第11話 幼馴染、アスナ・タチバナ
「おっと悪い。こいつはアスナ・タチバナ。俺の3つ下の幼馴染で、今はここで研究員をやっているんだ」
「ちょっとヤマト、こいつとか言わないでよね。世紀の天才のこのアタシに向かって失礼でしょ」
「はいはい、世紀の天才様にこいつとか言ってすみませんでしたね」
「ヤマトさんの幼馴染なんですか!? しかもブレイビア王立魔法院の研究員だなんて! すごいです!」
「俺と幼馴染だとなにがすごいのかは分からんが、まぁそういうことだ。アスナはめちゃくちゃ勉強ができるんだぞ。学生時代に全国模試で1位を取るくらいに」
「ふふん、テストで100点以外を取ったことがないのが、アタシの自慢よ。100点ハンターのアスナちゃんと言えば、近所で知らない人はいなかったんだから」
「わわっ、そうなんですか? 実は私もそうなんです。勉強だけは得意なんですよ」
「あらそうなんだ。私とは気が合いそうね」
「ですね! 100点同盟です!」
「どんな気の合い方してるんだよ……果てしない疎外感を感じるぞ……」
学生の頃、3歳下のアスナに勉強を見てもらっていた俺には、とても入っていけない気の合い方だ。
俺も頭は悪くないと思うんだけど、アスナはちょっと別格なんだよな。
そしてリュカはアスナの天才仲間。
天才同士、通ずるものがあるらしい。
いやほんと、どんな気の合い方だよ?
「それでヤマト、この子は誰? 見ない顔だけど、パパ活? やめてよね、そういうの。幼馴染のアタシの品位まで下がるでしょ」
「お前は本気で俺を社会的に抹殺したいようだな」
「やーねーもう。ただの冗談じゃない。真に受けちゃって。ウケるー!」
「お前はいつもウケてんな……はぁ、まあいいや。この子はリュカ・フリージア。俺が今いるライトニング・ブリッツっていうチームの姫騎士だ」
「リュカ・フリージアと申します。いつもヤマトさんがお世話になっております」
「あらー、気が合う上に礼儀正しい子ねぇ。アスナ・タチバナよ、よろしくねリュカちゃん」
「よ、よろしくお願いします!」
「あはは、そんなかしこまらなくてもいいってばー。100点仲間同士仲良くしましょ」
ガバっと勢いよく頭を下げたリュカに、アスナが小さな苦笑を返した。
「リュカ。アスナは俺にはあることないことズケズケと言ってくるが、基本的には気のいい奴だから、気を張る必要はないぞ」
「そうよ、酷いことはヤマトにしか言わないから」
「酷いことを言ってる自覚があったのかよ?」
てっきり自覚なく言ってるものだとばかり思っていたんだが?
「言わせるヤマトが悪いのよ。この世紀の天才のアタシに、あまり酷いことを言わせないようにね!」
「へいへい、世紀の天才様にアレコレと言わせちゃってすんませんでしたね」
「ちなみになんだけど、フリージアって、あの天才家系のフリージア?」
「多分、そのフリージアです」
「あらすごい」
「アスナが他人に天才って言うなんて珍しいな。フリージア――リュカの家ってそんなに有名なのか?」
アスナは自分が一番頭がいいと思っているタイプだ。
「研究者でフリージアの名前を知らない人間なんていないわよ。アタシは自分のことを、控えめに言って天才だと思っているんだけど」
「控えめどころか、いつも胸を張って公言しているだろ。意味不明なところで謙遜してるんじゃねーよ」
「うるさいわね。まぁそんなアタシから見ても、フリージアはちょっと別格の天才家系ね」
「へぇ、そりゃすごいな」
「ヤマト、全然すごさが分かってないでしょ」
「いやいや、分かってるっての。アスナと一緒で100点しか取らないんだろ?」
「絶対分かってないでしょ……」
「お二人は仲がいいんですね」
と、俺とアスナがいつもの幼馴染トークをしていると、リュカが妙に真剣な声色で聞いてきた。
「アスナとは小さい頃からの幼馴染みだからな。今でも時々一緒にメシを喰ったり遊んだりする、いわゆる腐れ縁ってやつだ」
「それだけ、ですか?」
「何が聞きたいかイマイチよく分からないんだけど、後はまぁこうして仕事がらみで頼みごとをしたりとかかな? それがどうしたんだ?」
リュカのやつ、急にこんなことを聞いてきてどうしたんだろう?
俺が何とも疑問に思っていると、アスナがまたもや苦笑しながら言った。
「安心して、ヤマトとはただの幼馴染だから」
「そうなんですか?」
「そうよ。ただの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもないわ」
アスナの言葉を聞いて、なぜかリュカがホッとしたような表情を見せた。
「安心って何の話だ?」
「べっつに~? それより今日はいきなり呼び出して何の用? ほとんどフリーターみたいに好きな時間に仕事をできるヤマトと違って、アタシは定時で仕事が始まるから、用事があるならさっさと済ませて欲しいんだけど」
アスナが腕時計をこれみよがしに指差しながら言った。
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