第14話 交渉成立

「リュカならフェンリルを使いこなせる。つまり成果が出る。開発中のマジックウェポンを使ってゴッド・オブ・ブレイビアで勝つ。これ以上の成果なんてあるか?」


「……ないわね」

「だろ?」

「たしかにそう考えると実に魅力的な提案ね」


 アスナの心が傾きつつあるのを見て取った俺は、説得するための言葉を重ねていく。


「さらに付け加えるとだ。リュカは姫騎士デュエルの盤上シミュレーションで俺を簡単に負かすほど、頭の中だけなら最強に強い。思考のみで操作するフェンリルとの相性は抜群のはずだ」


「え? 盤上シミュレーションってあのカードゲームみたいのでしょ? ならヤマトになんて負けないでしょ? ちょっと前にヤマトが教えてくれて初めてやったけど、アタシ余裕で勝ったじゃん」


「アスナは頭が良いから俺相手でも余裕で勝っちゃうけど、普通はそうじゃないの! フレースヴェルグの現役姫騎士相手にも、俺はほとんど負けたことがないんだからな」


 それだけじゃないぞ。

 ゴッド・オブ・ブレイビアに参戦する20チームのデュエル・アナリストによる公式の大会イベントがあるんだが、俺はそれで3年連続で優勝している。


 そんな俺を完膚なきまでに叩きのめすアスナやリュカのほうが異常なのだ。


 まったくこの天才コンビ――100点同盟だったか?――と来たら、マジでガチに頭が良すぎるんだから、もう!

 

「やーねー、冗談を真に受けちゃって。アタシが天才過ぎるのが罪なのは、ちゃんと分かっているわよ」

「ほんとお前はブレないな……」


「でもそうね。リュカちゃんはフリージアの姫騎士だものね。なるほど。膨大な魔力に加えて、思考能力の高さも問題ない、か……」


 よし、いける!

 アスナの心は完全に傾きかけている!

 俺はここが勝負どころと、最後の一押しを放った。


「フェンリルを開発したアスナと俺が幼馴染みで。そんな俺はフェンリルの欠点を補うことができるリュカのチームの、デュエル・アナリストだった。これはもはや運命的ですらあると思わないか? 少なくとも俺はそう思っている。この出会いは偶然なんかじゃない、定められた運命なんだ!」


 アスナは生粋の研究者だが、にもかかわらず運命とかロマンとかいった情緒的なワードが3度の飯より好きなのだ。

 それを知り尽くしている幼馴染の俺は、ここぞとばかりにそのワードを入れ込んで、熱っぽく語って聞かせた。


「たしかにこれは運命を感じざるを得ないわね」

「だろ?」


 よし! 落ちた!


「まさかそこまで考えて、今日の話を持ってきたの?」


「それが俺の仕事だからな。勝つために必要なら、運命だってなんだって使いこなしてみせるさ」


「はわっ! 運命を使いこなすヤマトさん、カッコいいです! もはやデスティニー・マイスター・ヤマトさんですね!」


「あはは、ありがとリュカ。で、どうだアスナ?」


「………………その話、乗るわ」


 たっぷり10秒、沈思黙考してから、アスナが顔を縦に振った。


「交渉成立だな。これで俺たちは運命に導かれた仲間だ。頼りにしてるぜ、世紀の大天才」

「ありがとうございますアスナさん!」


「それでデュエルはいつなの? さっき急ぎって言ってたわよね? 少なくとも本番前に、貸し出し申請は完了させておかないと。でないと本気でアタシのクビが飛ぶから」


「開幕戦は2日後だ。それまでに頼む」

「2日後って、ほんとに急ぎね」

「なんとかなりそうか?」


「こうなったら、なりふり構っていられないわね。申請理由は『姫騎士デュエルの現役チームと提携したデータ取りのための中間運用テスト』って形でごり押しするわ。もちろんそっちの偉い人にも、ちゃんと話を合わせておいてもらってね。後で書類を渡すから、偉い人のサインもね」


「サンキュ、助かる。話はちゃんと通しておく。それとリュカにフェンリルの使い方も伝授してやって欲しいんだ。これもどうしても頼みたい。やっぱり開発者から直接レクチャーを受けるのが、一番手っ取り早いと思うからさ」


「それも仕方ないわね。今から有休を入れてフェンリルの使い方をリュカに付きっきりで教えてあげるわ」


「マジか? 助かるよ!」

 俺はアスナの面倒見の良さに感動して、思わずその身体を抱きしめた。


「ちょ、外でそういうことするのやめてよね。リュカちゃんが見てるでしょ。もうアタシたちもいい年なんだから」


「おっと悪い。つい嬉しくて」

 しまった。

 小さい頃からの癖で、またアスナに抱き着いてしまった。


「その代わり、絶対に勝ってよね。負けたら成果にならないどころか、使えない扱いされてマイナスになっちゃうんだから。つまり負けたらアタシの研究費がピンチなんだからねっ」


「せ、責任重大です……!」


「なーに、気負う必要はないさ。リュカにフェンリルは、言わば鬼に金棒だ。使い方さえマスターすれば勝てる。勝負事に絶対はないが、だけどかなりの確率で勝てるさ。デュエル・アナリストの俺が保証する」


「本当ですか? ヤマトさんにそう言われたら、なんとなく自信が出てきましたよ……!」


「だから開幕までになんとかフェンリルを使いこなせるようになってくれ。何よりもまずはそこだ」


「分かりました!」


 というわけで。

 デデン!

 リュカは分離・遠距離攻撃タイプの思考操作型の最新マジックウェポン『フェンリル』を手に入れた!

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