第7話 もはやこれは運動神経が壊滅的とかいうレベルじゃない。 なにをどうやったら、こんなどんくさいムーブができるんだ。

 俺たちは運動場に出ると、


「防御結界の生成良好。範囲指定チェックOK。いつでも始めてくれていいぞ」


 まずは俺が防御結界の発生装置を操作して、魔法戦闘が周囲に被害を及ばさないように姫騎士デュエル用の防御結界を展開する。


 俺もこの業界は長い。

 機器の使い方くらいはお手のものだ。


「では行きますね、ミューレさん! 武具召喚コネクト! 水龍の角アクアホーン!」

武具召喚コネクト、魔風の刃ブレイズ」


 向かい合った2人がそれぞれ《武具召喚》コネクトをした。


 リュカは水色を基調とした軽鎧に、ショートランスを。

 ミューレは銀と緑の軽鎧に、細身の剣を装着する。


 《武具召喚》コネクトは、魔力の源となる契約精霊との繋がりを強化し、魔力によって生成された武具を召喚するという姫騎士の必須技能だ。


 リュカが水の精霊、ミューレは風の精霊と契約しており、それぞれ水魔法と風魔法を使うことができる。


 さらに《武具召喚》コネクトすることで姫騎士の身体全体を覆う防御加護が展開されるのだが、姫騎士デュエルではこの防御加護が0になると、ガードアウトで敗北となる。


 姫騎士デュエル・マスタールール(統一規則)第1条、『ガードアウトした姫騎士は敗北となる』だ。


「じゃあ行くよリュカ」

「お願いしますミューレさん!」


 2人の戦いが始まった――のだが。

 始まってすぐに、いともあっさりと勝負はついてしまった。

 勝ったのはまさかのミューレだった。


 いてもたってもいられず、俺は戦い終えた2人に駆け寄ると、負けたリュカに矢継ぎ早に質問をした。

 というのも、だ。


「なぁ、リュカ。ちょっと聞いていいか?」

「はい」


「開始早々、何もないところでこけたよな?」

「よし、行くぞと思ったら、いきなりつまづいちゃいました……」


「その後すぐに、ミューレの魔法を回避しようとしてまた、転倒したよな?」

「右足で左足を踏んづけちゃいました……考えながら動こうとすると、よくやっちゃうんですよね……」


「防御しようとしたときに尻餅をついたのは?」

「頑張って受け止めようと思ったら、後ろに体重がかかりすぎちゃって……」


「…………」


「な? リュカは運動神経が壊滅的だと言っただろう?」

「これは、その……想像以上だな。うん、ここまでとは想像していなかった」


 もはやこれは運動神経が壊滅的とかいうレベルじゃない。

 なにをどうやったら、こんなどんくさいムーブができるんだ。


「ううっ、壊滅的な運動音痴で、すみません……」

「まぁ、うん、その……元気出せよ」

「はい……」


 と言いつつも、俺は思わず頭を抱えてしまいそうだった。

 リュカの手前、なんとか堪えた自分を褒めてあげたい。


 でもさ?

 歩くだけでこけるとか、さすがにこれは想定外だろ?


 しかしここで諦めてはしまっては、デュエル・アナリストとしての俺がいる意味がない。


 データを揃え、勝つために創意工夫をこらすのが俺の仕事だ。

 今見せられた衝撃の内容を頭に入れつつ、データから勝ち筋を見つけるんだ。


 俺ならやれる。

 俺ならやれる。

 俺ならやれる……かなぁ???


「と、とりあえずだ。一晩、データを見ながらまずは方針を考えさせてくれないか?」


「開幕戦は3日後だ。それまでになんとか頼むよ」

「……OK」


 無茶言いやがってとは口が裂けても言わない。


「あの、私のせいで本当にすみません……」


「あはは、気にするなって。これが俺の仕事だからな。ってわけでミューレ。まずはリュカの過去のデータをあるだけ全部欲しい。特に実戦の映像が見たいな。今から総ざらいでチェックして、まずはリュカの姫騎士としての特性をより細かく把握したいんだ」


「その意気だ、頼んだよ」

 ミューレが人好きのする笑顔で笑い、


「あの、私、運動はダメダメですけどお料理は得意なので、お昼ご飯と、晩ご飯、それにお夜食に、明日の朝ご飯も全部、気合を入れてご用意しますから!」


 リュカがふんすと気合を入れた。


「リュカの手料理か。それは楽しみだな」

「本当ですか? 一生懸命に頑張りますね!」


 その後、俺はリュカの手料理を合間に頂きつつ――得意というだけあってめちゃくちゃ美味しかった――徹夜でデータのチェックと分析に取りかかった。

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