第76話 必要経費
「そうなんです! ヤマトさんはマリーベルさんになんとか勝たせたいと思って、やむにやまれずやったんです! 反省だってしています! 無実とは言いませんが、だからそんなに怒らないであげて下さい!」
リュカがすかさず俺への助け舟を出してくれる。
涙目になりながら両手を胸の前でグッと握って俺を弁護する様子があまりに必死だったからか、マリーベルは怒り顔をパッとどこかへやってしまうと、小さく苦笑しながら言った。
「もうリュカってば。別に本気で怒ってなんかいないから。意地悪されたから、ちょっと意地悪し返しただけ」
「……そうなんですか?」
リュカが不安そうな上目づかいでマリーベルを見る。
「だってアレがなかったらアリッサに勝てなかったのは、自分でも分かっているもの。ヤマトさんのおかげで私は全力が出せたのは、間違いないから」
「ですよね~!」
「だけど、あの瞬間は本当にビックリしたんだからね? だからちょっと意地悪をし返すくらいの権利はあるでしょ?」
マリーベルが小悪魔な笑顔でウインクすると、
「マリーベルさんが優しい人で良かったです」
リュカはホッとしたように、胸の前で握りしめていた手を下へと下ろした。
「まぁでも? ヤマトさんにはお詫びにご飯くらいは奢ってもらうからね。私の勝利のお祝いってことで」
「最強無敵、無敗のバーニング・ライガーとアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに勝ったんだ。それくらい安いもんだ」
「ほんと? じゃあこの前のコービー牛のお店でよろしくね♪ 5連勝した時に行ったとこ」
「えーと、あそこかぁ……」
「そ、あそこ。すっごく美味しかったよね♪」
美味しかったのは間違いない。
美味しかったのは間違いないが、あそこ、ものすっっっっっっっっごい値段してたんだよなぁ。
だがアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに勝ったことを考えれば、安いもんだよな。
なにせ無敗の最強王者に初めて土を付けたのだから。
だからうん、安いもんだ。
……いや、全然ちっとも安くはないな。
普通に1人5万とかかかるあの店を、安いと言ってのける甲斐性は俺にはない。
でも、今回だけならなんとか……うん。
「…………分かった」
俺はやや声を震わせながら、ゆっくりと首を縦に振ったのだが――、
「ねぇねぇ、ヤマトの奢りならアタシも行っていい?」
アスナがさも当然のようにタダ飯に乗っかろうとしてきやがる。
こ、こいつ……!
あの店がいくらかかるか知ってて、たかりにきやがったな!?
俺は即座に拒否しようとしたのだが、
「もちろん、アスナさんはチームの一員だもん。ね、ヤマトさん。当然、みんなの分も奢ってくれるよね?」
「み、みんなとは……?」
俺はデュエル・アナリストだから曖昧な言葉は嫌いだぞ?
「私と、リュカと、アスナさんと、ミューレさん。だってチームなんだし、当然でしょ?」
俺を入れて5人。
一人5万としたら単純計算25万。
なんだこれ。
もはや1食の金額じゃない。
一カ月、汗水働いて得られる収入だ!(涙
「……お、おう」
しかし俺には首を縦に振る以外の選択肢はありえなかった。
「えっとあの、ヤマトさん。無理でしたら別に私は……」
慌てて遠慮するリュカを、
「リュカ。私の祝勝会に来てくれないの? さみしいなぁ」
マリーベルが笑顔で引き留める。
「えっと、そう言うわけでは……」
「ならリュカも一緒ね。はい、決定」
というわけで俺はチーム全員に、コービー牛を奢ることになってしまったのだった。
いいんだ……。
マリーベルがアリッサに勝つために、俺は必要なことをした。
これはそのための必要経費なんだ……。
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