第30話 イルカのネックレス
「はふぅ……イルカさん、すごく可愛いです」
リュカが思わずといった様子で、しっとりとした声でつぶやく。
「イルカがハートマークを作っているのか。へぇ、可愛いさの中にスタイリッシュな雰囲気もあって、細かいところまで作り込まれているし、いいアクセサリーだな」
「すごく素敵ですよね。でもちょっとだけ高いです」
「いいデザインなだけあって、値段のほうも結構するな」
イルカの値段を見ると、まぁまぁいい値段をしていた。
雑種の中に1匹だけ血統書付きがいるとでも言えばいいのか、明らかに他のシルバーアクセサリーとは値段帯が違っている。
なるほど、こいつは客寄せ用か。
リュカはしばらくイルカのシルバーアクセサリーをジッと眺めてから、そっと売り場に戻すと、言った。
「では帰りましょう」
「買わないのか?」
「ちょっといいお値段なので、なかなか……」
リュカが恥ずかしそうに笑う。
ゴッド・オブ・ブレイビアに参戦するトップランカーの姫騎士は、個人スポンサーなんかもつくし、かなり儲かる職業だ。
それこそキャサリンなんて、気に入った物なら値段なんて見もせずに何でも買う。
それだけの財力を手に入れることができる。
だけどリュカは去年まで4部の姫騎士だった。
しかも戦績がよくない。
昨日までのライトニング・ブリッツはそもそも経営が火の車だったし、今現在のリュカはあまり贅沢できるような懐事情ではないのだろう。
ま、それもそう遠くないうちに変わるだろうけどな。
それはともかく、このイルカのシルバーアクセサリーを、リュカはかなり気に入っているみたいなんだよな。
そして俺は裏方とはいえ、去年2位のフレースヴェルグでデュエル・アナリストをやっていたので、これくらいなら買う余力は十分にある。
「じゃあ俺からプレゼントするな。すみません、このイルカのアクセサリーが欲しいんですが」
俺が店員の女性を呼ぶと、
「え、あの――」
リュカがびっくりしたような顔を向けてきた。
「ゴッド・オブ・ブレイビア初勝利のお祝いを何かあげたいなって、思っていたんだよな。ちょうど良かったよ。これにしよう」
「お気持ちは嬉しいですが、でもこれ、結構高くて――」
「リュカはそれだけのことをしてみせただろ?」
「そう……なんでしょうか?」
リュカが遠慮がちにつぶやきながら小首をかしげる。
「リュカは知らないみたいだから教えておくけど、ゴッド・オブ・ブレイビアに初めて参戦するチームの開幕戦の勝率は、1割を切る」
「それってつまり、新規に参戦したチームは、開幕戦を10回に1回も勝つことができないってことですか?」
「そういうことだな」
「全然、知りませんでした」
「プレッシャーをかけないようにって思って、マイナスの情報は敢えて言わなかったんだ」
「ゴッド・オブ・ブレイビアは本当に厳しい世界なんですね」
リュカが噛みしめるようにつぶやいた。
「そうさ。そしてそれほど厳しい世界で、リュカは前年2位のキャサリンに圧勝し、チームも勝った。イルカのシルバーアクセサリー1個で喜んでもらえるなら、安いもんだよ」
「それはそうかもですけど……」
「それにリュカによく似合うと思うからさ。チームのデュエル・アナリストってだけでなく、俺個人としてもリュカにこのイルカのアクセサリーをプレゼントしたいんだ。ダメか?」
「そういう言い方はズルいです。そんな風に言われちゃったら、断れないじゃないですか」
「大人はズルいもんなんだ。ってわけで、お待たせしてすみません。このイルカのネックレスを買います」
「お買い上げ、ありがとうございま~す! いや~、お兄さんはお目が高い。これはメルエスの元デザイナーの作品でして、可愛いカノジョさんにはよくお似合いだと思いますよ~!」
高いアクセサリーが売れたからか店員さんまで嬉しそうだ。
「このまま付けて帰るので、そのままでお願いします」
「かしこまりました~! 専用の箱がありますので、それだけ持ってきますね」
俺が支払いを済ませるのを律義に待ってから、リュカがイルカのネックレスを首に着ける。
「どう、ですか?」
「よく似合ってるぞ」
「えへへ、ありがとうございます。一生、大事にしますね」
「別にそこまでしなくてもいいさ」
「いいえ、大事な記念ですから」
「そうか?」
「はい♪」
リュカは帰る間、ずっと笑顔だった。
時おりペンダントをすくい上げるように手で持ち上げると、嬉しそうにイルカを見つめている。
ちょっと高い買い物だったが、この笑顔が見れたら十分だよな。
俺は幸せな気分でリュカの笑顔を眺めていた。
―――――――――
お読みいただきありがとうございます。
まずは前半のリュカ編が無事に終了です。
続いてマリーベル編が始まります。
果たしてマリーベルは何者なのか?
続きをどうぞお楽しみに(*'ω'*)b
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