第94話 小悪魔なマリーベル

 そしておそらくは今後、こういうアイドルのような活動も増えていくだろう。

 だが俺はそれが悪いことだとは思わない。


 2人にとっていい人生経験になるだろうし、例えばこのCM撮影ではリュカとマリーベルそれぞれ個人にかなりのお金が入る。

 今のうちにある程度まとめて稼いでおけば、引退後に楽して暮らせる。

 世の中お金が全てじゃないが、お金はあるに越したことはないからな。


 もちろんあくまで2人の本職は姫騎士デュエル。

 俺は今後はそういったサブのお仕事もある程度意識しながら、デュエル・アナリストとして2人のサポートをしていくことになるのだろう。


 いい加減、営業担当を入れて貰わないといけないかもしれないなぁ。


「なかなかいいこと言うじゃん。さすがヤマトさん、人の気持ちをうまく操るのは得意技だもんね」


「いやいや、そんなんじゃないから。心からの本音だっての」

「ほんとかなぁ?」


「ほんとほんと。マリーベルもリュカも最高にいい笑顔だったよ。これならスポンサーは大満足間違いなしだ。たとえ中身がただの水道水でも、2人の魅力で売れるだろうな」


 マリーベルにされなくてもいい勘違いをされるのは、俺にとって百害あって一利なし。

 俺は褒める言葉を重ねる。


「ふふっ、冗談だってば。ヤマトさんってば、すぐに本気にするんだもん。ねー、リュカ」

「えっと。えへへ、どうでしょう?」


 急に話題を振られたリュカが困ったように小さく苦笑する。


「あ、それともそれも計略だったり? 本気にする振りを敢えて見せて、誠実な人をアピールしているとか?」


「いやいや、そんなんじゃないから。マリーベルは俺のことを疑いすぎだ。俺は普段はいたって善人だよ。なぁリュカ?」


「そうですよ。今のヤマトさんは心から私たちを褒めてくれています。私にはそれが分かります!」

「だってさ」


「ま、リュカが言うなら、そういうことにしておいてあげる♪」


 マリーベルはそう言うと、楽しそうに笑った。

 これはあれだな。

 俺のことをからかっていたな。


 アリッサとの大一番に勝利してからのマリーベルは、すっかり俺に心を開いた様子で、なんとも小悪魔な感じで俺に絡んでくることが多くなった。

 子猫がじゃれついてくるみたいで、なんともこそばゆい。


 でもきっとこれがマリーベル本来の性格なんだろうな。


 人間は一人では生きていけない生き物だ。

 ツンツン・トゲトゲ・ハリネズミでいるよりも、子猫のように明るくじゃれついてくる今のマリーベルの方が、俺は絶対にいいと思う。

 純粋に可愛いし。


「この後どうしますか? もう今日の予定は終わりなんですよね?」

 そして俺とマリーベルの話が一段落するのを待っていたのだろう、なんとも奥ゆかしく質問してくるリュカに、


「ねーねー、今から泳いじゃ駄目なの? せっかく温水プールに来たんだから軽くひと泳ぎしたいんだけど」

 マリーベルがプールの方を指差した。


「さっき確認したら、このあと2時間くらいは自由に使っていいらしいぞ」

「ほんと?」


「ウォータースライダーとかのアトラクション設備は、休園日でスタッフがいないから使えないけど、浮き輪とか備品の貸し出しはしてくれるそうだ」


「さすがヤマトさん、細かいところまでバッチリ確認済みとか、相変わらず仕事ができるね~」


 マリーベルが俺の頬を、人差し指でツンツンと軽く突ついてくる。

 完全に泳ぐ気満々の様子だったのだが、俺には大きな気がかりがあった。


「ちなみにリュカって泳げるのか?」

「ビート板につかまっていれば、なんとか浮かんでいられることは可能でしょうか……?」


 つまり無理ということだ。

 つい最近まで逆上がりもできなかったんだから、これはまぁしょうがない。


「じゃあマリーベルが泳いでいる間、俺とリュカは砂浜エリアで遊ぶか」

「いえ。私は見学しているので、ヤマトさんはマリーベルさんと一緒に泳いできてくれて構いませんよ」


 遠慮しいのリュカは当たり前のようにそう言うものの。

 アリッサとのことで最近はマリーベルにかかりっきりだったこともあって、俺としてはここははリュカとの時間を優先しておきたかった。


 俺はリュカとマリーベルの2人のデュエル・アナリスト。

 2人に対して平等に接するべきであり、決してバランスを欠いてはいけないのだ。


 しかし泳いだりといったアクティブな遊びは、リュカにしんどい思いをさせることになる。

 そういうわけなので、俺はリュカにとある提案をした。

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