第78話「じー…………」×4
「な、なによ……」
マリーベルが無言の圧力に堪えきれないといった様子でつぶやいた。
「じー……」×4(俺、リュカ、アスナ、ミューレ)
「なによぉ……」
「じー……」×4
「…………」
「じー……」×4
「………………」
「じー…………」×4
「…………ああもう! 分かったわ! 謝罪は受け入れるから顔を上げて! そんなんじゃ話もできないでしょ! なんか空気も悪いし! これじゃ私がイジメでもしてるみたいじゃない!」
ついにマリーベルが根負けしたように叫んだ。
ツンツントゲトゲしていても、やっぱりマリーベルは根っこでは優しい子なんだよなぁ。
ふふっ。
「ちょっと、ヤマトさん。なにニヤニヤしているのよ。なんかムカつくんだけど」
「べ、別にニヤニヤなんてしていないぞ?」
おっとと。
つい顔に出てしまったようだ。
「してるし。超してるし」
「してないしてない。完全に気のせいだ」
「してるってば。ぜんぜん気のせいとかじゃないから」
「いやいや、してないしてない」
「してますぅ!」
「そんなこと言われてもなぁ?」
俺がリュカに視線を向けると、
「きゅ、急に言われても……」
リュカは言葉を濁しつつ視線を逸らした。
どちらの味方もしたいけどできない苦渋の選択感がにじみ出ていた。
ちなみにアスナには聞かない。
あいつは絶対にマリーベルの味方をするからな。
――などと、マリーベルが照れ隠しのために俺を口撃してくるのを知らんぷりして受け流していると、ローゼンベルク夫妻がゆっくりと顔を上げた。
ローゼンベルク夫妻と、マリーベルの視線がまっすぐに交錯する。
お互いになんと切り出したものかと迷っているような気配を感じ取った俺は、
「じゃあ俺たちは先に上がるか。アスナ、リュカ、行くぞ」
リュカとアスナに撤収の声をかける。
「そうだねー」
「分かりました」
アスナとリュカがうなずく。
「ちよ、ちょっとヤマトさん」
マリーベルが驚いたように俺を呼ぶが、
「部外者がいたらツッコんだ話はできないだろ? だから俺たちは退散だ」
「で、でも──」
「それとも俺たちがいないと不安か? だったら付いていてやってもいいぞ?」
俺が少し煽るような口調で言うと、
「はぁ? そんなわけないし!」
案の定、マリーベルはムッとした顔で俺を睨んできた。
「だったら問題ないよな」
「ふん、当然だし!」
「じゃあ俺たちは先に帰るな。コービー牛・祝勝会はまた今度ってことで」
俺が部屋を出るために歩き出すと、少し遅れてリュカとアスナも連れだって歩き出す。
ミューレは動かなかった。
当然だ。
ミューレは部外者じゃなくて、むしろ当事者サイドの人間だから。
しかもマリーベルの味方であり、同時に双方の橋渡し役でもある大事なポジションでもある。
ミューレが居てくれれば、少しくらい揉めてもうまく仲裁してくれるだろう。
「マリーベルさん、それではお先です」
「うん、お疲れリュカ。今日は本当にナイスデュエルだったわよ」
「それを言うならマリーベルさんこそナイスデュエルでした」
「ふふっ、ありがと」
リュカが小さく手を振り、
「マリーベルちゃん、あんまりカッカしちゃダメだよ?」
「分かってるってば」
「仲良くね? 仲良くだよ?」
「分かってますー」
アスナが念押しする。
「今日の最後の戦いだ。悔いのないようにな」
俺はアリッサとのデュエル直前にかけたものと、同じ言葉をかけた。
いわゆるゲン
なにせあの最強アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクに勝ったゲンを担ぐんだ。
効果は抜群だろ?
これでご両親との対話もきっと上手くいくに違いない。
そんな俺の意図は、マリーベルにも伝わったようで。
「うん、分かった」
マリーベルはこれまたアリッサとのデュエル直前に答えたそっくりそのままの言葉を返すと、最高の笑顔でうなずいた。
俺はその笑顔を見て、この後の話し合いがいい結末を迎えるであろうことを確信する。
もうこれ以上の長居は無用だな
俺はリュカとアスナとともに、控え室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます