第41話「全部計算ずくで子供をあやしていたとか、感動がすっかり薄れちゃったんだけど」

「さてと、突発の人助けイベントも無事に解決したし、帰るか。マリーベルの忘れ物はもう見つかったのか」

「それは見つかったんだけど――」


「なんだよ?」

「ヤマト……さんって、子供の面倒を見るの得意なの?」


「いや、特には?」


「そういう割に、いかにも手慣れた様子でさっきの子をあやしていたように見えたけど。しかもすごく親身になっていたわよね?」


「あれは手慣れているとか親身になっているとかじゃなくて、たんに子供を安心させるテクニックを使っただけだよ」


「テクニック?」


「視線を同じ高さにする。こちらの不安を絶対に見せない。『ママは近くにいる』『すぐ会える』、そういうポジティブかつシンプルな言葉だけを使う。ゆっくりと笑顔で話す。子供は大人と比べて精神構造が単純だから、シンプルに不安を取り除いてやれば、母親が探しにくるまでの間、短期的に安心させるのはそう難しくはないんだ」


「…………」


 俺が要点をかいつまんで話すと、なぜかマリーベルは黙り込んでしまった。


「急に黙り込んでどうしたんだ?」

「もしお母さんがすぐに見つからなかったら、どうするつもりだったのよ?」


「あの子の表情から不安は感じたけど、絶望感までは感じなかった。つまりさっきはぐれたばっかりだってのが見て取れた。となると母親は近くにいて、この子を探しているはず。当然、すぐに見つかる。マリーベルも子供を必死に探す母親の姿は、すぐに分かっただろ?」


「…………」


 俺がさっきの場面で行った状況分析を披露すると、マリーベルは再び静かになってしまった。


「えっと、どうした?」


「全部計算ずくで子供をあやしていたとか、感動がすっかり薄れちゃったんだけど」

 マリーベルが呆れたようにつぶやいた。


「あの場面で必要だったのは感動よりも、あの子とお母さんが無事に再会するって結果だからな。そのために必要なことをしたんだよ。おっと、言っておくが迷子の女の子が可哀想って気持ちが、全くなかったわけじゃないんだぞ?」


 だけどその気持ちと平行して、冷静に状況を分析し、子供を安心させるテクニックを駆使して問題を解決しようとしたのは間違いない。


「デュエル・アナリストってみんなそうなの?」

「人それぞれじゃないか? デュエル・アナリスト同士でも、合う合わないはあるし」


「ふぅん」

「なんだよ?」


「開幕戦の時の演技もそうだけど、ヤマトさんって誠実そうな顔をしているのに、結構言うこと言うし、冷徹にやることはやってくるタイプよね。ちょっと意外かも」


「目先の勝利とか、お母さんを見つけたりとか、そういう明確な結果を求められる時はな。冷徹でも、結果的に誰も不幸せにはならないだろ?」


「黙っていれば私の好感度が上がる、とか考えなかったの?」


「チームメイトに嘘をついてまで好感度をあげようとは思ってはいないよ。どうせすぐにボロが出るだけだ。あれか、大人のズルいところを見て幻滅したか?」


 マリーベルは結構、純粋な子っぽいしな。


「ううん、逆かな。むしろ誠実だと思うし」


「誠実ではないだろ?」


「少なくとも、今さっきの状況を包み隠さず話してくれたのは誠実でしょ?」

「そうとも言える……のかな?」


「言えるのよ。ふふっ」

「なんだよ?」


「デュエル・アナリストなんてどうでもいいって思っていたけど、ちょっとだけ興味が湧いたかも」


「マジか?」

「腕が確かなのも分かったしね。ミューレさんやリュカが信頼しているのも納得だわ」


「だったらデュエル・アナリストとしてのサポートも始めようか?」


「ううん、それはいい。興味が湧いただけだから。デュエルは私は一人でやる。誰の力も借りない。それが私の意地の通し方だから」


 意地と来たか。

 どうやらマリーベルの『訳あり』はかなり根っこが深そうだ。


「そっか。ま、気が向いたらいつでも聞きに来てくれ。対戦相手のデータとか、ここまでのマリーベルのデュエルで気付いた事とかはデータにまとめて、準備だけはしておくからさ」


「準備なんてしないでいいわ。聞きに行くことはないから、時間の無駄でしょ」


「そこはマリーベルは気にしなくていいさ。実際に使われようが使われまいが、関係はない。準備するのがデュエル・アナリストの仕事だからな」


「いいって言ってるのに……」

 マリーベルが小さく苦笑した。


 その後、ライトニング・ブリッツへの拠点である元・小学校への帰り道。


 俺とマリーベルは口数こそ少ないものの、『今日は月が大きい』『今日は暖かい』『今日は星が綺麗』etc...短い会話をいくつか交わした。


 デュエル・アナリストとしてのサポートは断られてしまったものの、少しだけマリーベルとの距離が近まった気がした俺だった。

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