第20話 デュエル開始! リュカvsキャサリン

「ねぇねぇヤマト」

「なんだアスナ?」


 今まさにデュエルが始まるというところで、隣に座るアスナがちょいちょいと俺の二の腕をつついてきた。


「姫騎士デュエルって、相手をガードアウトさせたら勝ちなんだよね?」


「例外もあるが、基本的にはそうだな。武具召喚コネクトした姫騎士は、その身体に契約精霊の防御加護をまとう。だけど一定以上の攻撃を受けると、契約精霊が弱って防御加護が一時的に失われてしまう。これがガードアウト状態で、ガードアウトすると即座に負けになる。なんだアスナ、そんなことも知らなかったのかよ」


「はぁ!? それくらい知ってますぅ! せっかくの機会だから、専門家の知見を確認しただけですぅ!」


「お、おう」


「あのセンタースクリーンにあるライフゲージが、防御加護とリアルタイムでリンクしてて、ゼロになったら負けなのも当然知ってますぅ! 世紀の天才アスナちゃんをバカにしないでよね!」


「す、すまん」


 余計な一言を言ってしまったとすぐさま理解した俺は、プリプリと怒るアスナに即座に謝罪した。


 最後の『なんだアスナ、そんなことも知らなかったのかよ』は完全に失言だった。


 俺は失言は少ない方だと思うんだけど、でもアスナとは子供の頃からの付き合いってのもあって、ついポロっと言っちゃうんだよな。


 多分だけど、俺の中でアスナは家族とほとんど同義の、特別なオンリーワンなんだと思う。

 そして俺はその特別な関係の居心地の良さに、どっぷり甘えてしまっているのだ。


 なんてことを頭では分かってはいるんだけど、こればっかりはなかなか治らないんだよなぁ。


 アスナはアスナで基本的にすごく優しい子なのに、俺にだけはズケズケ何でも言ってくるし。

 きっとお互いが相手に甘えていて、この関係はこれからもずっと変わらずに俺とアスナの間で続いていくのだろう。


「ほら、そんなこと言っている間にデュエルが始まるよ。集中して」

「話しかけてきたのはアスナじゃないか……」


「余計なこと言ったのはヤマトでしょ」

「ほんと、ごめんな。この通り」

 俺が両手を合わせて頭を下げると、


「うむ、幼馴染のよしみで特別に許してしんぜよう」

 アスナが『なんか偉そうな感じ」』をかもし出しながら頷いた。


 などと幼馴染みらしい気の置けないグダグタなやり取りをしている内に、デュエルが本格的に始まる。


 まず動いたのはリュカだった。


「フェンリル展開!」


 開始早々、リュカが8枚の羽根を全て解き放つ。

 8枚羽が、まずはリュカの周囲にふよふよと滞空した。


(あら、最初から全部使うんだ? 様子見とかしないの?)


 アスナが俺の耳元に顔を寄せると、ハンドメガホンを作りながら聞いてくる。

 デュエルが始まったら観客の歓声がすごいので、隣に座っていても声が通りづらいからだ。


(最初から飛ばしていく作戦だ。なにせリュカの魔力は実質、無制限。ペース配分も魔力の温存も必要はないからな。基本的には魔力量の圧倒的有利さでゴリ押しする)


 俺もハンドメガホンを作ってアスナに言葉を返す。


(あはは、リュカちゃんはすごいよねぇ。こんな物量作戦、アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクでもできないよ)


(加えてキャサリンの行動分析は、元フレースヴェルグのデュエル・アナリストだった俺がバッチリ仕上げてあるからな。今日に限っては、様子見する必要もまったくない。最初から全力で行く)


(なーる!)

 俺の説明を聞いて、アスナがポンと軽快に手を打った。


 アスナからデュエル・アリーナの2人に視線を戻すと、キャサリンはリュカとの距離を詰めるでもなく、余裕の表情をしながら、リュカが展開したフェンリルを観察していた。


 リュカが接近戦が大の苦手なことを知っているはずなのに、キャサリンはデュエル開始からまったく距離を詰めようとしない。


 思った通り、キャサリンは完全に舐めプモードだな。

 おおかた『その気になればいつでも勝てる』とでも思っているんだろう。

『まずはちょっと実力の差を見せつけてやるか』なんてことも考えていそうだ。


 今のキャサリンの思考が、俺には手に取るように分かった。

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