第80話 ラーメンで、あーん。

 しばらく、人生最高のラーメンを堪能していると。


「ねぇねぇ、リュカちゃん。魚貝&鶏ブレンド、美味しそうだよね? ちょっとだけスープ飲んでみてもいい?」

 アスナがリュカにそんなことを言い出した。


「もちろんいいですよ」

 リュカがアスナの方に丼を寄せると、アスナはスープをレンゲですくって口に入れる。


「ふむふむ。魚貝系って初めて食べたけど、あっさりしていて結構いけるね。リュカちゃんはラーメンはアッサリ派? 私はガッツリ派なんだけど」


「そうですね……特にそうどっちがっていうのはないでしょうか。ガッツリとんこつ系で行くことも多いです」

「へぇ、リュカちゃんって意外と気分屋なんだ」


「普段はそうでもないとは思うんですが、言われてみれば、食事に関しては結構、気分で選ぶことが多いかもです」

「だってさヤマト。リュカちゃんの意外な一面を知っちゃえたよ? よかったね」


 と、なぜかアスナがいやらしくニヤニヤしながら、俺に話を振ってきた。

 なんでコイツ、こんなにニヤついているんだ?

 意味が分からん。

 深夜のハイテンションなのか?


「まぁそうだな。リュカに関してはずっと『真面目で慎重な完璧主義』って性格でフィードバックをしてきたから、少し気分屋なところもあるとなると、今後のデュエルの分析に新しい見地を見出せそうだ」


 石橋を叩いて渡る戦略から、もう少し挑戦的な戦略へと視野を広げてもいいかもしれない。


「なに言ってんだこいつ」

 ニヤついていたアスナが、なぜか今度は真顔になって冷たく言い捨てるように言った。


「お前がなに言ってんだよ。さっきからアスナの態度の意味が分からないんだが」


「はぁ、これだから仕事人間は……。もうヤマトは放っておこーっと。はいリュカちゃん、お返しに今度は私のぶんをどうぞー。こってりしてるけど、くどくは無くて絶妙だよー」


「ありがとうございます。いただきますね」


 何故かダメ出しされてしまった俺が、アスナとリュカが食べさせっこしているのを、なんとはなしに見ていると、


「ヤマトも魚貝スープ飲んでみたら? 美味しかったよ?」


 アスナが俺もその輪の中へと誘ってくる。

 放っておこうと言ったそばから、こうしてまた何事もなかったかのように話しかけてくるのが、アスナのアスナらしいところだと思う。


「いや、俺はいいよ」

「あははー。なにヤマト? 遠慮してるの?」


「そりゃするだろ。男と女なんだし。リュカが嫌がるだろ? 下手したらパワハラだぞ」


 職務の延長にある食事会での振る舞いは、昨今、特に気を付けなければならない項目だ。

 ただでさえ女性上位の姫騎士の世界で男が生きていくには、その辺りのコンプライアンスを徹底して遵守しなければならない。


 そもそもからして俺とリュカじゃ年が10歳ほど違う。

 俺は自分ではまだまだ若者のつもりだが、リュカから見たら俺なんておじさんもいいとこだろう。

 おじさんと食べさせ合いっこしたい女子がいるとは、ちょっと思えない俺だ。


「私はぜんぜん嫌ではありません。むしろウェルカムです!」

「えっと、そう?」

「はい!」


 おおっと?

 力強くうなずかれてしまったぞ……?


「別に空気を悪くしないようにとか、変に気を使わなくてもいいからな?」

 念押しするように聞いてみたものの、


「大丈夫です!」

 リュカの答えは変わらなかった。


 これ以上断り続けると、今度は俺が空気を悪くしてしまいそうだ。

 

「じゃあ一口だけ貰おうかな? 実はカツオ出汁のいい匂いがしてて、美味しそうだなと思っていたんだ」


「はい。ではどうぞ」

 そう言うとリュカはレンゲでスープをすくうと、俺の口元すぐ前へと差し出した。


「……えーと?」


「どうぞ」

「どうぞと言われても……」


「どうぞ」

「……」


「はい、あーん」

「い、いただきます」


 アスナに「はよせーや」みたいな視線を向けられた俺は、リュカに「あーん」してもらって魚貝スープを食べさせてもらった。


「どうですか?」

「美味しかったよ」

「えへへ、良かったです♪」


 美味しかったとは思うんだけど、それよりも恥ずかしさの方が勝っていて、正直あまりしっかりとは美味しさを感じてはいなかった。


 だって、恥ずかしいだろ?

 ぶっちゃけリュカはかなり可愛い。

 しかも顔が可愛いだけじゃなくて、性格もとても可愛らしい。


 俺も男なんで、見た目も性格も可愛い女の子に「あーん」してもらうと、結構ドキッとするんだよ。


 とまぁそんなこんなで、ラーメン祝勝会はつつがなく終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る