第73話 二重詠唱~カラミティ・インフェルノ・デュオ~

 それは先ほどと同じ、カラミティ・インフェルノの詠唱だった。


 マリーベルは前に突き出した左手で発動中のカラミティ・インフェルノを制御しつつ、天高く掲げた右手を使って、新たに漆黒の炎を生み出し始める。


「これは二重詠唱――ダブル・バインド・チャント!? まさかカラミティ・インフェルノの二重発動をしようというのですか!? ありえません!」


 この事態に、アリッサの顔が驚愕に染まった。


 そう。

 マリーベルは今、カラミティ・インフェルノを1つ発動したまま、さらに重ねてもう一つカラミティ・インフェルノを発動しようとしているのだ!


 リュカに詳しい解説を頼もうと思って横を見てみると、リュカは口を半開きにしながら大きく目を見開いてポカーンとしていた。


 顔からは表情が抜け、完全に無になってしまっている。

 どうやらこの展開にはトップランカーのリュカですら、まったく理解が追い付いていないようだった。


 いや、トップランカーだからこそ、目の前で起こっていることの異常さに声を失っているのか。


「烈火を解き放ち、絶えなき災厄となりて、我が敵を焼き尽くすがいい!煉獄の黒き炎よ、あらがう全てを焼き尽くせ――!」


 そうこうしているうちにもマリーベルは易々と2つ目のカラミティ・インフェルノを完成させてみせた。


「そんなまさか、ローゼンベルクの秘技を2つ同時にコントロールするなんて──フレイム・アローを2つ同時にコントロールするのとは、訳が違うんですよ――」


「あら、知らなかった? こう見えて私、天才なのよね」

 余裕綽々しゃくしゃくでさらりと言ってのけるマリーベルに、


「────」

 アリッサは目を見開いて絶句した。


「さてと、準備は整ったし長引かせるつもりはないわ。サクッと終わらせてあげる。初めての敗北の心構えはできているかしら、アリッサ・カガヤ・ローゼンベルク?」


「そんな、こんなことが──」


「煉獄より舞い降りし、黒き炎の不死鳥よ――! あらがう全てを焼き尽くせ――! カラミティ・インフェルノ・デュオ!」


 2つ目の黒き不死鳥がアリッサに向かって飛び立つ。

 1対1で拮抗していたところを2対1にされてしまい、アリッサの黄金の炎は見る見るうちに漆黒の炎に飲み込まれていった。


「そんな……? わたしが負ける? カガヤの奥義が――ローゼンベルクの悲願が負けるだなんて――」


「そりゃあデュエルなんだから勝ち負けはつくでしょ。それとも自分は絶対に負けないとでも思っていた? あーやだやだ、これだから頭ローゼンベルクは」


「ぁ――ぅ――」


「ま、今日ばっかりは相手が悪かったわね。いい経験になったでしょ? このデュエルは私の勝ち」


「待ってお姉さま! わたしはお姉さまともっと一緒にいたいんです! お姉さまに勝って、同じチームで一緒に戦って――」


 アリッサの切なる叫びを、


「悪いけど、叶わぬ夢ね。だってあなたは負けるんだもの」

 マリーベルは容赦なくシャットアウトした。


 2体の黒き不死鳥が、黄金のドラゴンを飲み込んでゆく。


「待って、待って、お姉さま――」


 そして黒き炎はついには、必死に抵抗しようとありったけの魔力を込めるアリッサをもあっさりと飲み込んだ。


 抵抗空しく吹き飛ばされたアリッサは、会場を覆う結界に叩きつけられ、崩れ落ちる。

 大スクリーンに表示されるアリッサの防御加護が──ここまではノーダメージだ─―瞬時にゼロになった。


 カンカンカンカン!

 ゴングが鳴り響くとともに、


『デュエル・オール・オーバー! デュエル・オール・オーバー! まさかまさかの結末だ! 絶対無敵、必勝不敗の最強王者に初めて土をつけたのはぁぁぁぁぁ! ウィナーぁぁぁ! チーム、ライトニング・ブリッツ所属ぅぅぅ! マリーベルぅぅぅぅ!!!!!』


 盛大なマイクパフォーマンスがマリーベルの勝利を告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る