第29話 リュカとデート

 見事な勝利を収めた開幕戦の翌日。


 俺とリュカは新生ライトニング・ブリッツ初勝利のお祝いも兼ねて、街に遊びに出ていた。


 今日は平日なので、アスナはブレイビア王立魔法院での仕事があっていない。

 今までは不可能だったフェンリルの実戦稼働データが取れたので、それを元に改良プランを作成するのだと意気込んでいた。


 マリーベルはそもそも俺たちとつるむ気ゼロなので不参加。

 一応、声はかけたのだが秒で断られてしまった。


 ミューレはもう忙しすぎて、息抜きをする暇すらない。


 なにせスポンサーがずっと決まらないで金策にあえいでいたのに、昨日の開幕戦の勝利の直後から、ものすごい数のスポンサーの申し出があって、ずっとその対応に追われているのだ。


 嬉しい悲鳴って奴だな。

 かなりの大手からも打診があったらしく、今日は朝からほくほく顔だった。


 ミューレは借金してチーム運営をしていたからな。

 これで大きなスポンサー契約がまとまれば、借金を全部チャラにすることができる。

 ミューレは人生を賭けた大博打に見事、勝ったのだ。


 というような状況だったので、初勝利のお祝いと言いつつも、メンバーは俺とリュカの2人きりだ。


「悪いな。せっかくのお祝いだっていうのに俺しかいなくて」


 リュカお勧めの甘味処で買ったばかりのソフトクリームを食べつつ、俺はリュカに申し訳ないという気持ちを伝える。


「いえいえそんな。むしろそっちのほうがいいですから」


 しかし心優しきリュカは文句の一つも言わずににっこりと笑うと、自分のソフトクリームを小さな舌でぺろりと可愛く舐めとった。


 姫騎士デュエルで戦う時の凛々しい姿とはまた違った、年相応の可愛らしい仕草に、俺はなんともほっこりする。


 ちなみに俺がバニラソフトで、リュカはメロンソフトだ。


「リュカはあんまり大人数でワイワイ騒ぎたくないタイプか? 実は俺もどっちかって言うとそういうタイプなんだよな」


「それもありますけど、だってほら、デートみたいじゃないですか。なんちゃって、えへへ」


 恥ずかしそうに頬を染めながら、リュカがはにかむ。

 なんだこいつ可愛すぎだろ。


「じゃあソフトクリームの食べさせ合いっこでもするか?」

 その可愛いい物言いについ釣られてしまい、俺は冗談でそんなセリフを言ってしまう。


 言ってすぐにセクハラ過ぎてヤバイと思ったものの、既に後の祭りだ。

 しかもリュカは冗談を真に受けてしまった。


「しますします! したいです!」

「え、お、おう……」


 なぜか妙に目を輝かせて意気込むリュカを前に、俺は今さら冗談だったとは言えなかった。

 後日、訴えられたらどうしよう。

 まぁ嫌がっているようには見えないから、大丈夫……かな?


 俺が恐るおそるリュカにソフトクリームを差し出すと、リュカは上のところを少しだけハムッと咥えた。


「えへへ、美味しいです。メロンソフトも美味しいですけど、やっぱりバニラソフトは美味しいとかそういうのを超越した、ソフトクリームの王道ですよね」


「間違いないな」


「それでは今度はこっちのお返しです。どうぞ、食べてください」


 リュカが差し出したメロンソフトを俺も少しだけパクリとする。

 すぐに冷たいメロンの果汁が口の中に広がっていった。


「メロンソフトも美味しいな。甘さが絶妙だ」

「ここのメロンソフトは有名なんですよ。雑誌でも紹介されたことがあって」

「それも納得だ」


 その後、リュカが服を見たいというのでアパレルショップに行ったり、軽くランチをしたりしている内に、瞬く間に時間は過ぎ。

 気付くと、そろそろ帰ろうかという時間になっていた。


「今日はいっぱい遊んじゃいましたね。また明日から気分を入れ替えて、次のデュエルに備えないとです」


「気分転換はバッチリできたみたいだな。開幕戦に続いて、第2節も頼むぞ」

「はい!」


 と、そう言ったリュカの視線が小さなアクセサリーショップの店先のショーウインドウに向けられていることに、俺は気が付いた。


「あそこ、ちょっと見ていこうか」

「いいんですか? もう結構遅い時間ですけど」


「ちょっと見るくらい、大した時間じゃないさ」

「じゃあちょっとだけ」


 リュカと一緒にアクセサリーショップに入ると、リュカはショーウインドウのシルバーアクセサリーコーナーへと一直線に進んでいく。

 そしてイルカのシルバーネックレスを迷わず手に取った。

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