第42話 リュカとマリーベルと朝食を。

 翌朝。

 拠点となる元・小学校の一階にある、給湯室を広げたダイニングルームにて。


 俺はリュカの用意してくれたおいしそうな朝食を前にして、おおいに食欲をそそられていた。


「今日も美味しそうだな。朝からもりもりと食欲がわいてくるよ」


「えへへ、ありがとうございます。こう見えて料理は得意ですから──ってほどのものでもないですけどね。普通の朝ごはんですから」


 リュカはそう謙遜するが、もちろん額面通りなわけではない。


「いやいや、こんがりときつね色に焼けたトースト。ミニトマトやパプリカが目に鮮やかな野菜サラダ。絶妙な半熟具合の目玉焼き。そして部屋中に香るコーヒーのかぐわしい匂い。どれもこれもいい仕事だ。最高に食欲をそそってくるよ」


「ヤマトさんに喜んで貰えてよかったです」


 今日の朝食は野菜サラダとパンと目玉焼き、それにコーヒー。

 全部リュカの手作りだ。


「それじゃあ早速、いただきます」

「いただきます」


 俺がリュカに感謝をしながら朝食に手をつけようとした時、ドアが開いてマリーベルが顔を出した。


「おはよう」

 素っ気なくだけど、俺たちが挨拶するよりも早く、しかも俺たちに視線を向けて自分から挨拶を切り出してきたマリーベル。


「――! おはようございますマリーベルさん!」


 リュカが驚いたように目を大きくすると、元気よく挨拶を返す。


「おはようマリーベル」

 俺も続いて挨拶を返した。


「あの、朝ごはん食べますか? 食べますよね?」

 リュカが畳み掛けるように言葉をかける。


「まぁ、食べるけど――」


「じゃあすぐに用意しますね! いえ、まだ手を付けてないので、マリーベルさんは先に私の分を食べていてください」


「そんなのいいわよリュカ。朝食の準備くらい自分でするから」


「なんと! こんなこともあろうかとフライパンはそのままにしてありますし、サラダもコーヒーももう一人分用意してあります! ではそういうことで!」


 リュカはマリーベルに有無を言わさぬように言葉を並べ立てると、いつものゆっくりとした動きはどこへやら。

 ぴゅーっとキッチンに行って、手際よくもう1人分の朝食を用意し始めた。


 ちなみにもう1人分あるのは、実はミューレの分だったりする。

 いつもならもうちょっとしたら起きてくるので、リュカが作り置きしていたのだ。


「それってミューレさんのだよね?」

「まぁまぁいいじゃないか。ここはリュカの気持ちを受け取っておきなって」


「だってこれじゃ私、チームメイトを朝からパシらせる感じ悪い人みたいじゃない」


「マリーベルと一緒に朝食を食べられるのが、リュカも嬉しかったんだよ。パシらされたなんて猫の額ほども思っていないさ」


「ほんと素直でいい子よね」


「そんな素直ないい子のためにも、よかったらこれからも気が向いた時だけでいいから、一緒してくれるとありがたいな。もちろん俺も嬉しい」


「ま、気が向いたらね。いただきます」


 クールに言うと、マリーベルがサラダのレタスをハムッと口に入れた。

 

 しかしこの日から、マリーベルは朝食の時間に毎日ダイニングルームに顔を出すようになった。


 マリーベルとの関係は少しずつだが、いい方向に向かっているように思える。


 幸い、今シーズンの残留はほぼ確定しているんだ。

 時間はまだまだある。

 ゆっくりと仲良くなっていけばいい。

 焦る必要はないさ。

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