第6話 リュカの致命的な弱点

「……え? 今、なんて? 気のせいかな? 4部で25戦して1勝24敗とか聞こえたんだけど? ははは、まさかなぁ?」


 徹夜明けだし、疲れてるのかなぁ。


「そのまさかです。私は去年、4部で1勝24敗でした……へっぽこで本当にすみません……」

 リュカがシュンとした顔で、申し訳なさそうにつぶやいた。


「マジか……」

「はい……」

「さすがにそれは想定外だな」


 っと、しまった。

 思わず本音がこぼれ出てしまった。


 でもキャサリンの言葉じゃないが、実際に身体を張って戦うのは姫騎士だ。

 裏方がどれだけ手を尽くしても、それはあくまでサポートに過ぎず、絶対的な能力差は埋めきれない。


 4部で1勝24敗の姫騎士が、トップリーグのゴッド・オブ・ブレイビアで勝つのはハッキリ言って不可能だ。

 逆立ちしたって無理な話だ。


「まぁまぁヤマト。そう言わないでやってくれ。リュカには他の追随を許さない素晴らしい才能があってね。それも世界一の才能なんだ。私はそれに目を付けた」


「素晴らしい才能だって? しかも世界一の?」


「そうさ。リュカは膨大な魔力を持っているんだ」

「膨大って、具体的にはどれくらいなんだ?」


「リミット1万の魔力スカウターがノータイムでカンストする」


「おいおい、そりゃすごいな。トップランクの姫騎士でも魔力量1万なんてまずいないぞ? それこそアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクくらいじゃないか?」


 ちなみにランク2位のキャサリンですら、魔力量は7500前後しかない。

 魔力1万まで測定できる魔力スカウターがノータイムでカンストするのは、ぶっちゃけ故障を疑うレベルだ。


「な、すごいだろう?」


「だけどせないな。それだけの魔力があれば、どんな魔法も使い放題だろ? 4部ならゴリ押しだけで、まず負けないと思うんだけどな? なのになんで1勝24敗なんて成績なんだ?」


「それがまぁ、この子にはそれを補って余りある致命的な弱点があってね」


「というと? そんな稀有けうの才能を相殺してしまうほどの弱点なんて、そうそう思いつかないんだけど」


 それほどの信じられない才能だぞ?


「リュカは壊滅的に運動神経が悪いんだ」

「運動神経が悪い? 姫騎士なのにか?」


 姫騎士はもう全員が全員、運動神経抜群だ。


「すみません。うちは代々、運動が苦手な家系でして……トレーニングはしているのですが、あまり改善せず……」

 リュカがまたまた、しょぼーんとつぶやいた。


「それでも、それだけの魔力量があれば、なんとかなりそうなもんだけどな」


「百聞は一見に如かずだ。せっかくだし今から模擬戦をやってみよう。リュカ、私と軽く手合わせするよ」


「はい、分かりました」


 いきなり模擬戦を始めようとした2人を、俺は苦笑しながら止めに入る。


「おいおい。いくらミューレが元・天才姫騎士とはいえ、さすがにこれだけの才能がある現役姫騎士が相手じゃ、相手にならないだろ。その、病気のこともあるんだしさ」


 俺もそこまで詳しくはないのだが、魔力齟齬は完治しないと言われている。

 ミューレはまだ魔力の生成に問題を抱えているはずだ。

 とても現役姫騎士とデュエルできるとは思えない。


「そこはまぁ、見てもらえれば分かるはずさ」

「そこまで言うなら一度見てみるよ」


 データだけでは分からない物もある。

 実際に戦うところを見せてもらって、損することはない。


 というわけで、俺はミューレとリュカの模擬戦を観戦することになった。


 しかしこの時の俺は、まだ知らなかった。

 致命的であり壊滅的とまで評されるリュカの運動神経が、どれほどヤバイものなのかということを。

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