第40話 マリーベルと迷子の少女

「ヤマト……さん。うん、そうみたいなの。お母さんとはぐれちゃったみたいで」


 俺を見て、マリーベルが露骨にホッとしたような顔を見せた。


 そういえばマリーベルから名前を呼ばれたのって、これが初めてじゃないか?

 期せずして少し関係が深まったかも?


 それはそれとしてだ。


「そっかぁ。でも大丈夫。お母さんはすぐに来るから安心してね」


 俺はしゃがんだまま、優しく笑いながら元気づけるような言葉をかける。

 女の子を怖がらせないように、自分からは決して近づかない。


「ほんと? お母さんすぐ来る?」

 迷子の女の子が今にも泣きそうな声で聞いてくる。


「ほんとほんと。すぐにお母さんが来るから、それまでここでお兄さんとお姉さんと一緒に待っていような」


「うん!」

 そう答えた迷子の女の子は少しだけ笑顔になっていた。


 女の子は俺のところまでゆっくりとやってくると、手を握ってきたので、俺も優しく握り返してあげる。


「ちょ、ちょっと。なに簡単に約束しちゃってるのよ。今の明らかに嘘でしょ」


 と、俺の隣で中腰になったマリーベルが、俺にだけ聞こえるように耳元で小声で非難してきた。


「マリーベル。俺はこの子の相手をしているから立てない。この子のお母さんが今必死に探しているはずだから、マリーベルは周囲を見てそれらしき人がいたら、手を振ってここにいるってアピールしてあげてくれないか?」


「あのね。そんなことを言われても、そうすぐに見つかったら誰も苦労はしないわよ――あ、あれかな?」


 俺の目論見通り、姫騎士デュエルで鍛えたマリーベルの目は、すぐに子供を探す母親の姿をとらえたようだ。


 マリーベルがお母さんに大きく手を振ってアピールすると、一人の女性が駆け足で近寄ってきた。


「よかったな、もうお母さんが見つかったみたいだぞ」

「ほんと?」


「ほらあそこ。女の人がこっちに走って来てる」

「あ、おかーさんだ! おかーさん!」


 迷子の少女はパァッと顔を輝かせると、今まで大切そうに握っていた俺の手をポイっと離して、一目散に女性の元に駆け寄っていった。

 ま、見知らぬ俺より、大好きなお母さんだよな。


 お母さんは女の子と再会すると、ヒシっと我が子を抱きしめた。


「もう! 勝手にいなくなっちゃ駄目でしょ」

「ごめんなさい」


「でも無事でよかった。怪我はない?」

「だいじょーぶ! おにーちゃんとおねーちゃんが付いててくれたから!」


「感動の再会だな。よかったよかった」

「……」


 俺は2人の再会を素直に喜んだんだけど、なぜかマリーベルは2人ではなくジッと無言で俺を見つめていた。


 その後、


「ほんの一瞬、目を離した隙にいなくなってしまって。ご迷惑をおかけしたようで本当に申し訳ありませんでした」


「いえいえ、俺たちは少し一緒にいただけですから。すぐに見つかったみたいで良かったです」


「本当になんとお礼を言っていいのやら」

「気にしないでください。当たり前のことをしたまでですから。無事に再会できてなによりです」


 お母さんに何度も頭を下げられて、感謝の言葉を告げられた俺たちは。


「おにーちゃん、おねーちゃん、ばいばーい!」


 すっかり笑顔になって、何度も振り返っては手を振ってくる女の子に手を振り返しながら、2人の姿が完全に見えなくなるまで見送ったのだった。

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