第33話 猫カフェのアスナ

「さてと、これからどうする? せっかくモールまで来たんだし、他の買い物とかあったら付き合うぞ」


「だったら猫カフェに行こうよ猫カフェ」

「猫カフェ? アスナはほんと好きだよな」


 俺の中では実は、アスナといえば猫カフェ。

 猫カフェといえばアスナである。


「しょうがないじゃない。子供の頃はお父さんが猫アレルギーで飼えなかったし。大人になったら忙しくてとても面倒を見られないし。好きな時に好きなだけ猫を堪能できる猫カフェは、もはやアタシのためにあるようなものだよね」


「はいはい、何度も聞かされたから分かってるって。この近くにあるのか?」

「あるよー。リサーチ済み」

「さすがは『猫カフェのアスナ』だな。じゃあ行くか」


 俺はアスナと連れ立って猫カフェに向かった。

 歩き出してすぐに、可愛らしさとオシャレさが同居したいい感じの看板を出した、すぐにそれと分かるお店が見えてくる。


「あ、あそこあそこ」


「なになに? Cat’s Cafe MIKE(キャッツ・カフェ・マイク)? えらく男らしい名前だな」


「マイクじゃなくて三毛猫のミケでしょ?」

「……あ」


「え? なにその反応? もしかして今のマジで言ったの? なにそれウケるー!」


「くっ、俺としたことが……!? ほ、ほら、入るぞ」

「はいはーい。マイク入りまーす♪」


「こ、こいつ、これみよがしにこすりやがって……! しかも妙に上手いこと言いやがる……!」

「あははは」


 俺は恥ずかしさを隠すように足早に入口へと向かうと、ドアを開けた。

 カランコロンと耳に心地よいドアベルが鳴る。


「いらっしゃいませ~♪ Cat’s Cafe MIKEへようこそ~♪」


 すぐに可愛いネコ耳を付けた店員さんが入り口にやってきて、笑顔を向けてくる。


「何名様ですか~♪」

「2名様でーす」


 俺が答える前にアスナが答える。


「2名様ですね~♪ それではこちらの席へどうぞ~♪」

 俺とアスナは入り口に近い席へと案内された。


 真ん中に『にゃんこと触れあいエリア』があって、ドーナツ状にローテーブルが配置されている。

 猫カフェでよくある形式だ。


 そう広くないとはいえ、店内はほぼ全ての席が埋まっていた。


「平日なのに結構、混んでるな」

「雑誌とかでも特集されたりする、猫好きには有名なお店だからね。人懐っこい猫が揃ってるって話で、前から来たいと思っていたの」


 スイーツとドリンクを注文をしてからアスナと話をしていると、『にゃんこと触れあいエリア』に見た顔がいることに俺は気がついた。


「あれってマリーベルだよな?」

「あれ、ほんとだ」


 こっちに背中を向けているが間違いない。


「同じチームなのに外で会って声をかけないのもなんだし、挨拶くらいしてくるか」


「マリーベルちゃんは猫好きだったんだね。ふふっ、あんまり話したことはないけど、仲良くなれそう♪ 猫同盟だね」


「お前、リュカともなんか変な同盟を結んでいたよな?」

 たしか100点同盟だったか。


「ふふふ、今さら気付いたの? ヤマトの周りは既にアタシの同盟者ばかりになっているのだ……!」

「別に構わないけど」


「ヤマトは本当にノリが悪いよね。モテないよ?」

「うるせーよ」


 なんて、俺とアスナは昔と変わらないやり取りをしながら離席すると、マリーベルのところに向かった。


「にゃんにゃん。にゃにゃん? ふふっ、可愛いですね~。おやつ食べますか? はい、チュルルですよ~」


 可愛らしい三毛猫を抱きかかえながら、猫用のお菓子『チュルル』を食べされているマリーベルに声をかける。


「よっ、マリーベル。こんなところで会うなんて奇遇だな」


「にゃんにゃん、にゃ…………どうしてあなたがここに……」


 よほど熱中していたのだろう。

 声をかけられて初めて俺の存在に気付いた様子のマリーベルが、猫をあやす手を止めて、大きく目を見開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る