~ゴッド・オブ・ブレイビア~ 姫騎士デュエル・アナリストの俺、男だからとランク2位のチームを追放され、訳あり美少女ばかりの新チームに拾われる。「開幕戦は3日後だ。よろしく頼むよ」「……OK」
第15話「なにせキャサリンは、俺の前では丸裸も同然だからな」
第15話「なにせキャサリンは、俺の前では丸裸も同然だからな」
アスナとの交渉がバッチリまとまった後、アスナにリュカを見てもらっている間に、俺はマジックウェポンの追加登録を申請しに、姫騎士デュエル連盟の本部へと急ぎ向かった。
「本当は登録申請は一昨日までなのを、そっちの事情を考慮して、特別に受け付けているんですからね? 次はもう少し早めに申請してくださいよ? 2度目はありませんからね?」
担当者のお姉さんに小言を言われたものの、無事にフェンリルの登録申請を済ませる。
『そっちの事情』ってのはもちろん、チーム名こそライトニング・ブリッツのままだが、オーナーから姫騎士まで中身はごっそり入れ替わっていることを指している。
これはミューレから聞いた話なのだが、姫騎士デュエル連盟は表向きこそ『個々のチーム運営に連盟は関与しない』と言っているものの、ゴッド・オブ・ブレイビア史上初となる参戦チーム脱落という失態は避けたいのが本音らしい。
そのため特例条項や例外規定をアレコレこねくり回して、特別に無理を聞いてくれているのだそうだ。
連盟幹部の保身とか、試合数が減ることによる興行への悪影響とかもろもろあるんだろうけど、恩恵を受ける新生ライトニング・ブリッツにとってはありがたい話でしかない。
「ともあれ申請完了、と。これで開幕戦でフェンリルが使用可能だ。後は実際にリュカが使うところを見て習熟度合いなんかを確認してから、最終的な作戦の立案だな」
◇
申請を終えてブレイビア王立魔術院に戻ると、リュカが興奮した様子で駆け寄ってきた。
リュカは8枚の小さな羽――長さはそれぞれ40センチくらいの小型武器だ――のついたバックパックを装備している。
ほうほう。
実物は初めて見たが、これがフェンリルだな。
アスナに聞いていた通りの姿かたちだ。
「調子はどんなもんだ? フェンリルは上手く使えているか?」
「これすごいです! なんですかこれ!」
「その様子だと、かなりいい感じみたいだな」
「はい! 8個の小型武器が、私が思った通りに飛行して、四方八方から攻撃することができるんです!」
リュカはもう、興奮冷めやらぬといった様子だ。
リュカは8枚の羽根を空中に展開すると、俺の前で器用に操って見せた。
「な、すごいだろ? これならリュカは一歩も動かなくていい。運動神経も関係なくなる。リュカが頭の中で思い描いた通りにフェンリルは動いてくれて、後は頭の中のシミュレーションをそのままデュエルで再現すればいいだけだ」
「はいっ! これなら本当にいけそうです!」
俺の言葉に、リュカが満面の笑みでうなずいた。
そこに分厚い資料を抱えたアスナがやってくる。
「いろいろサンキュー。はいコーヒー。いつものやつだ」
俺は戻ってくる途中で買った缶コーヒーをアスナに手渡した。
甘党のアスナが昔から大好きな甘々のコーヒーだ。
「ありがと♪ いろいろ説明して、ちょうどのどが渇いていたのよね」
資料を作業台の上に置いたアスナが一口、コーヒーを口にするのを待ってから、俺は口を開く。
「かなり順調そうだな」
「順調も順調。リュカちゃんは飲み込みも早いし、一度覚えたら忘れない。さすがはフリージアの姫騎士ね。もう基礎は終わって応用に入っているわよ」
「サンキューな、アスナ。使い方のレクチャーまで頼んじゃって」
「問題ないわ。説明したことをすぐに理解してくれるから、楽なものだったもの。それで、ヤマトの方はうまくいったの? ここまできてやっぱり使えませんでした、とか言わないでよね?」
「登録申請はバッチリだ。開幕戦で問題なく使える」
「OK。これで準備は整ったわね」
「ああ。あとはフェンリルの操作の習熟をギリギリまでやろう。その間に俺は戦術と相手のデータを用意する」
「ちなみにリュカの開幕戦の相手って、誰なの?」
「フレースヴェルグのキャサリンだ」
「フレースヴェルグって、ヤマトが前いたチームじゃん。しかもキャサリンってあのキャサリン・マオでしょ? 去年2位の」
「そのキャサリンだ」
「うーん、初めての相手は、もうちょっと弱いところがよかったかなぁ」
「おいおい、どうせ勝つなら強い相手の方が目立っていいだろ?」
「ま、そういう考え方もあるわね」
「それにキャサリンのことは、フレースヴェルグでデュエル・アナリストをやっていた俺が、誰よりも知り尽くしているんだ。戦闘スタイルも、性格も、動きの癖も、状況ごとの行動確率も、なにもかも全部な。それこそキャサリン本人よりもだ」
「なるほどね。たしかに一番戦いやすい相手と言えなくもないわね」
「なにせキャサリンは、俺の前では丸裸も同然だからな」
「うーわっ、言い方がおっさんくさっ。今ヤマト何歳よ?」
「に、25だけど……」
「気を付けなよ? 感性が10歳くらい年取ってるよ?」
「……はい」
アスナは面倒見がいいし、基本的に他人に優しいんだけど、幼馴染の俺にだけは割とズケズケとモノを言う。
しかも当たっていることが多いときた。
うん、ちょっと気を付けよう……。
「で、改めて聞くけど、去年の2位のキャサリン・マオに勝てるのよね? アタシの研究費がかかってるのよ? 勝ってくれないと困るんだからね?」
「勝てるさ。注目度の高い開幕戦で、みんなの度肝を抜いてやろうぜ」
俺がリュカに視線を向けると、
「はいっ!」
フェンリルに相当な手応えを感じているのだろう、リュカからは力強い声が返ってくる。
「リュカちゃん、研究費をよろしくね!」
「お前はさっきからそれしか言えないのかよ」
「お金は大事でしょ。負けたらヤマトが研究費を払ってくれでもするわけ?」
「さぁがんばろうな、リュカ! 勝ってみんなで幸せになろう!」
「はい、幸せになりましょう!」
「その意気よ!」
こうして俺たちは、短い時間でできる最善をやり遂げて。
そして2日後。
ゴッド・オブ・ブレイビアの今シーズン開幕戦の日を迎えた。
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