第79話 人生最高に美味しいラーメン

「さてと、帰るか」


「帰りましょう」

「今日は疲れたけど、最高にいい気分だねー」


「最高にいい気分だよな。なにせあの最強無敵のバーニング・ライガーとアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに、初黒星を付けたんだから」


 これで気分が最高にならないはずがない。

 しかもマリーベルのプライベートな問題も解決しそうな雰囲気ときた。

 まさにパーフェクトな一日だ。


「あ、そうです。明日のスポーツ新聞は全種類買わないとですね」

「ほんとだね。ヤマト、明日は早起きして買っておいてね」


「へいへい」


 そういった面倒くさいサポートをするのは、俺の役目だ。

 リュカたち姫騎士には、気持ちよく戦ってもらわないといけないからな。

 それは巡り巡って「良い結果」となって、俺の実績となって返ってくる。


 マリーベルの抱えていたプライベートな問題には首はツッコめなくとも、そうじゃない「できること」は何でもする。

 それが姫騎士デュエル・アナリストという仕事なのだ。


「っていうかさ」

「なんだアスナ」


「帰る前にご飯行こうよ? ぐっすり寝たらお腹空いたんだよねー」

「あの、ヤマトさん。実を言うと私も少しお腹が減っていまして……」


 アスナの提案に、リュカが申し訳なさそうに小さく手を上げて同意する。

 そうだよな。

 AREを使うほどの激戦と長時間のインタビューをやり遂げたんだから、リュカもお腹が減っているよな。


「実は俺も腹が減っているんだ。ってわけで全会一致でメシに行くか」


「ヤマトの奢り?」

「アスナはそれしか言えんのかい……まぁいいよ。アスナもリュカもギリギリまで頑張ったんんだ。よし、今日は俺の奢りだ!」


「じゃあ例のコービー牛でいい?」

「いいわけないだろ。舐めてんのか? なにナチュラルにあの店に連れて行こうとしやがる。普通のメシ屋に決まっているだろ」


 キレるぞてめぇ。


「あはは、別に言ってみただけだし。イエスだったらラッキーって感じで。言うだけならタダだもんねー」

 アスナが悪びれもなくけらけらと笑う。


「こいつはマジで、なんて図々しい性格をしていやがるんだ……!」

「ヤマトとは幼馴染で、何でも言い合える仲なんだから、主張だけはしておくべきだと思うのよ」


「俺限定かよ」

「え? ヤマト以外にやったら人間性を疑われるじゃん? ウケるー!」


「……リュカ、間違ってもこんな大人にはなるんじゃないぞ。幼馴染だろうがなんだだろうが、俺は人間関係は相手へのリスペクトと、最低限の慎みを己に課すことが大事だと思うんだ」


「ちょっとヤマト、なにが『こんな大人』よ。普段は世紀の大天才アスナちゃんに散々お世話になってるくせに! ねぇリュカちゃん。リュカちゃんもそう思うでしょ? 女の子を都合よく利用するなんて、最低の男よねー」


「えーと、あはは……。どうなんでしょう……ね?」

 俺とアスナから相反する同意を求められたリュカが、困り顔をしながら、とても曖昧に言葉を濁した。


 もちろん俺とアスナは本気で揉めているわけではない。

 昔から変わらない、俺とアスナの幼馴染なやり取りだ。


 それはさておき。

 結局その後は、ラーメン屋に行った。


 俺は普通の醤油ラーメンを。

 リュカは魚貝&鶏のブレンドラーメンを。

 アスナはチャーシューマシマシのガッツリ背油とんこつラーメンを注文する。


「ああ、美味い……」

「美味しいですねぇ……」

「たまんないね……」


 最強の敵を倒した勝利の余韻とともにすする深夜のラーメンは、人生で最高に美味しかった。

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