超MMなんだけど」


「あの、話の腰を折ってすみません、超MMってなんですか?」

 リュカが律義に手を上げて質問した。


「『超マジむかつく』の略で、かなりムカついているのを表す古い昔言葉だな」

「んはぁっ!? ちょっとヤマト!  女の子に古いとか昔とか言わないでくれない?」


「単に言葉の説明をしただけだから、そうカリカリするなって。それにアスナはまだ22だろ。年を気にするような年齢でもないだろ」


「女の子はハタチを過ぎたらいろいろと気にするの!」


「そ、そうなのか。それは俺が悪かった。でも話は最後まで聞いてくれ。アスナ、この前言ってたよな。しばらく成果が出てなくて、研究費が削られそうって愚痴ってただろ」


「う、うるさいわね。世紀の大天才たるアタシにもスランプはあるのよ。でもアタシが本気になれば成果なんてすぐに出しちゃうんだからねっ」


 リュカの前で成果が出ていないことを言われたのが恥ずかしかったのか、早口でまくし立てるように言ったアスナ。

 しかも「世紀の天才」から「世紀の大天才」へとセルフ進化しちゃっている。


 だが、


「成果、出せるぞ? それも誰もが認める特大の成果がな」

「え?」


 俺の言葉にアスナは小さく目を見開いた。


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